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二章53話 ユリアと一緒に大聖堂へ行こう


 フェムトホープの面々と再会してから一週間以上、ホフナーの部屋に連れ込まれてから数日が経過したある日のこと。

 俺はユリアとともに大聖堂へと訪れていた。時刻は、お昼を少し過ぎたところだ。


 さっきまでユリアと一緒に昼飯を食べた。美味しかった。

 ちなみに朝はルティナと食べた。朝ルティナに会い、今日はルティナだったかとぼんやりと思い、お昼前にユリアが合流したと思ったらルティナがなぜか抜けて、以後ユリアと一緒に行動している。とりあえず連続記録は更新だ。

 フェムトホープの面々と再会してから、いつも誰かしらと行動している。正直なところかなり謎で、俺からもなんとなく探りを入れているのだが、納得いく理由が返ってこない。


 今、ユリアとともに大聖堂へ来ているのはリュドミラに呼び出されたからだ。

 厳密に言うと、『リュドミラが手紙の件で呼んでいる』とユリアが教えてくれたのだ。なんでも、スイがまた手紙を送ってきたので渡したいとのことだ。故に、ユリアと一緒に大聖堂へ来ている。個人的には、わざわざユリアに言伝を頼むならば、スイからの手紙をユリアに渡せばよかったのではないかと思うのだが……リュドミラから見てユリアは手紙を預けるに値しない程に信頼してないのだろうか?

 いや、だが、もしそうならば言伝だってちゃんと伝えるか分からないのだから、それは違うか……? ああ、でも最悪言伝など誰にだって頼めるのだから、ユリアがちゃんと伝えなくても問題はないか。手紙の方が紛失されると困るが、言伝は無くなっても困らない。うーん? 少し想像が過ぎるか。俺の思い違いならば良いのだが。


 ユリアが門番にこそこそと近づき、ぺこぺこと頭を下げ何かを伝えると、門番は丁寧に対応した。そういえば最近、カールマンを見ないな……門番って三交代制とかなのかな?

 少し緊張しているユリアに案内され大聖堂の内部へ少し入ったところで美しい声が耳を撫でた。


「フジガサキ様、来てくださったこと、感謝いたします。また突然の呼び出しとなってしまって、申し訳ございません」


 銀髪の美少女――リュドミラだ。言葉と共に少しだけ頭を下げると、こちらをじっと見て微笑んだ。何度も経験している為に耐性は少しずつ付いているが、それでも心が揺さぶられる。


「あ、いえ、リュドミラ様、こちらこそ、その手紙の件で何度もお邪魔してしまって、すみません」


 謝罪する俺の言葉――『リュドミラ様』と彼女の事を呼んだ時、リュドミラは一瞬だけユリアの方を見た。しかし、すぐユリアから目を逸らすと、俺の方へ向き直った。


「邪魔などと、そのような事は決して思っていません。それよりも、もし許していただけるのでしたら、手紙の事が無くても大聖堂へ来ていただきたいです、フジガサキ様」


 リュドミラの言葉の内容が頭の中に入り、それと同時に心と頭が侵されそうになる。俺は、それ堪えながら返す言葉を選ぶ。


「えっと……それは……あ、その、たぶんですが、ええっと、色々とそのご期待に添えられるかどうか……」


 社交辞令的な言葉を言われたのだから、適当に返すべきなのだが、どうにも上手く言えていない。


「私がフジガサキ様に来て欲しいのです。本当は、手紙の件、ご連絡を入れようか迷ったのですか、浅ましくもフジガサキ様にお会いできると思い、つい導師ユリアにお願いしてしまいました」


 言葉に悩む俺に対して、リュドミラは俺の目をじっと見ながら一つ一つの言葉を丁寧に美しく奏でていく。その言葉にますます心が揺さぶられてしまう。


「……煩わせてしまいましたか?」


 言葉を作れずにいる俺に対して、リュドミラは少しだけ不安そうにしながら問いを発した。


「――いえ、決してそのような事は思っていません。リュドミラ様。むしろ、そのように言っていただけて、自分としても凄く光栄だと思っています」


 彼女の雰囲気を察し、慌てて言葉を作り口に出す。俺の作ったような台詞にもリュドミラは好意的に捉えてくれたのか、微笑みながら口を開いた。


「やはりフジガサキ様はお優しいのですね……導師ユリアもそう思いますよね?」


 リュドミラの褒めてくれる言葉を耳にし、心が昂った後、突然刺すような声に驚き、声の先――ユリアの方を見る。話を振られたユリアも驚いたのか、顔を強張らせながらリュドミラを見ている。


