89/248
【習作】夢の中で揺れていた風
楽しい夢を見た
どんな夢だったか忘れてしまった
ひとつだけ覚えているのは
とても懐かしい人達に囲まれて
自分が笑っていたということ
それだけだ
そしてその人たちが誰だったのかが
どうしても思い出せない
まるで前世の記憶ででもあるように
その人達の顔は
青い湖面の波紋の上にあるように
ゆらゆら揺れて形を結ばない
その水の揺れ方が
薫るような風を作り出して吹く
その風の揺れ方がとても懐かしいのだ
とても親しかった友達がそこにいたと思えた
私は自分の創作物のようなその子に
嘘のない微笑みをしてみせて
人類が生まれた時から変わらない風の中で
確かな命とともに
生まれてきてよかった
私は生まれてきてよかったのだと
けっして言葉に出すことはなく
ただしみじみと
感じていたのだった