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二章42話 酒、茜色、銀色・ピンク


 それからホフナーと街を巡り、ホフナーから自慢話や謎の助言や反社会的な行動について語られた。昼を少し回ったあたりで、昼食をホフナーと一緒に食べていると、いきなり声をかけられた。


「おお! カイさん! 昨日ぶり! どう? 調子は!」


 元気で明るい声が耳を貫き脳を揺さぶる。マリエッタだ。相変わらず、いきなり話しかけられるとびっくりしてしまい、耳と脳に悪いな。いや、まあマリエッタが悪いわけではないが。


「あ、どうも、マリエッタさん。昨日ぶりですね。調子はまあ、そこそこです」


「そこそこか! どう一緒に一杯!」


 そう言ってマリエッタは手に持ったジョッキを見せつけるように掲げた。


「あ、いえ、お酒は飲めないので……」


「ああ! そうだった! そうだった!」


 そう言ってマリエッタは、ジョッキを傾け酒をごくごくと飲み始める。


「カイ、この酒臭いのは誰?」


 一応ホフナーとマリエッタは昨日会ってはいるのだが……まあ殆どすれ違った感じだし覚えてないか。


「マリエッタ……マリエッタ・バーセルさんです。昨日、あ、いえ、クリスクにいた時にお世話になった人です」


 今、『フェムトホープ』のメンバーの一人と紹介しようとしたが、止めた。ホフナーは『フェムトホープ』をあまり良く思っていないので。


「ああ、そう。カイの知り合いって碌なのいないね。雑魚面に雑魚に銀雑魚に酒、使えそうなのは赤いのくらいしかいない」


 『酒』って凄い略し方だな……


「あれ! そういえば、このちびっこは!? 前も大聖堂にいたよね! カイさんの妹とか!?」


 ようやくマリエッタがホフナーの存在に気付いた。マリエッタの方は昨日の事を覚えていたようだ。


「は? ミーフェ超デカいんだけど? てかミーフェ姉なんだけど?」


 五秒以内で分かる嘘を吐くなよ……ホフナーはかなり小さいし、ついでに言うとかなり童顔だ。実年齢は分からないが身長と相まって、俺よりもかなり年下に見えるだろう。


「えっと。こちらはミーフェ・ホフナーさんという方でして――」

「――え! カイさんの姉! 全然見えない! よろしくミーフェさん!」

「――ミーフェはリデッサス最強のパーティーリーダーでカイのボス」


 三者がいっぺんに好き勝手に喋るものだから、混乱する。とりあえず、一応修正をしようと口を開き、


「――あ、まだパーティーには入って――」

「――あれ! カイさん。パーティー組んだの!」

「――酒は結構分かって……ミーフェが喋ってるときに被せないでよ」


 またしても三者が同時に喋る。なんか、アレだな。ホフナーもマリエッタも『好き勝手喋る族』だから、『恐る恐る喋る族』の俺としては情報伝達が難しいな。

 それから何とかして誤解を解き、午後は三人で街を巡った。マリエッタが一緒にいた為、結構まともな情報を教えて貰った。まあ、主に酒が美味い店の話なので、酒を飲まない俺としては有用性が低い情報なのだが。あと、どうでもいい情報だが、ホフナーは十八歳らしい。ただ、この情報はどうでも良い上に少々信憑性に問題がある。

 なぜなら、これはマリエッタにホフナーが俺の姉ではないと誤解を解いた際に、では、ホフナーの歳はいくつなのかとマリエッタがホフナーに問うたところ、ホフナーが逆にマリエッタの歳を聞き17歳という答えに対してホフナーは18歳と答えたからだ。なんかマリエッタよりも年上アピールをしたかったのではないかと思っている。

 実際、俺の予想を補強するように、マリエッタが「なら! やっぱりカイさんの妹みたいだね! カイさんは22歳だから!」と言うと、ホフナーはすかさず「あ、ミーフェ23歳だった」と言い出したからだ。まあ怪しい年齢だったが、ホフナーの歳はそこまで重要な事項ではなかったので追求はしなかった。





 夕方になり二人と別れ一度宿に戻った。それから夕食を取り、昨日から作っていたスイへの返信を完成させた。もう夜だが、深夜という程ではない。まだまだ外は探索者たちの喧噪で賑わっているようだ。ふむ。確か教会までは大通りだし安全だな。よし、ちょっと行ってみるか。

 駄目そうなら宿に戻ればいいかという気楽な気持ちで手紙を持ち宿を出る。近づく冬の寒さを強く感じつつ、明かりに照らされた大通りを歩いていると急に肩を掴まれた。急な事で驚き、『夜歩くなんてやっぱり良くなかったか』と思いながらも、掴んだ相手を見る。茜色の髪に整った顔立ちの美少女――ルティナがいた。