「えっと、はい。それは、そう思います……私もフジガサキさんが優しい人だというのは分かっています」


 ユリアは不安そうに俺とリュドミラを交互に見てから答えた。何となく申し訳なくなってしまう。無理に言って貰ったわけではないと思うのだが……なんだろう、悪い事をしたような気分だ。


「ふふっ、導師ユリア、あなたなら、そう言ってくれると思っていましたよ……さて、あまり前口上ばかり述べていたら本当にフジガサキ様に嫌われてしまいますね。フジガサキ様、こちらが導師スイから届いた手紙になります。どうぞ、お受け取りください」


 リュドミラはユリアに妙に艶めかしく微笑むと、話題を本題へと戻し、懐から手紙を大切そうに取り出した。とても丁寧な手つきでそれを俺へと渡す。スイからの手紙だ。相変わらず、なんだか高貴そうな紋章が刻まれている。スイらしからぬ紋章だ。


「ありがとうございます」


 感謝を伝え手紙を取ろうとしたら、瞬間的にリュドミラに手首を掴まれた。さらに、リュドミラは一歩距離を詰め、それと同時に俺の手を引っ張った。リュドミラとの距離が一気に近づき、服と服が擦れる音が妙に耳に響いた。


「こうも短期間で何度も手紙を送るとは……導師スイはよほどフジガサキ様の事を慕っているようですね。妬けてしまいそうです」


 リュドミラは俺の耳に近くで囁いた。どくんどくんと心臓が激しく鼓動する。頭と心がもう破壊されそうだ。

 俺が動けずにいると、耳元から、ふうっと息を漏らす音が聞こえて、リュドミラは俺の手首を放した。それから少し身を引き俺と距離を取った。そこで、ようやく俺も動けるようになり、慌てたように足が一歩後ろへ引いた。


「今回の手紙は早馬ではありませんでしたが、開封はされますか?」


 まるで何事も無かったかのようにリュドミラが平然とした声音で質問した。


「あ、え、えっと……スイさんの手紙ですし、後でもいいかなと思ってはいるのですが……」


 混乱から冷めぬまま、おろおろしながら言葉を返した。おとおろと顔動かしていたら視界の端でユリアを捉えた。ユリアは、じっと俺を見ていた。淡い赤色の瞳はいつもよりも険しいように俺には感じられた。


「導師スイは何度もフジガサキ様に手紙を出しています。きっとすぐに読んで欲しいと思っているのではないでしょうか」


 混乱や同様、不思議といった気持ちを抑えながら、頭を回す。ここで手紙を開けるデメリットはそんなにないはずだ。開けてもいいか。


「ええっと、確かにそう言われるとそんな気がしますが、ああ、そのここで読んでしまっても大丈夫ですか?」


「勿論、私は構いません。導師ユリア、あなたはどう思いますか?」


 話を振られたユリアは一度、鋭くリュドミラの方を見た。それは、まるで睨んでいるようにも見えた。しかし、それも長くは続かず、途中で一度目をつぶると再び俺の方を見て口を開いた。


「あの、フジガサキさん。私も手紙を見たいです……!」


 開けていい――ん? 開けていいじゃなくて、見たいなのか……


「導師ユリア、やはりあなたは勇敢のようで……私にも、そういったモノが必要なのかもしれませんね――フジガサキ様、もし許していただけるのでしたら、私にも手紙の中を見せていただけないでしょうか。導師スイがどのような手紙をフジガサキ様へ送っているか、とても興味があります」


 じっとリュドミラが期待した目でこちらを見る。いや、リュドミラだけではない。ユリアも似たような目でこちらを見ている。ユリアの方が緊張していてリュドミラは余裕のありそうな点が二人の大きな違いだな。あと、ユリアの方が前のめりな気がする。

 でも、なんだろう、ユリアだけではなくリュドミラからも圧を感じる。二人分の圧が俺を押し潰しそうだ。気弱な俺としては、選択肢はあまりない。


「なるほど……えっと、まあ、その開けてみます。ただ、その一度、文面をこちらの方で確認してからでもいいですか? あの、スイさんのことですし不適切な表現もあるかもしれないので」


 選択肢はあまりない、けれど『ここだけは大事』という所は押さえておく。スイの手紙をそのまま見せるのは、色々な意味で良くないかもしれない。必要に応じて、検閲をしてもいいだろう。


「えっと、できればそのまま見たいですけど……そのフジガサキさんが必要だと思うなら、全然大丈夫です……!」


「私もぜひ見てみたいのですが、フジガサキ様がお許しくださらないのでしたら、諦めます」


 よし、とりあえず許可は貰えた。さて、開けるか……


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― 新着の感想 ―
[一言] 導師皆の人気者だね
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