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二章48話 迷惑かけてないから


 しかし、残念ながら物事とは思い通りにはならないようだ。

 他の探索者を避けるために、お昼ぐらいに遺跡に潜ろうと街で時間調整を行っていた時、あまり会いたくない人に会ってしまった。

 ホフナーだ。久々の遭遇に少し緊張しつつも対応を考える。あんまりホフナーとは関係を持ちたくない。ホフナーが俺のことを飽きているのなら、こちらから声をかけて再び興味を引くというのは避けたい。一方で、ただ気分で俺に話しかけていないだけというケースも考えられる。その場合は、ホフナーを無視するのはよくない。怒り出して面倒な事になる。さて、どっちだ……?


 ホフナーは俺を見ると一瞬固まり、周囲を窺っている。周囲と俺を交互に何度も見ている。これは、まだ俺に興味がありそうだな……声をかけた方がいいかな? あ、でも普段ならホフナーから声をかけてくる場合が多いよな。なんか今日は声をかけてこない。緊張したように周囲を窺っている。うん?

 まあ、いいか。ホフナーは明らかに俺を認識しているし、ここで挨拶もせずに立ち去ればホフナーの怒りを買うだろう。ここは声をかけるべきだ。そう思う彼女に近づくと、ホフナーはなぜかビクリと体を震わせた。


「ミーフェさん。お久しぶりです」


 不思議に思いつつも、そのままホフナーに声をかける。ホフナーは俺の言葉を受けて、緊張したように周囲を見回した。まるで何かを探しているみたいだ。


「カイ、あのっ、あいつは?」


「あいつ、とは……?」


「あの……あ、いや、なんでもない」


 そう言ってホフナーは押し黙り、周囲を何度も念入りに見回した。とても緊張しているように見える。まるで何か恐ろしいものにでも追われているみたいだ。なんとなく俺は嫌な予感がした。

 どうしたものかと考えていると、黙っていたホフナーが急に口を開いた。


「ミーフェは迷惑かけてないから」


 ?

 面白い冗談だ。


「それは……やはり、リデッサス最強の探索者と言われているでミーフェさんらしい力強いお言葉ですね。自分もいつもミーフェさんのその豪胆な精神には感銘を受けています」


 返す言葉が無さすぎて困ってしまう。嘘にならないような回答をするのも一苦労だ。


「やっぱりカイもそう思うよね。知ってたけど」


 相変わらず図々しいことをホフナーは言った。そしてふと、ホフナーは「あれ?」と呟いた。その呟き方に違和感を感じホフナーの顔を見て、驚いた。あまりに驚きに体が固まる。そしてホフナーも同じように、彼女自身の変化に気付き、驚いたような表情を浮かべた。さらに意味不明な行動をした――ホフナーがいきなり俺に抱き着いてきたのだ。

 抱き着くホフナーの顔が俺の胸に隠されてよく見えない。見えないが……ホフナーは直前まで泣いていたのだ。急に泣き顔になっていた。そして今、ホフナーは俺の胸の中でこっそりと泣いている。


 正直、困惑してしまう。

 ホフナーはいつも傍若無人な存在だ。そして今までの仕草から見るにメンタルがかなり強い。というか図太い。そんな少女が今、人から隠れるように俺の胸の中で泣いている。なんか、純粋にホフナーの事を心配してしまう。

 あと、俺の服を涙と鼻水で汚さないで欲しいという気持ちも僅かながらある。いや、今嘘吐いた。僅かじゃなくて、結構ある。


「何かあったんですか……?」


 恐る恐るホフナーに問う。正直さっきから周囲を窺っていたし、嫌な予感がある。本当は聞きたくないが、聞かないでいると、もっと悪い事になりそうな気もするので聞いておく。


「ちょっとヘマした。いや、別にしてないけど。けど、少しだけヘマした」


 ホフナーが涙声を抑えながら答える。それを聞いて、俺はゆっくりと息を吐いた。


――ついに犯罪行為が露見したか? いや摘発されたって感じか? やばいな。俺も協力者だと思われているかもしれない。ホフナーとは距離を置いた方がいいかもしれないな。本当なら今すぐ距離を置くべきだが、それはそれでホフナーの暴発が危険。よって今は話を聞き、後で梯子を外すべきだろう。とりあえず、ここは不味い。見られない所に行こう。そして話を適当に聞いてさっさと別れよう。


「ミーフェさん。今は落ち着ける所で話をしませんか?」


 泣いているホフナーへの気遣いが二割くらい、残りは俺の将来の安全の為に提案をする。


「なら、ミーフェの部屋、来て」


 それは、ちょっとな……まあ、でも他の人の目ないところだと、適当に考えて俺かホフナーの部屋だ。俺の部屋にホフナーを招くのはもっと嫌なので、しょうがないか。


「はい、お邪魔させていただきます。ミーフェさん」


 仕方なく、俺はホフナーの部屋へと行く事になった。本当は今日は遺跡に行くはずだったんだけどな。



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― 新着の感想 ―
[良い点] わからせられて素直になってる…! でもこれでミーフェがユリアの所業を告発しても信じて貰えないだろうな…可哀想だな…(フライング)
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