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二章62話 朝酒と違和感


 ユリアとリュドミラの二人と一緒に大聖堂の地下室巡りをしてから数日が経過した。


 この数日間は、ずっとルティナと一緒に行動した。

 朝、部屋の扉を開けると、廊下にルティナがいるのだ。そして朝からぷりぷりしくる。まるで出待ちしているみたいだ。以前から朝の時間はユリア・ルティナのどちらかと会うことが非常に多かったが――いや、違うな、たぶん毎日だ。

 二人が正面の部屋に泊まるようになってから毎日、ユリアかルティナと朝会っている。明らかに頻度がおかしいと感じつつも、ルティナに言われるがまま、この数日間は一緒に行動をした。


 ルティナと街を巡ったり、一緒に飯食ったり、ギルドに行って情報を集めたりした。あと大聖堂へも行った。スイへの手紙を出すためだ。

 以前もルティナと一緒に同じような事をした気がするが、幸いにも今回はリュドミラやユリアを不快にさせることはなかった。というより、ユリアとは出会わなかった。大聖堂へ行き、偶々リュドミラと会い、彼女に手紙を渡して終わった。リュドミラとルティナの間に会話が殆ど無いので、少し気まずかったけれど……


 数日間ルティナと行動していると思うところがある。それは何かというと、『ルティナ程の美少女と毎日行動を共にできるなんて、本来ならば有り得ない程の幸運なのでは?』ということだ。というか実際そうだろう。

 なんだか、リュドミラと会い、彼女と言葉を話すにつれて、一般的な価値観が崩壊している気がする。気を付けねば……!


 ちなみに他のフェムトホープの二人――アストリッドとマリエッタともルティナと一緒に行動するときに偶に会っている。しかし、フェムトホープのエースであるユリアとは全然会っていない。今まではユリアとかなり会っていたので、これはこれで頻度的におかしいと感じ、ルティナにそれとなく尋ねたところ、教会関係の事で忙しいという情報を得た。

 また、他にもホフナーと会ったりもした。ルティナと行動していると、ホフナーがチラチラと周囲を確認しながら近づいてきて話しかけてくることが何度かあった。ホフナーは俺と二人きりで話したいようで、何度もルティナに席を外すように要求するが、ルティナはそのたびに怒ったり呆れたりと反応していた。

 ただ結局はホフナーが駄々をこねるので、ルティナが折れ、「少しの間だけだから」と俺と二人で話す権利をホフナーに譲っていた。なんとなく、その権利の保有者を決めるのはルティナではなく俺なのではないかと思ったが、ぷりぷりされそうなので黙っておいた。


 なお、ホフナーは二人きりで何を話すのかと言うと、クランの話だったりする。以前言っていたやつだ。

 到底設立不能なものを嬉々として語り、やれ構成人数は何人だの、やれ拠点はどこに置くなど、やれクランハウスの設計はこうするだのといった世迷い事を語ってくる。実現不能な夢を語るのは本人の勝手なのかもしれないが、されるものからすると、少しうざったく感じてしまうものだ。

 こういう時、俺は適当にホフナーを賞賛しながら、実質タイムキーパーであるルティナが戻ってくるのを待つのである。ルティナ様様だ。


 そして、そんな日々を送っていたある日、それは起こった。



 その日の朝は天気も良かった。窓から入って来る日射しで気持ちよく目が覚めた俺は、支度をすませ朝食を食べるために部屋を出た。部屋の扉を開ける時、『たぶんルティナがいるだろう、もしいなかったとしてもユリアがいるだろうな』と漠然と考えていた。

 しかし、扉を開けても誰もいなかった。正面の部屋を見る。扉が開くような気配はない。少し不思議に思いつつも廊下を歩き階段を降りる。やはり後ろから付いてくるような音は聞こえない。珍しい。もしかしたら、初めてかもしれない。まあ、そういう日もあるかと思い、そのまま階段を降りた。

 宿のロビーを通り過ぎ外へと出ようとしたとき、声をかけられた。


「おはよう! カイさん!」


 マリエッタだ。この宿で会うのは珍しい。というか、マリエッタはこの宿に泊まっていなかったはずだから……俺を探しに来たのだろうか? それとも俺が知らない間に宿を変えたのだろうか。


「おはようございます。マリエッタさん」


 挨拶を返しながらも、ふと思う。結局、朝からフェムトホープの誰かと会ってるな。連続記録更新だ。


「今日は一緒に行動しよう!」


 マリエッタは力強く言った。唐突だ。いや、まあ別にいいんだけど。


「えっと、はい、まあ大丈夫ですよ」


「やった! じゃあ、朝ご飯行こう! 朝酒に良い店知ってるから!」


 力強く誘ってくるマリエッタになぜか違和感を覚えた。なんだ? なにかがおかしい気がする。うーん?


「ああ、はい、そうですね。あ、でも一応言っておきますと、自分は酒が飲めないですけど、良いですか?」


 一瞬、違和感の正体は、『俺が酒を飲めないと何度かマリエッタに話しているのに、彼女が朝酒について語った』事かと思ったが、すぐに、いやマリエッタは関係なく酒が美味い店について語るだろうなと気付く。


「おお! そうだったね! 忘れた忘れた。まあ、美味しい食べ物もあるから! カイさんも! 行こう!」


 マリエッタの言葉に従い、アーホルンの宿から少し歩いたところにある酒場へと向かった。大通りを歩く時、朝の日と青空が妙に綺麗で、今日は良い日かもしれないな、とぼんやりと考えた。

 酒場に入り、カウンター席にマリエッタと共に座った後、彼女のおすすめの料理と飲み物を頼んだ。ちなみにマリエッタは酒とパンと酒とつまみと酒を頼んでいた。朝から飲み過ぎだ。

 それと、注文をしていて、なんとなく思ったが、こういう店って朝からやってるんだな。なんとなく夜から始まるイメージがあった。俺の知らないだけでリデッサス遺跡街には朝酒派が多いのだろうか……?


