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一章16話 異世界四日目 朝のギルド


 窓から差し込む光の眩しさを感じながら目が覚めた。異世界四日目の朝である。

 眠気を払い、今日やる事を思い出す。ギルドに行って様子の確認、昇級の話、それと情報収集と探索準備だ。まずは朝のギルドの様子を確認したい。多くの探索者が遺跡活動を始める朝にギルドがどのような状況になっているかをこの目で確認したいのだ。それから自分の『感覚』の情報収集だ。あとは、探索のための準備だが……これはまだ自分の中でもはっきりと形があるわけでもないので、ギルドの様子なども窺った上で決めよう。

 いつも通りに朝食をすませる。相変わらずこの宿屋の朝食は美味しい。パンとスープにソーセージと品目自体は特殊なものは無いが、素材そのものが美味しく、さらに味付けも繊細に感じる。高い宿だけあるというべきだろうか。うーん、食事に関しては、もしかしたら転移前よりも旨いものを食べているかもしれないな。


 朝食後は探索用の装備一式を着込みギルドへと向かう。今日は探索する予定は無いが、まあ、遺跡に潜るための装備は探索者の正装みたいな雰囲気あるし、ギルドに行くならこれで良いだろう。てくてくと歩いて行き、何事もなくギルドについたが、ホールに入った途端、喧騒が耳に入ってきた。


「7、8、9層群生地巡回パーティーメンバー募集中だ! 条件は単独でソロ5層記録保有者か、パーティー7層到達者だ! もちろんギルドの記録の方だぞ! あと10キロ担いで戦闘できるやつは優先して取る! 今はBランクの前衛と後衛が1人ずつ、他前衛2人がいる。取り分は要相談!!」

「5層の門番狩りやりますー! あと2人募集、できれば前衛後衛1人ずつですー。魔術師様大歓迎! あと20分で出発予定なのでお早目にー!」

「14層! 『ジキラルド結晶』狙いだ! 魔術師が一人バックレたから代わりを臨時募集中! 条件は氷か風の系統で3等級以上の使い手だ! 報酬は売上の2割だ!」

「17層、17層行きますー。トーライト鉱石掘りますー。あと専門の堀役1人と護衛2人まで募集中でーす! 当方、聖従士さんがいますのでーご安心くださいー! 死にません! 死にませんので、参加お願いします。あ、そこの方! 輸送担当も募集中です! どうですか? あ、あ、あ、無言で逃げるな、無言で!」


 なかなかの賑わいだ。賑わいの度合としては、昨日の昼組や夕方組の帰還時よりも騒がしく、『紅蓮の殺戮者』のお祭りよりは騒がしくないといった感じた。

 主にパーティーメンバーの募集が多いようだ。というか、パーティーって、ずっと同じで組むんじゃなく、こんな風に日雇いみたいな要素もあるんだな。

 俺が感心していると、騒がしく賑わうホールの中をひと際大きな声が貫いた。


「クリスク依頼担当です!! 今からギルドからの依頼の張り出しを行います、押さないでください! それと、揉み合いにならないようにお願いします! 複数のパーティーからお引き受けの話があった場合は、適性度合が高いパーティーを優先しますので、どうぞよろしくお願いいたします!!」


 ギルド職員らしき男がそう言いながら、喧噪をかき分け、沢山の紙を掲示板のようなところに張り出していった。そして張り出したそばから紙が探索者たちによって引きはがされていく。

 あれが依頼か。凄い人気のようだ。自分がやることは無さそうだが、あそこまで人気だと、どんなものか気になってしまう。なんとかして見れないかと掲示板に近づいたり、背伸びをしたりしたが、俺が近くまで行ったときには全ての依頼は引き剝がされていた。

 少し残念に思っていると、喧騒の中からこちらにも声が飛んできた。


「そこの人! どうですか。17層のトーライト鉱石掘ります! 輸送担当募集中です! 報酬も弾みますよ!」


 見ると、先ほどから大声を出している男がこちらを見ていた。俺と目が合うと、男は笑顔を作り、さらに語りかけてきた。

「トーライト鉱石! このくらいの大きさでも、ギルドだと金貨1枚で売れるんですよ! 僕たち、17層からそれを丸ごと引っ張り上げて来るんです! いっつも人が足りなくて、困ってるんですよ! いや! ホント! 来るだけで皆儲かるって、もう有名なんですよ! 僕たち! どうです! 一緒に稼ぎませんか!!」


 おお……凄い熱量だ。ちょっと引いてしまった。


「え、あ、いや」


 俺の曖昧な返事を聞くと、男はさらに大きな声を出し、二歩こちらに近づいてきた。


「ん? ん? ん! や、や、やる? 今やるって言った? やりましょうか! 一緒に稼ぎましょうか! 今日だけで金貨30枚は稼げますよ! これはもうやるしかないですね!!!」


 言ってない……というか、話をしていて思い出したんだが、17層のトーライト鉱石って確か死者多発地帯じゃん。絶対行きたくない。


「あ、いや、すみません、やりません。また今度」


 そう言って、素早く立ち去ると、背後から「大丈夫です! 聖従士がいます! 死にません! 死にません! 戻ってきてー!」という叫び声が聞こえてきた。気付かないふりをして、人込みに紛れることにした。ふー、ちょっと怖かったな。

 気を取り直して、ギルドを見て回る。どこもかしこも人だらけだ。ギルドホールの形状が声を響きやすいからか、色々な人たちの声がギルド内を行き交っていた。

 しばらくして、9時を超えたあたりで人が減り始め、喧騒も徐々に収まっていった。皆遺跡へと潜りに行ったようだ。9時半になると、あれほど賑わったホールが嘘のように静寂さを取り戻していた。

 そうして10時を迎えたあたりで、ギルド職員が俺の方へと近づいてきた。


「フジガサキ様。お待たせしました。ランク昇級の件、別室で執り行う事になっております。ご案内いたしますので、どうぞ、こちらにお越しください」


 言葉に従い、職員の後に付いていく。ホールから少し歩いたところにある部屋の扉の前まで来たところで、職員が扉をノックし、中から返事が聞こえると、扉を開けた。そうして、俺に中に入るように促した。


「失礼します」


 挨拶の仕方に悩んだが、面接みたいなものだと思い、頭を下げて入ることにした。案内の職員はここまでの役割だったのか、俺が入ると、室内には入らず扉を閉めた。中には三人の男女が直立して待っていた。

 さて、昇級のお話を聞きますか……難しい試験とか無ければよいのだが。


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