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二章69話 待ちわびた瞬間


「ん? そうだけど。てか、それ以外は無いでしょ。街道があるのに街道通らないとか……まあ、盗みとかやるなら街道使わない手もあるけど」


「確かにそうですね……ちなみに、ミーフェさんが使ったのは南側の街道ですか? それとも中央の街道ですか?」


「真ん中のやつ。ん? 何? カイもヒストガに行ったことあるの?」


「……いえ、無いです。ただ、まあ、何となくですが、近くの国とかのことは調べていて……将来クランで活動するときとかにも役に立つかもしれませんし」


 ホフナーのクランで活動するとは言っていない。まあ、ホフナー以外のクランに入るのも想像できないけど。


「うん、まあ、ちゃんと考えておくのは悪くないよ。副首領としての心構えは悪くないかな。まあ、でもずっと副首領でいられるかは分からないから。カイが頑張ってるみたいだから、ミーフェもある程度は考えてやってもいいけど、もっと『使える』やつが入ったら、その時は副首領交代だから」


 その地位に興味は無いので、安心してほしい。

 それよりも気になることがある。中部の街道を使って来たということは、ホフナーはヒストガ王国の中部出身なのだろうか。もしそうだとすると……結構嬉しい情報だ。個人的にはホフナーはヒストガの北部か中部の出身であって欲しいという思いがあるのだ。


「ありがとうございます。ところで、ミーフェさんは中部の街道を使ったということは、ミーフェさんはヒストガ王国の中部出身なのでしょうか?」


「……ミーフェは北の方出身だけど。何? 悪いの?」


 俺の質問が気に食わなかったからか、急にホフナーは不機嫌そうな声を出した。ありゃ、良くない感じの質問だったか。出身地にコンプレックスでもあるのだろうか。それとも単に、俺が根掘り葉掘り聞きすぎたから、不機嫌なのだろうか。


「いえ……先ほどの寒い所の人柄の話を思い出して、ミーフェさんは中部なのか北部なのか気になってしまって。やはりミーフェさんは北部の人なんだなと思いました。ご不快な思いをさせてしまったのでしたら、すみません」


 適当な言葉を口にしつつも、ホフナーの出身地について考察する。

 ホフナーは、ヒストガ王国の北部出身で、中部の街道を使ってリデッサス遺跡街まで来たということだ。個人的には、かなり良い情報だ。

 なぜこれが良い情報なのかと言うと、ホフナーが聖導師や聖女、ひいては教会組織を低く見ている事が関係している。

 これは本来、異常な事だと思う。まあ『ホフナーが異常な人物だから』で片づけられる事なのかもしれないが、個人的には別の理由があるのではないかと思っている。つまりホフナーは強いはずの聖導師を低く見るのは、情報量の問題なのではないかと思うのだ。これは俺の推測になるのだが、ホフナーの出身地や移動経路ではカテナ教の影響力や知名度がかなり低いのではないだろうか? 故にホフナーは、よく知らない聖導師や教会を低く見ているのだ。 


 この考察が合っていれば、それは素晴らしい事だ。ヒストガ王国にも教会とかは所々あるようだが、それでもミトラ王国よりは遥かに聖導師の権威が弱いだろう。事前の情報としてヒストガ王国はカテナ教の影響力が低い事は知っていたが、やはり現地の人の知識は大きい。

 正直、ホフナーの情報がとても貴重になってきた。あと一日で使い切りになるのが惜しいほどだ……ホフナーと一緒に高飛びするか? いや、それはないな。流石に面倒すぎるし、それに、対教会路線を考えると、俺と一緒にいるとホフナーも危険だろう。ホフナーを肉盾にするという案も無いことは無いが、あまりに非道徳的すぎる気がするので止めておこう。


「まあいいよ。ミーフェ器デカいから、いちいち気にしてないから」


「はい! ありがとうございます!」


 そうして、その後もホフナーの話の相手を適当にした後、朝飯代わりにビスケットと干し肉を食べた。ホフナーが出してくれたのだ。味は普通だった。外で食べても良かったのだが、ホフナーが部屋で食べたそうな雰囲気を出していたので、その流れに乗った形だ。

 朝飯後に、ホフナーと一緒に街へと出た。


 ホフナーから色々とアドバイスを受け、冬用の旅道具を街で買っていった。一応、こっそりと尾行されたいないか確かめたが、分からなかった。ホフナーにもそれとなく尾行について尋ねたが、「されていない」という回答を得た。ホフナーは俺よりも鋭いと思うのである程度は信用できると思う。

