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一章11話 異世界三日目 初めての礼拝①

 こちらの世界に来て三日目の朝。太陽の眩しさを感じて目が覚めた。朝日が窓から差し込み、ベッドに横になる俺を暖かく照らしてくる。昨日は起床が遅くなってしまったが、今日はいい感じに目が覚めたようだ。

 素早く準備を済ませ、軽く朝食を食べ、宿の従業員に教会の場所を教えて貰い、それから宿屋を出る。教会の位置はギルドから大通りを南に15分ほど進んだ場所にあるとのことだ。非常に大きな建物で、特徴的な時計塔と白く輝く外壁を持っているらしく、教えてくれた人曰く、「ギルドから南の方に見える時計塔を目印にしろ」とのことだ。

 その言葉に従い、宿屋からまずはギルドへと向かう。朝の寒さを感じつつ歩いていると、大通りには沢山の人の姿を見かけた。行き交う人々は各々がそれぞれの方向へと進んで行く。探索者らしき人も多い。彼らは、ギルドに向かう者もいれば、遺跡の入り口へと向かう者もいる。そして中には俺と同じようにギルドから南側へと進む者もいる。

 眩い青空に照らされながら、大きな時計塔を目印に、一歩一歩大通りを南へと向かっていく。そして少し進んだところで、白い壁が見えた。またその壁に囲まれた建造物が見えた。間違いなくアレが教会であろう。なるほど、確かに大きい。この世界に来て一番大きな建物だ。まあ、厳密には遺跡の方が大きいが、遺跡は建物と言っていいかよく分からないので、比較対象には入れないでおこう

 教会に近づくにつれて、遠くから見えた以上に、その大きさを強く感じる。


「いや、ちょっと大きくない?」


 外壁までたどり着いたときにそんな言葉が思わず零れてしまった。外壁だけでも5メートル以上はある。中の建物に至っては視界に収まらない程だ。こういう大きな教会は何て言うんだろうか。分類的には大聖堂だろうか? 宗教には詳しくないのでよく分からないが。全体的に白い建物だ。大きく、堅そうに見える。台風とかが来ても耐えられそうだ。台風来るか分からないけど。

 白い外壁は人を寄せ付けないように見えるが、大きな門は開かれていて、人々が自由に出入りしている。出る人よりも入る人が圧倒的に多い。昨日スイが言っていた朝の礼拝というやつだろうか。入る人には探索者風の人も見える。やっぱり危険な職業だからお祈りとかをする人が多いのかもしれない。

 色々と感動していたが、感覚的にそろそろ8時になりそうなので、少し急ぎ気味に門をくぐる。門の周囲には衛兵のような人が何人かいたが、特に呼び止められることもなく、入ることができた。良かった。

 そのまま、朝の礼拝に参加しそうな探索者風の人たちに付いて行く。門から入って少し歩いたところにある建物の中に人々が吸い込まれるように入っていく。あそこで礼拝が行われるのだろうか。俺も一緒に入ろうとして、ふと、足が止まった。


――そういえば、服装とか礼儀作法とかは大丈夫だろうか。


 今更すぎるが、そういったものを考えずに来てしまった。いや、服装的には他の人たちと大差ないし、問題なさそうだ。でも、俺、礼拝の作法とか知らないよな……勝手に入って怒られたりしないだろうか。しまったな、スイに最低限は聞いておくべきだったかもしれない。

 そのまま、一人オロオロしていると、背後から声をかけられた。


「おお~、お兄さん、ちゃんと来たんだ。えらい、えらい」


 振り向くと、こちらに手を振る灰髪の美少女――スイがいた。この前会った時と同じように、黒色が基調のローブのような服を着崩している。


「スイさん。どうも、おはようございます」


「うん。おはよう、お兄さん。昨日ぶりだね」


 そう言ってから、スイは小さく欠伸をした。眠そうに見える。


「もしかして、朝、苦手ですか?」


「朝が得意な人なんていないよー、お兄さん」


 再度欠伸をしながら、スイは答えた。


「はは、まあ、分かります。あれ、でも、それでしたら、なぜこの時間に?」


「苦手だから、お兄さんを呼んだんだよ~。司祭様のお話は退屈だし、聞いてたら眠くなっちゃうよ」


 そういう信仰心に欠ける話を、教会関係者がしていいのだろうか……?


