一章15話 異世界三日目 戦略再調整
夕食を食べた後、宿屋へと戻り、今日の荷物や装備を整えてベッドへと腰かける。
今日もまあまあな感じだったな。一応教会には行ったし、ギルドの資料室や遺跡を使った『感覚』の調査もできた。まあ、教会の方はスイと駄弁っただけだし、『感覚』の調査は成果がなかったので、そういう意味ではあまり有意義な日を過ごせていないという見方もできるが……いやいや、俺はこっちの世界では天涯孤独だから知り合いを作るのは良いことだし、『感覚』に関しては未知数な事が多すぎるから少しでも『情報が無い』ということが分かっただけでも良かったとしよう。
さて、これからどうするべきか?
とりあえず、『感覚』については知りたい。
これは今後、俺がこの世界で生きていくにあたって重要な要素になると思われるからだ。
まず、この能力って回数制限とか使用制限はあるのだろうか。あるのなら、それは、今後の資本獲得手段に制限がかかるという意味だから、結構重大な事だが……まあ、現状知りようがないからな。何とかして情報を集めたいが……一応、実践で学べる点もあるので、そういう意味では遺跡に通うのは良いことだ。しかし、もし、回数制限があるのならば、無策で何度も遺跡に潜ることは、貴重な機会を浪費することになる。それは避けたいところだ。とりあえず、今の「手探り」な状況での遺跡探索はあと数回程度にとどめて、実践以外での情報収集に努めた方が良いのかもしれないな。
ただ、情報収集をどうするかというのも問題だ。調べてみた感じ、ギルドの資料室には『感覚』についての情報は無さそうだった。なので、別のアプローチが必要だろう。具体的に言うとギルドとは別の情報を仕入れることができる場所を探すべきだ。情報のための情報を探すというのは若干迂遠な気もするが、現状では仕方ないことだろう。人に聞ければ楽なんだが、それはやらない方が良い気がする。
なぜなら、人に聞くのは危険な気がするからだ。俺の『感覚』による成果は周囲の探索者の成果を大きく凌駕している。この前の『ペクトーンクリスタル』の例を挙げると分かりやすいかもしれない。俺が1層で20分程度で見つけたそれは、ギルド内での最高峰のパーティーが1日かけて入手できる量の数倍の量だ。そして最高峰のパーティーが見つけた量でさえ、探索者たちは驚いていた。これは資産入手のバランスを壊しかねない事だ。
そんな存在がいたら、人はどう思うだろうか。俺はたぶん他人がそういった存在だと知ったら「羨ましいなー」と思うはずだ。もしかしたら、嫉妬するかもしれない。それはあまり好ましい状況ではないだろう。だから、人に『感覚』について聞くのは止めておきたいところだ。
まあ、とりあえず、直近の目標は情報を得るための情報を探す事だな。あとは、一応、並行して遺跡探索もするか。有限回数だった場合を考えると、あと3回くらいだろうか? あとは……これは想像に過ぎないが、俺の『感覚』は魔術では無いかという点だ。
魔術に関しては、まだあまり調べていない。しかし、不思議な事に地球産まれの俺でも魔力というものはあるらしい。ならば、この不思議な『感覚』と、なぜか持っている魔力というのは、もしかしたら近い要素なのかもしれない。なので、魔術の方からも調べてみるというのはアリかもしれない。まあ、こちらもギルドの資料室ではあまり情報が無さそうなので、何か別の手段で調べる必要があるが。
あとは何かあるだろうか。まあ、一番の問題はルカシャ売却の件だが、それはもうやってしまったので仕方がない。ギルド職員の個人情報保護の意識に期待しよう。いや、まあ、今日「噂の」とか言われていたから無理かもしれないが……最悪、この遺跡街を出て別の場所で活動するのも手かもな。
ん……そうか別の街か。いくつかの街で成果物をバラバラにして売るというのはアイディアとして良いかもしれない。今はまだそうでもないが、これから遺跡での活動をして成果物が大量に出た場合は、売却調整が必要になると思う。
たとえば、『ペクトーンクリスタル』で考えると、俺が一人で最高峰のパーティーの数倍の戦果を一日で持ってきたら怪しいという事だ。だから、日を分散して、何回かに分けて売るか、もしくは、取引所を変えて、いくつかの街で売りさばく事で、少しでも不審さを誤魔化そうという訳だ。こうすることで、強盗に遭ったり、その他不都合な目に遭うリスクを減らす事ができる……と、思う。
昇級の件はどうしようか……まあこれは特にデメリットは無いので、受けておくか。とりあえず、明日の話を聞いてみよう。
明日は結構予定で一杯だ。朝からギルドに行って様子の確認、昇級の話、それが終わったら『感覚』のための情報収集、あとは探索の準備かな。遺跡探索は有限回数だった場合に備えて1回でできるだけ多くの事をしたい。その為の準備をしよう。幸い時間と金はあるそれらを上手く使っていきたいところだ。
よし、ある程度予定も決めたし、寝るか。