「カイ。こんな夜遅くにどこに行く気?」


「ルティナさん……! 驚きました。どうして……あ、いえ、ちょっと手紙を出そうと思って、スイさん宛てで」


 真剣な表情でこちらを見るルティナに気圧され、手紙を懐から出して彼女に見せる。


「教会に行くの? 持ち物は? それだけ?」


 鋭い目線でルティナは俺を問いただす。なんだ……なんかいつもより緊張してるな。チラリとルティナの腰元を見る。当然武装している。まあ昼の宿で武装するのだから、夜なら当然しているか。


「ええ、そうですよ。教会に行って帰るだけなので……バックパックとか持った方が良かったですか?」


「…………もうっ! 急に意味深に出ていかないでよっ! 気になるでしょっ!」


 そう言うと、ルティナはぷりぷりと怒り出した。怒っているが、さきほどよりは目が優しく見える。さっきは目がちょっと怖かった。


「ああ、すみません。なんか、偶には夜風に当たりたくなったと言いますか。まだどこの店もやってて明るくて人も多いので、いいかなって……」


 たぶんルティナは、俺が危険を冒さないか心配しているのだろう。うーん、これだけ賑やかで特に暴力沙汰とかは起こって無さそうな大通りでさえ、ルティナは危険だと思っているのか……? 俺には全然そんな感じはしないのだが……この時間帯になったら出歩かない方がいいのかな? ううむ、大丈夫そうに見えるんだけどなー。


「そんな理由で……相変わらず世の中舐めてるんだからっ!」


「それは、すみません……そういえば、ルティナさんはどうして、ここに?」


「カイが気になったからだよ! 宿の部屋、向かいでしょ! 音で分かったよっ!」


 ん?


「部屋を出た後、外には行かずに、受付に行くかもしれないのに、どうして音で分かったんですか?」


「……っ! どうでもいいでしょっ! 生意気言わないっ!」


 生意気ですんません。


「……えっと、はい」


「兎に角っ! 危ないから教会まで一緒に行くよっ!」


 そう言ってルティナは俺の手を引くと教会までの道を歩き出した。ルティナの頬は興奮からか少し赤くなっているように見えた。

 教会に着き門から中に入ろうとしたところで、俺とルティナに近づいてくる影がった。それはフードを被った人だった。フードから僅かに銀色の髪が漏れ出ている。


「え、リュドミラ様……?」


 驚くルティナが小さく呟くが、フードの人物は首を横に振った。別人らしい。銀色というのはこちらの世界でも珍しい髪色であるし、それに昨日同じようなフード付きの外套をリュドミラが身に着けていた気がするが……あ、この人、もしかしたら、昨日、フェムトホープとの親睦会で食事を持ってきてくれた人じゃないか?


「昨日、もしかして、食事を持ってきて下さった方……ですか?」


 俺が適当な読みを口にすると、フードの人物は一瞬固まった後に首を縦に振った。おお! 正解だ!


「えっと、何か御用ですか?」


 フードの人物に問いかけると、彼(?)は指で長方形を作り、さらにその長方形の中心に何かを押し当てるようなジェスチャーをした。えっと……? ルティナが不審そうにフードの人物を見つめ、俺が悩んでいると、フードの人物はもう一度長方形を指で作り、今度は長方形を中央からめくり返すようなジェスチャーをする。うん? あ! 分かった!


「手紙! 手紙ですか!」


 フードの人物は『それだ!』という風に俺に指を向ける。よし! 正解! こういうの当たると嬉しい。


「もしかして、このスイさんへの返信の手紙ですか!」


 俺の言葉に、フードの人物はこくこくと何度も首を縦に振った。そして彼(?)は聖堂の敷地内へ少し入り、チラリとこちらを見て手招きした。手紙を出すなら来い、という事か? それに従い少し距離を詰めると、またフードの人物が聖堂の奥の方へと進み、途中でチラリとこちらを振り返り手招きをした。なるほど、付いてきて欲しいということか。

 不審そうにフードの人物を見るルティナとともに、それに従い付いて行く。しばらく通路を歩いていくと先の方から声が聞こえてきた。


「――――――――」

「――――――――」


 聞いたことがある声……二種類の声だ。誰かが話しているのだろうか。なんとなくだが、ユリアとリュドミラの声に俺には聞こえた。壁を挟んでいるため内容はよく聞き取れない。


「ちょっと、何やってるのっ!」


 ルティナが慌てたようにフードの人物に食ってかかる。フードの人物は両手を横にして、ルティナの指摘の意味が分からないかのように振る舞う。なんか煽ってるみたいなポーズだ。そしてそのまま部屋――おそらくユリアとリュドミラがいるであろう部屋の扉に手をかける。それを見て、ルティナがフードの人物の動きを止めようと飛び掛かるが、フードの人物は身を翻してそれを躱しながら、扉を開く。