「自分がいても、眠さは変わらないのでは……?」


「話し相手がいれば、だんだん頭も冴えてくるんだよ~」


「ああ、礼拝中に話ってしてもいいんですね。ちょっと意外でした」


 俺は、礼拝というものは黙ってするものだと思っていたが、そこらへんは宗教によって違うのだろうか。


「司祭様のお話のときに喋るのは駄目だよー、お兄さん」


 俺の言葉に対して、悪びれもせずにスイが咎めてきた。


「ええ? でも今話し相手って……」


「大丈夫、大丈夫。別の所で話せばいいから。というわけで、行ってみよー、お兄さん」


 そう言うや否や、スイは俺の左手首を掴み、目の前の建物ではなく、別の建物へと歩き始めた。昨日の二の舞にならないように慌てて付いて行く。


「スイさん、スイさん、あの、皆が入っていった建物に入らなくていいんですか?」


 雰囲気から考えて、あれが礼拝用の施設に思える。


「だいじょーぶ。だいじょーぶ。他にも建物はあるから」


「え? いや、でも、一応、今礼拝の時間なのでは……?」


「だいじょーぶ。だいじょーぶ。今から行く場所は『ヘルミーネ礼拝堂』だから」


 それならいいのか、と一瞬思ったが、まだ気になることがあったので、俺の手を引くスイに対して質問を続ける。


「え、え? あれ、でも、礼拝って神父様みたいな人の言葉を聞いたりするんじゃ?」


「だいじょーぶ。だいじょーぶ。私、ここの教会の聖導師だから。儀式は一通りこなせるよ」


 聖導師……宗教的な役割か何かだろうか。


「え、え、え? いやでも、その勝手に使っていいんですか『ヘルミーネ礼拝堂』って場所……?」


 自分で言っていて、いや、さすがに無許可で使用するわけないか、と思っていたが、スイからの返答は予想外のものだった。


「だいじょーぶ。だいじょーぶ。司祭様には『主を信じていない人に教えを説くために使います』ってちゃんと言っておいたから」


 主を信じていない人、か……


「……ん。なるほど……?」


 無神論者、いや不信者みたいな感じか。

 ……今更ではあるが、不信仰って許されるのだろうか。なんか心配になってきたな。

 ああ、でも、スイの態度から見るにそんなに責められてる感じはしないか。それに信仰を持っている人は、それ特有の雰囲気が出てしまうものだと思う。

 俺は特に何らかの信仰を持ち合わせてはいないから、つまり信仰を持っている人特有の雰囲気は出ていないはずだ。つまり信仰を持っていない人に周りからは見えるはずだ。だが俺はこの三日間とくに不自由なく過ごせた。だからたぶん、信仰を持っていなくても問題はないはずだ。

 あ、でも……スイからも信仰心のようなものは感じない。だから俺が考える「特有の雰囲気論」は前提として成り立たないような気もするな……うーむ。


「なんだかお兄さんが不敬な事を考えている気がする。何を考えているのかな~」


「え、いや……その、そういえば、教会の事をよく知らなかったなと思って……」


 一瞬考えていたことが分かったのかと思い焦りそうになるが、それを抑えてスイの言葉に答える。

 そして答えながらも思う。『教会のことをよく知らない』って場合によっては変な言葉かもしれないということを。

 この教会やスイが信仰している宗教はどれくらいの知名度なのだろうか。地方の小さな信仰ならば特に問題は無いのだが、国家レベルの宗教とかだとちょっと不味い気がする。国教を知らないって変な人だからだ。

 それ故、失言だったかもしれないと思いスイの方を少し緊張気味に見るが、スイは特に気にした風でも無く、


「ん~。お兄さんはやっぱりあんまり教会と関りが無い人だったかー」


 などと呑気に口を動かした。

 ……あまり重要な宗教ではないのだろうか? 

 いや……先ほど見た外壁は堅牢そうに見えたし、この聖堂も大きく立派な造りに見える。さらに言うと、この聖堂の立地がクリスク遺跡街の中心街に近いということから考えても、影響力のある宗教のように思える。どちらかと言うとこの辺りではメジャーな宗教なのではないだろうか。

 それに、朝、俺は宿屋で教会の場所を尋ねる時に単に『教会』とだけ聞いた。そして、それで正確な答えが返ってきた。故にこのクリスク遺跡街では『教会』と言えば今いる教会を指すようだ。

 つまり、このクリスク遺跡街には他の教会が無い、又はこの教会に比べてとてもマイナーな教会だということだ。なので相対的にメジャーというか、下手したら他の宗教が禁止されている状態かもしれない。もしそうだとすると国家レベルの宗教ないし、世俗にとても強い影響力を持つ宗教だと考えられる。いや? 偶々一種類の宗教しかこの辺りに伝播していないという可能性も無いことはないけれど……

 うーん、難しいな……

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