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二章63話 発覚


「マリエッタさんって、そういう杖を使うんですね」


「うん? ああ! これね、これね! 結構良い杖なんだよね!」


「なるほど……そういえば、杖を持っているのを初めて見た気がします。いつもは持ってなかったですよね。今日は遺跡とかに潜る予定なんですか?」


 ゆったりと、できる限り自然な風を装いマリエッタに問いかける。


「ああ、それはカイさんが――! あ! これ言っちゃダメなやつだった!」


 そこで、マリエッタは自分の口を押さえるが、数秒ほどして、またしても口を開いた。


「まあいっか! どうせ違うし! 実は皆武装してるのはさ! カイさんがいるからなんだよね!」


 そして、力強く口に出された言葉が、妙に耳に残った。


――俺がいるから、か。


 じわりじわりと変な予感のようなものが頭に迫ってきた気がした。


「あれ? すみません? 何かありましたっけ?」


「いやいや! 何だっけな。これ説明すると長いんだけど! いい?」


「ええ、できれば聞きたいです。なんだか自分のせいで皆さんに武装させてしまっているようなら悪い気がしますし」


「そんなに気にしなくていいよ! こっちが勝手にやってるだけだし! えっと、それで、あー! どこから説明すればいいんだっけ……確か、そうだ! 悪魔憑きだ! カイさんは悪魔憑きって知ってる?」


 悪魔憑き。先日、リュドミラに教えてもらった概念だ。

 ただ、今はそれだけではない。マリエッタの発言、武装、フェムトホープの態度、ユリアの態度、何かが繋がった気がした。


「……あまり聞かないですね。あ、でも、どこかで聞いた覚えがありますが……どこだったか、確か、ユリアさん、だったかな……?」


 緊張を隠しつつ、慎重に、それでいて自然な態度で言葉を舌に乗せる。


「ああ! なんだ、なんだ! ユリアも話してたか! なら言っていいやつだ! ほら、何か悪魔憑きって特別な力があるらしいんだよね。それでカイさんがそうなんじゃないかってユリアは思ってるんだよ! カイさんは凄い探索者だからきっと誤解されてるんだね!」


 悪魔憑き――! それにユリア! やはりか。ここまでは何となく思っていた。しかし特別な力とは何だ。これは今までに無かった気が――あれ? え? もしかして……


「特別な力ですか……そういった物はあまり無いとは思いますが、ユリアさんはそう思ってると。ちなみに、悪魔憑きの特別な力ってどんなものなんですか?」


 気付いてしまった自分の心を隠すようにマリエッタに問いかける。心臓の音がマリエッタに届いていないか不安になる。


「いや! 私もその辺はよく知らない! でもなんか凄い力が使えるんだって。魔術とは違ってコストがかからない凄い術!」


「コストがかからない術……」


 心当たりしかない。俺の『感覚』だ。ああ、そういうことか……


「そう! これだけ言うと聖なる術に似てるよね! あっ! 今のここだけの秘密ね! 前ユリアに言ったら凄い怒られて、鞭で打たれそうになったから! だから! まあ聖なる術以外でコストなしで使える術のことを言うんじゃないかな!」


 マリエッタの言葉を聞きながらも、頭の中は思考の渦で満たされていた。

 何だか全てが繋がった気がする。そうか、そういうことだったのか。ユリアは、いつも俺のことをじっと見ていた。そしてユリアはクリスクにいた時、特別な術や魔術の本を探す俺をずっと手伝っていた。あの時も俺をじっと見ていた。クリスクにいる時、何度も所在を確認された。リデッサスに行くときには驚かれた。そして今、彼女はわざわざリデッサスに来ている。

 俺はたぶんユリアに最初から疑われていた。そして、今も疑われている。さらに言うと、その疑いは正しい可能性が高い。


「そんな術があるとは……」


 マリエッタに言葉を返しながらも、内心では強い衝撃を感じる。駄目だ。胸が苦しい。


「そうそう! ちょっと便利そうだだけど、教会に睨まれるから持ってると大変だね! 確か、悪魔の術とか言われるのかな!」


 二つの苦しさが俺を締め付ける。

 一つ目は、今までのユリアの不思議な態度を理解してしまったことだ。彼女は俺に対して好意的だったのではなく疑惑を持っていただけだったのだ。好ましいと思っていたのは俺だけだったようだ。その事が少し苦しい。悪魔憑きの扱いは知っている。この前、聞いたばかりだ。だから、俺とユリアはきっと一緒にはいられないだろう。

 そして、二つ目は、リュドミラのことだ。彼女もまた聖女、聖導師だ。故に悪魔憑きとは敵対関係にある。俺が悪魔憑きだとするのならば、リュドミラと一緒にはいられないのだろう。その事が苦しい。


「しかし、自分が疑われているというのは驚きです。持ってないことを証明するのは難しいですよね……」


 言葉にしながらも、俺が悪魔憑きでない可能性は無いだろうかと考える。……いや『感覚』は悪魔憑きの能力のような気がする。特徴に当てはまっているし、違うと言うのは難しいだろう。いや、だが、幸いにも、俺の持っている『感覚』については、まだ誰にも教えていない。バレなければ何とかなったりはしないだろうか……


「そこは簡単らしいよ! なんか判定用の器具があるらしいから!」


――忘れた! そうだ! それがあった。不味いな……いや、勿論、その器具を使うことで、俺が悪魔憑きではないことの証明になる可能性もあるが、もし悪魔憑きであることの証明になってしまったら危険すぎる。ユリアが目の前にいて、彼女が襲いかかってきたら逃げられないだろう。基本的に、判定具を使われるような状況になるのは危険だ。まあ、俺だけ判定具をこっそり使う方法でもあれば別だが。


