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二章39話 ちゃんと見てる



【お兄さんへ

 手紙ちゃんと見てる?

 スイちゃんに返信が届いてないぞ~。ちゃんと書いて~。返信して~。

 返信しないと毎日送るぞ~。


 さて、大事なことを書いたので他の事を書きます。

 なんと! ユリアがクリスクから消え去りました。あと取り巻きども(ルティナとか)もいなくなりました。

 実質的にスイちゃんの牙城の包囲網が解かれたことになります……!

 毎日のんびりできるのでとても楽しいです。

 でも少し退屈なので、お兄さんははやく帰ってきてください。

 あと手紙をちゃんと返信するように……!

 

 かわいいかわいいスイちゃんより。


 追伸

 はよはよ帰ってこい。ひま、ひま……】


 ……いや。これは?


「フジガサキさん、あの何かあったんですか?」


 ユリアが心配そうに尋ねてきた。


「いえ、特には。近況報告? みたいな内容でした。たぶん、何かと間違えて、早馬の方で出しちゃったとかだと思います」


 スイの事だから、このふざけた内容を敢えて早馬で出すということもありそうだ。早馬を使う程に強い気持ちの籠った手紙なのかもしれないが……とりあえず、明日返信の手紙を書こう。


「そ、そうですか。それなら、良かったです……」


「カイさんは普段からスイさんと手紙のやり取りをしているのかしら?」


 一安心といったところで、アストリッドが声をかけてきた。


「やり取りといいますか、まだ一往復と一回だけですね。スイさんから手紙のやり取りをするようにクリスクにいるときに言われて……」


 前回何で返さなかっただっけと思い、そこで、ふとフード姿のリュドミラが目に入る。ああ、そうだ、返したくなかったんだ。


「おお! 仲良い!」


「ああ、まあ、ほどほどに……」


「良い事だと思うわ。遠くにいると友人との縁も大事だから」


「それは確かに、そう思います。なので、また皆さんと会えて良かったです。あ、いや、これはもう遠くではなく近くの話ですかね?」


「また調子が良い事言ってっ! 言っておくけど、スイと悪い事相談したらダメだからねっ。スイから悪事に誘われてもちゃんと断るんだよっ。あとスイを悪事に誘うのもダメだからねっ」


 マリエッタの言葉に肯定を返すと、アストリッド小さく呟く、それに対しても返事をしたところで、ルティナがぷりぷり怒り出した。なんか忙しい……

 ふと視線を感じ、そちらを見る。ユリアがじっとこちらを見ていた。淡い赤色の瞳には不安の色が見える。しかし、俺の視線に気づくと、ユリアは慌てたように視線を外した。クリスクにいるときによくあったやり取りだ。


 色々とあったが、六人で礼拝に参加することとなった。

 リュドミラはその立場から運営側かと思ったが、そうではないらしい。クリスク聖堂ではスイが本来運営側らしいという話をユリアから聞いていたので、少し疑問に感じたが、どうも聖導師から聖女にランクアップすると、立ち位置などが変わり朝夜の礼拝の運営からは距離を置くことが多いらしい。なかなか複雑だ……

 なお、リュドミラはずっとフードを着けたまま礼拝に参加していた。一応他にも似たような人はいるので、特に注目を集めたりはしていなかった。こちらも少し気になり聞いたところ、リュドミラはあまり人前には出ない事が多いらしい。それ故、姿を隠していると。

 まあ、理由は分からなくはない。たぶん美しすぎるからだろう。彼女ほど美しいと、それは時に毒となる。故に人前には出ないのだ。だが、そうだとすると、なぜ俺の前には……ああ、駄目だ、俺にも毒が回っている。今日は色々な人と一緒だったから普段ほどは狂ってはいないけれど、それでもやはり毒は確実に頭と心に回っているのだろう。

 もしかしたら、礼拝の席順が悪かったのかもしれない。礼拝堂の長椅子に座る際、なぜか順番に一悶着あり、最終的にリュドミラとユリアの間となった。礼拝の最中ずっとリュドミラが隣にいた事と、俺の頭がおかしくなっていることは無関係ではないだろう。


 意識をリュドミラの方に向けないように向けないようにとばかり考えていたせいで、礼拝が終わった事に気付かず、反対側の隣にいたユリアに不審がられてしまった。

 ただ、一応、それ以外は特に問題なく――リュドミラの毒に侵されている時点で問題なのだが、いや、まあ兎に角リュドミラ関係以外は問題なく礼拝を終わらせることができた。


 礼拝終了後は、日も沈み、ルティナとユリアは所用があるとのことで、親睦会はお開きとなった。俺はフェムトホープに再会できて良かったこと、しばらくリデッサスで活動するためよろしくということを伝え、最後にリュドミラに場所を提供してくれたことなどを深く感謝し、宿アーホルンへと戻った。


