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二章27話 会いたくないあの人


 朝日を浴びゆっくりと目が覚める。寝起きは悪くない。昨日はリュドミラやスイの手紙にだいぶ心を乱されたことを考えると、かなり良いと言っても良いかもしれない。やはり睡眠は偉大だ。思考や感情が整理される。

 リュドミラやスイの手紙の事を意識し過ぎないようにしつつ、身支度を済ませ部屋を出る。

 階段を降りていき、宿の受付の前を通り過ぎようとした時、視界の端に違和感を感じた。歩きながらそちらをチラリと見て、思わず足が止まる。

 そこには知っている人物がいたからだ。ただ、その人物は好ましいと言える人物ではなかった。つまり、どちらかと言うと会いたくない人物だ。


 ――なぜ彼女がここに?


 疑問を抱きつつも、嫌な予感がしたため、即座に彼女に向けていた視線を逸らす。

 俺は彼女に気付いていないふりをしながら、素知らぬ顔で受付の前を通り過ぎ宿を出ようとするが、それよりも早く小柄な少女が赤いツインテールを揺らしながら近づいてきた。

 あと数歩で出口というところで、少女――リデッサスの危険な探索者、ミーフェ・ホフナーが俺の前に立ちふさがった。


「ん。おはよう」


 少し眠そうにしながらも、ホフナーは口を動かした。近くには人がいない。つまり今の挨拶は俺に向けたものだ。

 初対面の時のような苛立っているような雰囲気は感じない。というか、今までで一番穏やかそうに見える。いやまあ、あくまで相対的な話であり、普通に気が強そうな顔立ちや雰囲気は以前と同じなので、ユリアのような優しい少女と比べる圧が強い。


「………………おはよう、ございます」


 俺はそれだけホフナーに告げると、彼女迂回して進もうとする。しかし、俺の動きに合わせてホフナーが斜めにスライド移動し、再び進路が塞がれる。


「話があるから、ちょっと顔貸してよ」


 唐突にホフナーはそんな言葉を俺に投げつけてきた。チラリとホフナーの腰元を見る。ナイフの収まった鞘が左右にそれぞれ一本ずつある。ふむ。


「え、……いや、ちょっと予定がありまして」


 突然であり、また内容が不明であり、何より『ホフナーのような面倒な人と関りたくない』という思いから、適当な言葉を口にしてしまう。まあ嘘ではない。一応、今日はギルドに行ってみるとか、遺跡に潜ってみるとか昨日の時点ではなんとなく考えていたからだ。


「予定? 何? 今から潜るの?」


 ホフナーは探索者故か、直ぐに遺跡と思ったようだ。


「ええ……まあ、そんな感じでしょうか」


 彼女の理解に乗りつつ、会話からの離脱を計る。このまま今日は遺跡で忙しいからという風な雰囲気を装い脱出しよう。


「ふーん。まあいいや。それなら先にそっち済ませよっか。ミーフェも一緒に行くから」


 そう言うと、ホフナーは俺の前から体を動かした。進路が開かれた。しかし、ホフナーの言動からまるで、俺のあとを付いて行くような感じだ。

 ……? いや、なんでだ?


「あ、えっと?」


 思わず疑問が漏れる。


「何? 行かないの?」


 ホフナーは少し不満げな表情で俺を見た。


「あ、いえ……そうですね」


 とりあえず、進路が開いたため、宿から外に出る。当然といったような顔でホフナーも宿から出て俺の横に並ぶ。

 いや、え……? 

 何気なく、ホフナーから離れらないかと思い、大通りを少し早めに歩く。当然といったような顔で再びホフナーは俺の横に並ぶ。

 …………??


「こっちってことはギルド? 依頼受けるの?」


 横からホフナーが声をかけてくる。

 確かに俺の向かう方向はギルドだ。ただ、それは特に理由はない。ホフナーから離れらないかどうか考えているだけで、向かう方向など適当だった。偶々、ギルドの方だっただけだ。まあ、一応、元々今日はギルドにでも顔を出そうと思っていたので、ホフナーに会う以前の行動方針に沿っていると言えなくもないのだが……

 それにしても、なぜ付いてくるんだ。正直な話、ホフナーは、俺がこの世界に来てから『一番関わりたくない』と思った相手だぞ。


「ええっと、依頼はまあ、良いものがあればという感じでしょうか。ところで……ホフ、いや、ミーフェさんは自分に何か……あ、いや、ミーフェさんもギルドに何か用があるんですか?」


 話を合わせつつ、言葉に気を付けながらホフナーの真意を探る。


「ミーフェは別にギルドに用なんて無いよ。一流の探索者はギルドに媚びたりしないから」


 ……? なんでギルドに媚びる媚びないの話になるんだ……? いまいちわからん。ただ、まあ、前回この少女と会ったときの感覚からして、この少女は人に尊敬されたいタイプだ。逆に言うと、舐められたくないタイプだ。ここは突っ込まず話を流しつつ、上手い感じに彼女を遠ざけられないかを考えよう。


「ああ、えっと、そうでしたか。ただ、自分は、もしかしたら、ギルドでだいぶ時間を使ってしまうかもしれないので、ミーフェさんにご迷惑をかけてしまうかもしれません。日を改めて頂くわけには……?」


「日を改めて? ああ、別の日にするってこと? 別にいいよ。ミーフェ今日は暇だし、一緒に付き合うよ。長い付き合いになるんだから、最初くらいはミーフェが譲るよ」


 ……?

 …………??

 ………………???

 ん?!


――今、ホフナーのやつ、長い付き合いになるとか言ったか? それは困る。どのような意味で言ったのかは確定ではないが、それでも困る。どのような意味でもホフナーのような厄介で不安定な存在を身近に置きたくない。それに今、俺が思ったことが正しければ、俺にとってかなり悪い意味でホフナーは『長い付き合い』という言葉を使っている気がする。


「長い付き合い、ですか……どうして長い付き合いになると? まあ、お互いしばらくはリデッサスで活動することになるかもしれませんから、そういう意味で、でしょうか?」


 違ってくれ、違ってくれ、と願いながらもホフナーに問う言葉を絞り出す。


「ん、だから――って言ってなかったか。お前が用事があるとか言うからミーフェは譲ってあげたんだけど、お前が今話したいみたいだから、今、話すね」


 この言い方、先ほど宿屋で言っていた『話』に繋がるようだ。そして、その『話』というのは、俺とホフナーが『長い付き合いになる』というものを含むものであり、そして俺の予想が正しければ……嫌だ。話を聞く前から拒否したくなる。話を聞かずに立ち去りたいが、ホフナーのような厄介なやつにそれをやったら、もっと大変なことになりそうだ。


「お前はリデッサスにいる探索者の中では、そこそこ腕が良いみたいだから、ミーフェが特別にパーティーを組んであげるよ。リデッサス最強の探索者のミーフェが組んであげるんだから、ちゃんと感謝しなよ」


 ホフナーは不敵な笑みを浮かべながら、そんなことを言ってのけた。


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