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二章14話 リデッサス遺跡街での探索


 それから数日間をかけて北方遺跡群についての情報を集めた。時には資料を調べ、時にはギルドの売却窓口や遺跡の入口で張り込みデータを集めた。集めたデータを宿で解析し、自分専用のリデッサス遺跡街の攻略法の作成を行った。その他にも探索に必要な道具なども買い揃えた。


 比較的充実した日々であったと思う。宿屋をギルドの近くに変えたのも作業効率を上げる上でとても良い選択だった。

 またこの数日間で自分の中に燻っていた炎もだいぶ下火になってきた。きっと後、一週間もすればあの想いも消えてなくなり、再び穏やかな日が訪れるだろう。その事に対して不思議と寂しさのようなものを感じたが……いや、決して実らぬ恋を思い続けるよりも、安らかにそれでいて心地よく日々を送れる方が良いだろう。


 一度首を振り思考と感情を振り払う。そうして手元を見る。手元には書き終えたスイへの手紙がある。あとは封蝋を施すだけだ。そう、以前お店で注文しておいた印璽(スタンプ)がついに完成したのだ。自分専用の印璽(スタンプ)だ。お店には『個人用で風っぽい雰囲気のやつを良い感じにお願いします』という非常にアバウトな注文をしたが、作り手の能力が高かったためが、かっこいい感じのやつを作って貰えた。ちゃんと風っぽい雰囲気がある。ちなみに風にした理由はそんなに深い理由は無く、単に以前、ルティナたちに風の魔術の適正があると教えて貰えたので、将来風の魔術師に成っても良いようにと思い依頼した。成れるか分からないけど。

 さてと。蝋を火で炙り閉じた手紙垂らす、そして固まる前にすかさず印璽(スタンプ)を押す! おお! なんか楽しい! 印璽(スタンプ)を押し切ったのを感じ、手紙から離す。

 おお~、ちゃんとマークが施されている。これぞ封蝋って感じだ。まさしく西洋の手紙って感じ。良い感じだ。うん。よし。これを後で送ろう。教会に持って行けば送れるらしいので、今日の用事が終わった後にでも出そう。

 そうそう、今日は用事があるのだ。まあまあ大事な用事だ。今日はついにリデッサス遺跡に突入するのだ。これまでの情報を纏めたところ七遺跡の空白となる時間をそれぞれ見つけることができた。最も混雑が予想されていたリデッサス遺跡の空白時間は午後三時半から四時半までの間だ。

 この辺りの時間は遺跡に入る探索者がほぼいなくなり、遺跡から出る探索者もかなり少なくなる。安全地帯である一層・二層で採取可能な素材の入手可能性から考えて、一層・二層で活動している探索者の数はほぼゼロではないかと推測される。三時半より前は三層から五層程度で活動していると思われる昼組が帰ってくることがあるため、一層・二層での遭遇率が上がってしまう。また四時半以降だと今度は中層組から深層組の帰還と被ってしまうので彼らと遭遇する可能性がある。まあ、深層組はほとんどが転移結晶を使うので、遭遇するとしても、その相手は中層組だろう。


 リデッサス遺跡用の『適合の塗料』を靴に塗り、宿を出てリデッサス遺跡へ向かう。本日探索する遺跡については少し悩んだが、やはり、この街の名前がリデッサス遺跡街ということもあり、中核となっているリデッサス遺跡を探索対象に選んだ。最初の探索だし、せっかくだからといった感じだ。まあ、安全地帯があり内部構造が複雑ではない遺跡は、七つの遺跡の中ではリデッサス遺跡とニノウォ遺跡のどちらかなので、実利的にも良い選択だと思っている。

 賑やかな大通りを歩いていたら、無事リデッサス遺跡の入口に着いた。時刻はほぼ三時半。丁度良い。入ろう。

 階段を降りきり一層の地に足を踏み入れると同時に、久しくなった『感覚』が頭の中に響いた。クリスク以来と考えると、最後に『感覚』を味わったのは十日以上前のことだ。懐かしいと思いつつ、地図を見ながら、『感覚』が導く先に、足を進める。広々とした空間を歩くこと十五分。大路から外れた、少し入り組んだ所で灰色の石を見つけた。確か、これは、と思い手帳を素早く確認する。『アラバイト石』だ。この石を加工したものが上級魔術関係の品の製造に使用されるらしい。本来ならばリデッサス遺跡の二十三層で入手可能なものだ。うん。一発目にして中々希少なものを見つけた。