 色々な事があったが、フェムトホープの皆とまた会えたのは良かったな……





 親睦会を終え、夕飯を適当に食べ、スイからの手紙を改めて読み直したり、スイの催促に応えるための返事を書いたりして時間を潰していると、部屋のドアがノックされた。はて? と思い、扉を開ける。


「あ、あの、フジガサキさん、夜分遅くにすみません」


 ピンクブロンドの少女――ユリアが少し緊張した面持ちで、部屋の前の廊下に立っていた。


「あれ? ユリアさん? どうして……? ああ、この宿に泊まることにしたんですか?」


「あ、はい! その、実は向かいの部屋に泊まることになって……えっと、これから改めてよろしくお願いします」


 なるほど。昼に、この宿に入ってきたことから、宿泊するのかなと、なんとなく思っていたが、まさかお向かいさんとは。偶然とは恐ろしい……ん、でも、あれ……?


「え、あ、お向かいさんですか。はい、よろしくお願いします。あれ、でも向かいの部屋って誰か泊ってませんでしたっけ?」


 ここ数日、なんか生活音みたいなのが、偶に向かいから聞こえていたような気がする。


「あ、その、今日ちょうど出たみたいで、空いたみたいなんです。それでルティナさんと私で入りました。二人部屋だったので……」


 そうか、そういうこともあるのか。偶然とは恐ろしい……一瞬本当に偶然かなと思うが、偶然以外はありえない事にすぐ気付いた。以前ホフナーが無理難題を宿屋に言って俺の隣の部屋を確保しようとしていたが、それは受付が拒否していた。特定の誰かの隣とか向かいは指定できないのだ。だから偶然なのだろう。こんなこともあるのかー。

 ん、あれ、でも……


「そうでしたか、それは奇遇ですね。あと、今ふと思ったんですが、どうして自分がこの部屋だと分かったんですか? もしかして、このドアに名前とか書いてあります? ……普通に無いですね」


 喋りながらも扉を確認するが当然名札などは無い。チラリとユリアを見る。なんだか、さっきよりも緊張しているように見える。気のせいかもしれないが。


「えっと、それは説明が難しいんですけど……『導き』の力で、少しだけ、ぼんやりとですが、向かいの部屋にフジガサキさんがいるのが見えたので。あ、あと、これは聖なる術とは関係が無いんですけど、向かいの部屋の中からフジガサキさんの声が聞こえて、多分スイさんへの手紙の返事を書いていたんだと思いますけど……えっと、すみません、これで説明になってます、か……?」


 あー、俺、スイへの返事を書いている時に独り言を言っていたようだ。なるほど。

 それに確かに聖なる術で未来を視る、というのがあったな。なるほど、なるほど。


「あ、そういうことでしたか……やっぱり色々な事ができるんですね」


「い、いえ、それほどでも……あ、あとスイさんと手紙のやり取りをしていたんですね。いえ、その、クリスクにいた時……フジガサキさんがクリスクから出た後、スイさんが熱心に何か書いてて、なんとなくフジガサキさんへの手紙なのかなって思ってたんですけど、スイさんには見せてもらえなくて、あの! どんな事を書いたりしてるんですかっ!?」


 恐る恐ると喋っていたはずのユリアは、途中から急に声をうわずらせて少し迫るように質問してきた。


「え、あ、手紙ですか? なんか、その、すみません、たぶん期待しているような特殊な内容はなくて、普通の近況報告のような事を書いています。すみません」


 若干気圧されつつも正直に彼女の質問に答える。


「い、いえ! その、こっちこそごめんなさい。その突然で、ビックリしちゃいましたよね……その、久しぶりにフジガサキさんに会えて、驚いちゃってるんだと思います。あ、あの実は他にも、色々聞きたいことがあって……あ、でももう夜も遅いですよね……、あの、また明日、お話しましょうね」


「あ、はい、また明日」


 そう言うとユリアは向かいの部屋へと入っていった。


 うむ……? なんだ……? なんか妙に緊張していたな。いや、ユリアはいつも俺の前だと緊張していたから、別にそこまで変ではないが……なんだろう? 違和感というか。いつも以上に緊張していると言うか。ああ、そうだ、ホフナーだ。ユリアの新しい一面を見たから少し変に感じるのだ。

 俺はてっきり、『ユリアは常に人前で緊張するから俺に対しても緊張しているのだ』と思っていたが……ユリアは、ホフナーを相手にしている時は緊張していなかった気がする。ということは、俺に対してだけ特別に緊張しているのだろうか……うーん。


 まあ、今日はちょっといいや。色々やって疲れたし、なにより夜も遅くなってきた。

 寝よう!



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