表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
170/248

二章72話 当然のように聖具置いてある



 俺が座ると、リュドミラも向かい合うように設置されている椅子に座った。

 何となく目のやり場に困り視線を横へ向ける。ふと変な物が目に入った。リュドミラが座っている椅子の隣にある机――サイドテーブルだろうか? それ自体は椅子と同じく質が良さそうな調度品の一つにすぎないのだが……サイドテーブルの上に最近見慣れてきた物が置いてあったのだ。

 たぶん鞭だ。ユリアがいつも持ち歩いているせいで分かってしまう。他にも手錠のような物や、金属が付いている革製の帯のような物が置かれている。


「ふふっ、こちらは聖具です。以前、聖具室にご案内した時にお見せしたモノと同じ――悪魔憑きを管理し、懲罰を与えるためのモノになります」


 リュドミラは俺の視線に気づいたのか、サイドテーブルの上にあった物に関して説明する。


「なるほど……? リュドミラさんのお部屋にもあるんですね」


 なぜ聖具室から持ち出しているんだろうか……? あ、いや、リュドミラの私物という可能性も……? それは、ちょっと嫌だな……いや、まあ同じ聖導師であるユリアが常に鞭を持ち歩いているようだし、そんなにおかしくはないのかもしれないけど。


「普段は全て聖具室に置いてあるのですが、時々手入れをする必要があるのです。聖堂に所属している聖導師は、その聖堂内にある聖具の管理も担当しますから」


「ああ、そういうことでしたか。ということは、そこに置いてあるのは手入れ中ということですか」


 これで、『いえ、これは手入れ中のモノではなく私物になります』とか言われたらどうしよう……


「ええ。聖具室で手入れをしても良いのですが、ご存知の通り、あの部屋には窓もありませんから。ずっと居たら滅入ってしまいます。この部屋ならば外の景色を見ながら手入れもできますので。ふふっ、月明かりの下で聖具を手入れするのは、私の楽しみの一つなのです」


 なるほど……? 確かに、あの部屋にずっといるのは気分が悪そうだ。そういう意味ではこの部屋で手入れをするというのは理解できる。月明かりが良いというのも気持ち的に何となくわかる。夜ってテンション上がるし。あと、何となくだが、月光とリュドミラの美しい銀髪はきっと相性が良いだろうな、と思った。


「楽しみの……なるほど。確かに、この辺りは夜の景色も綺麗ですし……特にこの部屋からは眺めも良さそうですね」


 ただ、聖具の手入れが楽しみなのか……少し変わっているような。あ、いや、単に月明かりの下で行う作業が好きなだけかもしれない。たとえ、それが拷問具や拘束具の手入れだったとしても。


「はい、カイ様の仰るように、ここからの眺めはとても綺麗です。もし機会があれば、カイ様と一緒に時間を過ごしたいほどに……ふふっ、ですからご安心下さい。私も常に聖具を持ち歩いているわけではありませんので」


 リュドミラに『一緒に過ごしたい』と言われ一瞬頭がくらりとするが、すぐにその後の言葉に驚き肩に力が入りそうになる。どうやら、『リュドミラが聖具を私室に置いているのを、俺が不安視している事』にリュドミラは気付いていたようだ。


「はい、その、すみません。聖具はどれも、何と言うか、迫力がありますから……つい気になってしまって」


 じっとこちらを見るリュドミラに耐えかねて、言い訳みたいな言葉が出てしまう。


「いえいえ、構いません。フジガサキ様は穏やかな方ですから、こういったモノに不安を感じられるのも十分に理解しております」


 ……じゃあ、なんで前、聖具室に連れて行ったんだ……? あ、いや? 連れて行った時は知らなくて、聖具室に入った時の俺の反応から良くないと思うようになったのか……? そして、今は偶然置いてあったから、話題になってしまった感じだろうか……?


「ええっと、まあ、その、信仰に関わる物ですから……聖導師の方が普段から持ち歩いていてもおかしくはないと思っています。あ、でも、あまり持ち歩く方は基本的にはいないんですよね。基本は聖具室に置かれている感じですよね」


 俺の言葉を聞くと、なぜかリュドミラは笑みを濃くした。


「聖導師の中には、悪魔憑きを狩ることを専門とする者がいると聞いたことがあります。そういった聖導師は、きっと普段から持ち歩いているかと思います」


 そこまで言うと、リュドミラはサイドテーブルの上にある鞭を手に取った。禍々しい物のはずだが、なぜだかユリアが持つ物よりは安全そうに見えてしまった。なぜだろう? 単に俺がユリアに対して警戒しているからだろうか。


「他にも『鞭』に関して言えば、悪魔憑き以外にも――例えば魔獣相手にも使うことはありますので、導師ユリアのように遺跡で活動する聖導師の中には持ち歩く者も多いかと思います」


 ユリアが鞭を使っているのは珍しいと思っていたが、遺跡で活動する聖導師は皆そうなのだろうか。あ、いや、そういえば……うろ覚えだが、ユリアの師匠が鞭を使っていたみたいな話を、誰かがしたような……マリエッタだっただろうか?


「聖導師の方はよく鞭を使うんですか? あ、その、武器として使いにくそうに見えますが。剣とかの方が……あ、いや、刃物は持ってはいけなかったりしますか……?」


 なんか宗教の人って刃物を持たないみたいなイメージがあるが……あ、いや、そんなことないか。よく考えたら教会関係者のルティナが剣を持っていたな。そうすると、刃物を持ってはいけないわけではないか。だとすると、やはり剣とか槍とかの方が良さそうだが……


「? いえ、聖導師が刃物を持ってはいけないという決まりはありません。『鞭』はカテナ教において聖具として扱われているのです。伝統と歴史、数百年にも及ぶ積み重ねがあります。そして、教義的な理由だけではありません。数百年の間、聖導師が扱う鞭は特殊な進化を重ねています。鞭の製法、鞭術、そして聖なる術との組み合わせ――これらが合わさり、実利としても、聖導師にとてもよく合う武器なのです。私は武器の扱いは得意ではありませんが、それでも、もし使うとするならば鞭を使うでしょう」


 なるほど……聖導師にとっては刃物よりも良い武器のようだ。だからユリアはあんなに鞭に拘ったのか。

 一方で、鞭を馬鹿にしていたホフナーは当然聖導師の事を全然知らないわけで……ヒストガ王国を逃亡先に選んだのは、やはり正しい選択だったな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