 まあ、それでも一応念のため、冬用の道具を買う際は、遠くから見ればホフナーの荷物持ちに見えるように振る舞った。なお、ホフナーが十人単位で冬用の道具を買おうとしていたのは止めておいた。なんか悪い気がしたためだ。適当な理由を作り、とりあえず、俺の分だけ、俺の金で買った。使い勝手を見て、その結果をホフナーに報告するように努力するとは伝えておいた。あくまで努力するだ。


 高飛び用の道具を一通り揃えた後は、一度ギルドに寄った。タイミングを見計らって、こっそりと明日の馬車の予約をした。高飛び用の片道チケットだ。なお、この際、ホフナーに気付かれないように、彼女に適当な雑事を押し付けた。『クランの為』とか言えば、何でもやってくれる気がするな……


 ギルドで用事を済ませた後は、昼飯を買ってホフナーの部屋に戻った。外で食べても良かったのだが、ホフナーがなぜか嫌がり、露店で売っていた軽食を買い、ホフナーの部屋で食べることになった。

 朝と同じだ。今は外食が嫌な気持ちなのかもしれない。ホフナーと一緒に昼飯を食べた後は、クラン会議を行った。

 まあ、会議と言っても、ホフナーが機嫌よく『偉大なクラン』について語るので、俺が適当にヨイショするだけだ。ヨイショ、ヨイショ、ヨイショと持ち上げ、一時間くらいが経過したあと、俺は、本日最後の目標を達成するために口を開いた。


「ミーフェさん。お話したいことがあるのですが、よろしいですか?」


「ん? 何?」


 先ほどからずっとヨイショしていたので、機嫌が良さそうだ。これならいけそうか……?


「ミーフェさん、もしよろしければ、正式にパーティーを組みませんか。そして、もし叶うならば、一緒に遺跡に潜ることはできないでしょうか?」


 タイミング的に悪くないと思う。もう高飛び用の準備は殆ど終わっている。もしホフナーに拒否されたり、交渉がこじれてホフナーが駄々をこねるようになっても問題は無い……冬の道具の確保と馬車の予約をフェムトホープに察知されずに行うことが今日の目標であり、また今回の脱出計画の根幹なのだから。既に目標は達したのだ。今からやるのは、追加点の確保だ。

 まあ、明日の馬車に乗り込む前にフェムトホープのマークを解きたいので、どういう結果になろうとも明日まではホフナーと付き合うことになるだろうが。


「……えっ?」


 ホフナーは驚いた顔で俺を見た。


「ミーフェと遺跡に潜りたいの? 本当に?」


 時間の経過とともに、驚いたような顔から、嬉しそうな顔へと変わっていく。なんか、少しだけ申し訳ないような気持ちになる。


「はい、本当です」


 俺の言葉を聞くと、ホフナーはとても嬉しそうな表情をして、そしてすぐにハッとしたような顔つきになって、急に不機嫌そうな顔を作った。


「まあ、一緒に潜ってやっても、いいっていうか」


 ここはゴリ押しだな……


「ありがとうございます!」


 頭を下げてホフナーに言葉を投げつける。するとホフナーは当然とばかりに大きな顔をした。


「ん……まあ、そろそろ、ミーフェも遺跡に潜ろうと思ってたし、カイも連れて行ってやろうと思ってたから、丁度いいかな」


 横柄な風を装うが、頬が緩んでいる。とても嬉しそうだ。なんだか、悪い事をしてしまっている気がする。いや、勿論、ホフナーと一回だけ組みたいという気持ちは本当なのだ。嘘偽りない。ただ、二回目はきっと無いだろう。でもホフナーは俺との関係をたぶん二回目以降も期待しているのだろう。すまない。


「ありがとうございます。ミーフェさん。それと、急な話で申し訳ないのですが……もしミーフェさんがよろしければ明日から早速組むことはできませんか?」


 最も重要な事項を口にする。明日組めないのならば、意味はない。


「はぁ~、パーティーのリーダーはミーフェなんだけど? カイは分かってないなー」


 ホフナーはベッドの上から床に座る俺を見下ろす。彼女の頬は緩みっぱなしだ。


「すみません、ミーフェさん。ただ、できれば早めに一度組みたくて……その、色々とミーフェさんから学びたくて」


 できるだけ誠心誠意な雰囲気を出すように心がける。


「はぁー、しょうがないなー。明日一緒に遺跡に潜ってあげるよ」


 にこにこと笑うホフナーは妙に可愛らしくて、『もっと素直で分かりやすく優しい性格だったら、パーティーメンバーには困らなかっただろうな』と思ってしまった。


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