二章70話 ホフナー作戦
それから、俺とホフナーは明日の段取りについて話し合った。笑顔を浮かべるホフナーと話しながら、ふと今回の計画について考えを巡らす。
俺がリデッサス遺跡街を脱出するにあたって必要な準備は四つあった。それは脱出のための計画、冬の移動に必要なものの確保、移動手段の確保、そして計画実行時に伴う危険の排除だ。
一つ目の計画は昨日立てた。東の国、ヒストガ王国に入り街道を使い大陸の東へ向かう。そこから先はまだ未定だが、最終的にはカテナ教の影響力が低い場所に向かうことになるだろう。
二つ目と三つ目の旅の準備は今日終わった。ホフナーという盾を使いフェムトホープのマークから外れることで、達成することができた。
そして四つ目の危険の排除――これがホフナーと遺跡に潜ることに関係している。まず単純にホフナーと一緒にいればフェムトホープのマークが外れる可能性が高いという期待だ。馬車に乗って逃げる直前までホフナーと一緒に行動したいのだ。
まあ、これだけだとわざわざ遺跡に潜る必要性は薄いのだが……俺はついでに攪乱しておきたいのだ。俺の『感覚』を使えば、ホフナーは莫大な富と名声が得られるだろう。おそらくギルド、場合によっては遺跡街全体で少なからず混乱が発生するだろう。お祭り状態みたいになれば、高飛びするときに群衆に紛れやすく逃げやすいのではないかと思うのだ。
それと、ユリアにはホフナーと何日か組むと話す予定なので、俺が実際にホフナーと一回でも組んだことを知れば、ユリアは『俺がしばらくホフナーと組むのでどこかへ消える心配はない』と思い数日間俺に対する警戒が薄れるのではないかと期待している。
挑戦的だが悪くない計画なのではないかと思っている。なお、遺跡で入手するものに関しては全てホフナーに渡すことになると思う。というか、そうしないと名声が俺の方にも付きそうなので、ホフナーに全て押し付けたいところだ。
ホフナーはクランを作りたいとかいう妄言を垂れていたので、彼女のとってもメリットはあるだろう。
まあ、逃走資金が欲しいので、ほんの少しの分け前を貰おうとは思っているが――そう、逃走資金の確保という意味でもこの計画は重要だ。今でも大金を持っているが、逃げている最中に遺跡で補充するのは難しい気がするのでもう少し欲しい。
ただ、俺が大金を手にしたことは基本的に他の人は知らなくて良いので、誰にも知られずに大金が欲しい。そこでホフナーだ。ホフナーに素材の売却を全て任せ、その一割くらいを俺の取り分として貰えないかと考えている。こうすれば、俺の危険性は上げずに俺が金を得ることができる。まあ、ホフナーには知られてしまうが、そこはしょうがないだろう。
この計画では、『感覚』がホフナーにも露見する恐れがあるが、これはそこまで問題ではないと考えている。理由は三つある。
一つ目、これが最も大きな理由だが、ホフナーはそもそも俺の事を『勘が良い探索者』だと思っている。実際、『感覚』はそう誤解させることができると思う。つまり、何を見つけても、『勘』でゴリ押ししようと思っているのだ。
二つ目は組む期間だ。どうせ一日しか組まないのだから、そこまで問題にはならないという発想だ。何回も『感覚』を見せたら怪しまれるかもしれないが、一日程度ならば誤魔化せるだろう。
そして最後の理由だが、仮にホフナーに露見したとしても、ある意味『今更なのではないか』という考え方だ。
『感覚』を隠す本来の理由は安全のためだ。周囲に『感覚』が露見すると危険だと思ったからだ。しかし今の状況は『感覚』が露見していないのに、まるで露見したかのような危険にさらされている。ならばホフナーの前で使うことはそこまで問題でもない。というか、もう問題が起こっているのだから、そこのリスクは逆に少なくなっているのだ。
勿論、ユリアに露見している事と、ホフナーに露見している事は意味が違うし、俺が特殊な能力を持っている事を知る人間は少ない方がいい。なので、先程の一つ目と二つ目の理由で挙げたように、ホフナーと探索をするときは『感覚』についての詳細は話さず、『勘』で探ったかのように演じることになるだろう。そして、二度とホフナーとは一緒に探索しないようにする必要があるだろう。まあ、そもそも逃走生活に入るのだから、二度とホフナーに会うことはないだろうが。
長くなったが、明日行う遺跡探索の背景はこのような所にあるのだ。考えているうちに、ホフナーとの打ち合わせも概ね終わり、雑談タイム――つまりホフナーをヨイショする時間になっている。これ以上は時間の無駄だし、切り上げることにしよう。さらばホフナー、明日一緒に探索しよう。そして二度と会うことはないだろう。