 『アラバイト石』をバックパックに仕舞いつつ、『感覚』の反応が消えたのを確認し、二層へ続く階段を目指す。十分ほどでたどり着いたので、転ばないように注意しつつも素早く階段を降りる。この探索の制限時間は一時間、もう半分近く経過したのだ。急いで二層にあるものも回収しよう。意気込む気持ちを抑えつつ、二層の地を踏み、それと同時に再び『感覚』が発動する。その導きに従い駆け足気味に歩き、歩いた先で貴重素材を見つける。今度は見た事があるものだ。青色に輝く鉱物――『ジキラルド結晶』だ。クリスク時代に何度も手に入ったものだ。リデッサス遺跡でもクリスクと遺跡と同じように貴重品のようで、本来なら十七層で見つかるものだ。クリスク遺跡だと十四層で見つける事ができるため、一瞬クリスクの方がリデッサスより入手しやすいのかと思ったが、入手できる頻度に差があるらしく、実際はリデッサス遺跡の方が入手しやすいらしい。

 まあ、あくまでその傾向があるというだけで、リデッサス遺跡街でも普通に貴重品ではあるようだ。まあ、個人的にはもう何度もクリスクで見たので、あまり希少という感じはしないが……

 『ジキラルド結晶』もバックパックに仕舞う。そして素早く階段を上り一層に戻り、そこから流れるように歩き遺跡を出た。


 うむ。現在時刻はだいたい四時半だ。計画通りに行動できて満足だ。しかも、今回の探索で三つの良かったことがあった。


 一つは戦利品だ。今回入手したものは、『アラバイト石』が両手が抱えるほどのサイズのものが二つ、『ジキラルド結晶』が掌に乗るサイズが四個だ。ものすごくざっくり計算すると、金貨六十枚くらいの収入になりそうだ。時給換算すると凄いな。前の世界のバイト代の何倍だ? とてもじゃないが、こういう経験をすると、まともに労働できなくなりそうだ……恐ろしい。

 いや、まあ、今は単純に成果に喜ぼう。売却価格だって色々あって変わるかもしれないのだ。売った後に色々と悩もう。それにしても、どう売ろうか? やはり調整組に紛れて売るというのが良さそうかな? まあ、そのあたりは上手く立ち回ろう。目立ちすぎないようにちょっとずつ時間を調整しながら売ればよいだろう。


 二つ目は誰にも会わなかったという点だ。入手したデータやその解析からして、誰にも会うことがない、仮に誰かと遭遇したとしてもせいぜい一、二パーティー程度だろうと考えていたが、それはあくまで理論・予想であって事実とは異なるということもありえた。自分の推測が正しかったこと、情報面で安全に遺跡を探索できたこと、そして今後の安全性もある程度確保できたことなどが分かったのはとても大きな一歩だ。


 三つめは『感覚』がちゃんと発動した点だ。これはかなり大事な事だ。今までクリスク遺跡でしか使う機会がなかったので、もしかしたら『感覚』は遺跡に有効な能力なのではなく、クリスク遺跡にのみ特別効果を発揮するものという可能性もあった。

 しかしリデッサス遺跡でも発動したことからして、少なくともただ一つの遺跡でしか発動しない能力ではないことが分かった。というか、単純にかなり離れた場所にある二つの遺跡でそれぞれ同じように発動したのだから、おそらく全国の遺跡で同じように効果を発揮する可能性が高いのではないかと思っている。とても嬉しい。場所に縛られずに能力を使えることは、利益の安定性の面でも、自身の安全面でも、好ましいことだ。


 良いことがあると同時に悪い事もある。いや、正確には反省すべき事と思うところだろうか。時間が思ったよりかかってしまうという点だ。

 今回の探索はちょうど一時間で終わったため、予定通りに行動することができたが、それは採取物のタイプに恵まれていたという面がある。今回の採取物は二種類とも、遺跡に落ちているタイプだったので、ただ拾うだけで済んだ。だが、遺跡とくっついているタイプ――つまりほぼすべての植物や、無機物でも遺跡とつながっているものや大きすぎて砕く必要があるものなどを見つけた場合は、その採取作業に時間がかかってしまう。そうすると、一時間を超えてしまうだろう。予定時刻の超過は他の探索者との遭遇率を上げてしまい、それは長期的な安全性を損なう可能性がある。

 気を付けるべきだが……うーん。一応今回の件で考えるならば、一層の『感覚』で見つけた希少品の採取に時間がかかりそうならば、一層分だけ回収して二層には行かずに切り上げるというのが一番簡単な対策方法だろうか? 二層に行かないのは獲得機会の損失という気もするが。いや? 流石にそれはリスクに対してリターンを重視しすぎかもしれない。とりあえず、リデッサス遺跡のような内部が混雑することがある遺跡を探索するときは現在時刻と離脱時刻の両方を意識しよう。


 一度宿に戻り荷物を整理し、着替えを済ませ、大事な手紙を持ち、再び宿を出る。向かう先は教会だ。スイへの手紙を出しに行くのだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 検証ターンですね とりあえずは別のダンジョンでも感覚が発動することが分かって一安心 いつまでも謎の感覚頼りだと少し怖いから徹底的に検証して自分のものにしてほしいところ [一言] スイちゃん…
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