「え……?」

「ふふっ……」


 部屋の中から驚くユリアの声と、笑うリュドミラの声が聞こえてきた。どうしよう、と思うが、まあ知り合いだしフードの人はリュドミラの関係者のようだし良いかと思い、てくてくと歩き、扉の中を覗き見る。


「あ、え、フジガサキさん……どうして……、あの、今の、聞いてましたか……?」


 驚愕の表情でユリアがじっとこちらを見つめる。一方でリュドミラは涼しい顔で笑みを浮かべている。リュドミラの隣には、いつの間にか入ったのかフードの人物がいた。


「いえ、中で誰か、たぶんユリアさんとリュドミラさ、リュドミラ様がお話しているのは分かったんですが、内容までは……すみません、もしかして、聖職者としての重要な情報とかを話し合っていた感じでしょうか……? すみません、でも内容は聞いていなくて……あ、ここにルティナさんがいて、その、ルティナさんも一緒に来てて、それでルティナさんも聞こえてなかったと思うので、一応証明にはなるのかな、と思っています……大事なお話し中、すみません」


 なんか気まずくなり謝りモードに入る。フードの人が開けたから入った方がいいのかなと思ったんだが……というか、てっきり手紙を送るのに必要な手続きをしてくれると思っていたのに……フードの人は何を考えているんだと思いチラリと見るが……あれ、いなくなってる。さっきまでいたのに。辺りを見る。いない。え? さっきまでいたのに……


「ユリアちゃん、ごめん。昨日の配膳係が勝手にこっちに来て……え、嘘、いなくなってる。一瞬で……! どうやって……? あ! でも、大丈夫! 二人の会話は外には聞こえてなかったから! 安心してっ!」


「…………えっと、ルティナさんとフジガサキさんは、どうしてここに?」


「え! あ、そのカイが手紙を出したいって! スイへの手紙! それで夜は危ないから一緒に来たの。まさかユリアちゃんの所に案内されるとは思ってなくて! ごめんねっ」


 ルティナは両手を合わせユリアに祈るように詫びる。


「い、いえ、別にルティナさんが悪いわけじゃ……あのリュドミラ様、さっきの人はどうして二人をここに……?」


 探るような目でユリアがリュドミラを見た。


「残念ながら私も存じません。姿もくらましてしまいましたし……今度見かけたら問い詰めましょう。ふふっ……それよりもフジガサキ様、また導師スイへの手紙ですか」


 リュドミラは急に俺へと言葉の先を向ける。それによりユリアとルティナの視線も俺へと集まる。何だか三人とも非難しているように感じてしまう。気のせいだと思うが……なんか気まずい。


「え、ええ、まあ、その手紙を出すように言われて……」


「ふふっ、それはそれは……妬けてしまいますね」


 じっとこちらを見つめるリュドミラにいつもなら心昂るが、不思議な事に、今は背筋が冷えた。流石に俺もリュドミラとユリアの重要そうな会話をぶち壊したことに罪悪感のようなものを感じているのかもしれない。


「え、あ、その、すみません」


「……冗談です。フジガサキ様。驚かせてしまったようですね。申し訳ございません。少々、空気が重いように感じられましたので、冗談を言って場を和ませようと思ったのですが……中々、上手くはいきませんね。ふふっ……では、手紙の方をこちらに。必ず導師スイに送り届けましょう」


「はい……よろしくお願いします」


 リュドミラにスイへの手紙を渡す。リュドミラはそれを大切そうに受け取ると懐へとしまい込んだ。そしてそれをユリアがじっと不満げに見ていた。 

 気まずい。リュドミラはあまり(少なくとも態度に出さない程度には)気にしていないようだが、ユリアの方はリュドミラとの会話を邪魔され不満のようだ。


「えっと、では、すみません。その自分は一旦この辺りで……突然、お話し中にお邪魔してしまい、すみませんでした」


 二人に頭を深く下げ逃げるようにその場を後にする。後ろからルティナが似たような言葉を二人にかけ、俺のあとを追いかけて来る。


「カイっ! 一人で逃げないでよっ!」


「すみません。ちょっと気まずくて……」


「もうっ! 変なところで小心なんだからっ!」


「いえ、基本的には小心者なので……ところでルティナさんはこの後は? 自分はこのまま宿に戻りますが……」


「危ないから送っていくよ、宿同じだしっ」


「あ、どうも……ありがとうございます」


 そうしてルティナに護衛(?)してもらいながら宿へと戻った。



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