「そういったものもあるんですね」


「ある、ある! 今、ユリアがあの聖女? みたいな人から借りようとしてて! なんかもうすぐ借りられるらしいよ! そしたら、一安心だね!」


 え、ちょ、嘘、あ、そっか、そういうことか……不味いな。もうだいぶ追い込まれるぞ。ユリアがリュドミラから判定具を借りたら終わりだ。俺は聖具室に送られることになる。

 いや、まあ百に一つか千に一つくらいの確率で、悪魔憑きではないというケースも考えられる。そしたら確かに一安心だが……そうでなかった場合が最悪すぎる。これは、何とかして対策を練らねばならない。


「確かに、一安心ですね。疑われている状況というのは、疑われる方も疑う方も大変ですから」


 とりあえず、高飛びか? ちょうどホフナーの件もある。高飛びが安定な気がする。ユリアに気付かれぬように隙を突いて高飛びしよう。


「いや! カイさん! なんか悪いね! ユリアは真面目だから、こう熱が入ると一直線でね。ルティナもそうだけど、信仰心が強いからかな? なんか温度差あるんだよね! まあでもカイさんが怒って無くて、よかったよかった!」


 問題は逃亡先だ。ホフナーの対処を考えていた時はクリスクに逃げようと考えていたが……あそこはユリアと出会った場所だし、それにスイもいる。スイも聖導師だ。そうか、スイとももう会えないのか……いや、割り切ろう。聖具室行きは絶対嫌だ。とすると、クリスクは駄目だ。別の場所がいい。


「ああ、いえいえ、全然怒ったりしないですよ。ユリアさんにも事情がありますから」


 どこか別の場所――聖導師が少ない場所だろうか? そうすると理想はカテナ教の勢力圏外だが……そうだ! 『巡礼地図』だ! あれを読み返そう。カテナ教の影響力が少ないところに行こう。いや、待てよ……それって結構遠いよな。とりあえず、直近ではユリアが追ってこれなそうなところか?


「やっぱりカイさんは良い人だね! これが終わったら『フェムトホープ』に入らない? カイさんとなら良い酒が飲めそうだし!」


 いや、そもそも俺が高飛びしたらユリアは追ってくるのか? 諦めたりは……しないな。そもそも、ユリアはわざわざリデッサスまで来たのだ。彼女が来たのは明らかに俺を追っているからだろう。これはフェムトホープが遺跡で活動していないことや、再会した時の態度、それに普段からフェムトホープのメンバーが誰かしら俺に付いていることからも明らかだ。ユリアは追いかけてくる少女なのだ。

 というか、これは偶然だが、ユリアから見たら、俺がクリスクからリデッサスに移ったのは逃げたように見えないか? そうすると、今も逃走は警戒されている気がする。逃走対策とかされていたらどうしよう……?


「お気持ちは凄く嬉しいのですが、酒が飲めないものでして」


 とりあえず、今日は宿に戻るか? 今までの行動からしてフェムトホープのメンバーは俺の部屋までは入ってこない。部屋の中なら人目を気にせず作戦を立てられる。一旦戻ろう。あ、いや、これからできる限り早くリデッサスを立つのだから、その準備が必要か。一応旅用の道具はリデッサスに来るまでに使ったものがあるから……とりあえず地図だな。宿に戻ったら『巡礼地図』を読み返そう。

 よし、方針は概ね決まったな。思考を一旦置き、目の前のマリエッタを見る。特に怪しんでいるような様子はない。酒を嬉しそうに飲み、そして力強く話す様子からは普段との違いは感じない。よし。


「そうだった! そうだった!」


 マリエッタはそう言うと、手に持つジョッキを傾け空にした。そして少しだけ真剣な表情を作り口を開いだ。


「あと数日ってユリアが言ってたからさ、カイさんには悪いんだけどユリアの真面目さに付き合ってくれないかな。それが終わったら……そうだ! 前言ってた魔術教えるよ! 詫び代ってわけじゃないけど、タダでいいから!」


 マリエッタからはユリアと俺に対する気遣いが感じられた。やはり彼女も良い人だ。そして彼女はユリアの仲間だ。故に俺は、彼女とも一緒にはいられなくなるのだろう。


「…………ああ、いえ、ユリアさんの方は全然大丈夫です。自分もユリアさんの真面目なところや誠実なところは凄く尊敬してますから。魔術の方はちゃんとお代は払います。やはり高い技術には報酬が支払われるべきだと思いますので。ああ、安心してください、遺跡で少し稼いだ分もあるので、この一件が終わったら教えて貰おうかと思ってます」


「いや! なんか! カイさん! 凄い人だね! じゃあ、まあ、お代は貰っておこうかな。でも貰ってばっかりじゃ悪い気もするし、魔術を教え終わったら記念に飲もうよ、私が奢るからさ」


 少し申し訳なく思う。きっと奢ってもらう機会はないだろうから。


「ありがとうございます。その時は、お酒以外も出る店がいいですね」


「大丈夫、大丈夫! 良い店探しておくから!」


 それからマリエッタと雑談をしながら、少し多めの朝食の時間を過ごした。雑談をしながらも、頭の中ではどうしても逃走のための計画を考えてしまうのであった。




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― 新着の感想 ―
[良い点] もしかして… 悪魔憑きって教会に所属してない野良の聖女(聖者?)の資格というか素質持ちだったりするんですかね
[気になる点] 一章の終わりごろにスイちゃんが言ってた"その舌、引き抜きますよ"云々が実現するのかな。 [一言] 多分これまでの描写から逃げられそうではないけど、やたら好感度の高いスイちゃん相手にクッ…
[良い点] これを読むのは本当に楽しい!
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