「この店! 結構美味しい酒が出るんだ! つまみも良いし! あとさっきカイさんに教えた葡萄ジュースも良かったよ! ここ数日回った店では二番目か三番目に良い店!」


 一番の店ではないのか……何と言うか、店員と距離が近いカウンター席で『二番目に良い』という表現を口にするのは良くないのではないかと思ってしまう。


「なるほど……?」


 故に言葉を濁すが、俺の態度を読み取ったのか、


「一番の店は朝やってない! ついでに二番候補も朝やってない! 朝やってるのはここだけ!」


 とマリエッタは補足した。

 ……どうやら朝酒派はそこまで強くなかったようだ。


「なるほど。そうでしたか、現状行ける店の中では一番良い店というわけですね」


「そう、そう!」


 ふと視界の中に店の従業員が映った。


「そういえば、葡萄ジュースとかも飲むんですね。なんとなくイメージですが、マリエッタさんは葡萄ジュースを飲むくらいならばワインを飲むと思っていました」


 なんとなく気まずくなったので話題を変えることにする。


「鋭い! けど! 葡萄ジュースも時々飲むよ! まあ、その時の気分かな。だいたい酒だけど。ああ、でも今のパーティーに入ってからはルティナが煩いから! そういう時は飲む!」


 ルティナは苦労しているようだ。


「やはりルティナさんとは仲が良いんですね」


「皆と仲良いよ! でも、どっちかって言うとボスとの方が仲がいいかな! ルティナはユリアとべったりだから!」


「ああ、やっぱり、ペア的にはマリエッタさんはアストリッドさんとなんですね。それでユリアさんはルティナさんとですか。しっくりきますね。宿もそんな感じで分かれてるんですか?」


「いや! 宿はだいたい一緒! というか教会がある街なら教会使わせてもらうから! 部屋は余ってれば別れるし、余って無ければ一緒! 内訳は適当! あ! でも確かにボスと一緒になることが多いかも! 凄いね、カイさん! よく分かったね!」


 大したことではないのだが、それでも褒められると何となく嬉しいものである。


「あー、いえいえ。しかし、そうすると、今回みたいに宿が分かれるのは珍しいケースなんですね。まあ、確かにパーティーの人達って同じ宿に泊まるイメージが――ん? あれ、リデッサスの大聖堂ってかなり広いし、たぶん見た感じ空き部屋多そうですよね」


「そうそう! いっぱい空いてるって、あの何だっけ……聖女様? が言ってた!」


「そうすると、逆にユリアさんとルティナさんはどうしてアーホルンに?」


「ん! ああ、それは――お! 来たか!」


 会話の途中で、注文した食事がカウンターに置かれた。酒もある。ぶわっと濃いアルコール臭が鼻を刺激する。朝から度数が高い酒を飲むようだ。さすがはマリエッタだ。

 ゴクリゴクリと酒を飲み干していく。そして大きく息を吐き、香辛料がたっぷりかかった燻製肉に齧りついた。呼気からくるアルコールと香辛料の匂いでこちらまで酔いそうだ。


「やっぱり美味い! カイさんも食べなよ!」


 マリエッタは食べながらもこちらに声をかけて来る。最近よく一緒に食事をするユリアもルティナも上品な感じがするので、新鮮な気分だ。一応言っておくと、これはマリエッタが下品という意味ではない。


「そうですね」


 まあ朝起きてから、歩いたこともありお腹は減っている。ほどほどに食べていこう。

 料理を口にしながら、マリエッタの話を聞き、それに対して言葉を返す。先ほどの話は流れてしまった。個人的に少し気になったが、まあわざわざ今の話題を崩して、先ほどの話題に戻すことでもないだろうと思いマリエッタの言葉の聞き手に徹する。マリエッタが厳選した店だけあって、料理はおいしかった。朝に食べるには少々刺激が強く、大胆な感じではあったけれど。まあ濃い味付けも偶にはいいだろう。毎日食べると舌が辛くなってしまうかもしれないが。


 そうして、食事をしながら会話を重ねている時、それは起こった。

 きっかけは、ほんの些細な事だった。

 その時、偶々視線が下を向き、隣に座るマリエッタの腰元が見えたのだ。腰のベルトにはホルダーが付いていて、そこにはナイフと杖が納められていた。

 最初は単純に武装していると思った。そして、すぐ疑問を感じた。俺はマリエッタが武装しているのを初めて見た気がしたからだ。

 しかし、それはおかしなことだ。いや、分かった。今日マリエッタに会った時の違和感の正体だ。マリエッタが武装しているのがおかしいのだ。マリエッタは今まで武装していなかった。リデッサスで何度か会った時、どの時も彼女は武装していなかった。彼女だけがフェムトホープのメンバーの中で武装をしていなかったのだ。ユリアやルティナとはよく会っていた為、気付かなかったが、マリエッタだけはずっと武装していなかったのだ。しかし、今はしている。何故だ……?

 何故だか、嫌な予感がした。


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[良い点] ミーフェさんがいつもと同じで安心しました…
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