【純文学】俺の心理描写
俺は「げえっ!」と言った。
なぜ言ったのかはわからない。作者がなぜ言ったのかを描写してないからだ。
どんなふうにそれを口にしたのか──驚いて思わず言ったのか、ゲロを吐いた時の声なのかもわからない。もちろんこれも作者が描写してないからだ。
ここがどこで、俺がどんなやつで、今がどの時代なのかもわからない。まったく……基本を知らないのか、この作者は? いつ、どこで、誰が──なんだっけ。5H1Wだったか? それともTPOだったっけ? タイム、プレイス、オ……オ……オって何だ。オッサン?
とりあえず俺は手に持った拳銃を前に掲げると、ヤツに向かって一発撃った、……ヤツって誰だ? どんなヤツだ? 人間なのか、それともなんかモンスター系なのか、はっきりしろ!
「オマエ……頭が悪そうだな」
ヤツはニヤリと笑うと、見下すようにそう言った。どんな声でだ? 大体ヤツは男か女か? それともカマなのか? また、そう言われた俺は、ほんとうに頭が悪いのか? そう見えるだけなのか? それとも全然そうは見えないのにヤツがそう言ってるだけか?
「うるせえっ! そんなほんとうのことを言うな!」
ヤツの挑発に乗って、俺はタマをぶっ放しちまった。っていうか俺がほんとうに頭が悪いということが確定した。
「うぼぅ!」
額に穴が開いて、ヤツは血の噴水をあげながら、ゆっくりと後ろへ倒れた。
やっちゃった……。
俺、殺しちゃったよ、先生を……。え。先生? 何の先生?
そんなことを考えていると、ヤツが笑いながら立ち上がる。不死身か、コイツ。いや、そんなわけはねえ。ヤツはただの音楽教師。名前は宇都宮槇湖。俺が密かに想いを寄せる27歳の美人教師だ。
「高森くん?」
槇湖せんせいが言った。
「教室で拳銃なんてぶっ放しちゃダメですよっ?」
そしてユラユラと、ゾンビ特有の歩き方で近づいて来ると、俺の頬を両手で掴み、大きく口を開け、リンゴを齧るように、俺の脳味噌にかぶりついた。
あんまりだ──あんまりだ、先生。こんなのが初体験だなんて……あんまりだ。
心に深い傷を負った青春は、俺の未来にどんな悲劇をもたらすのだろう。そう思いながら、俺もゾンビ化した。