【ヒューマンドラマ】アホの子、立つ!
「立った! 立った!」
廃児が大喜びしている。
「アホの子が立った!」
くらくらと、クラ〜……クララと、アホの子が立ち上がる。
今まで14年間、ずっと畳の上でゴロゴロと寝そべっていた、アホの子が。
「うぐぐ……!」
アホの子は、産まれて初めて必死になっていた。
前に必死になったのは母の産道を通った時だったが、その時には助産婦さんがいた。
今は一人で立ち上がらなければならない。
自分の力だけで。
「立った! 立った!」
廃児がずっと大喜びしている。
「アホの子が立った!」
しかしまだ立ち上がりきってはいない。
廃児もやはり、アホの子2号であった。
お茶の間では、両親と祖父母が口を半分開けて、ずっとラジオを聞いている。
ラジオからは戦争終結と母国の敗戦を報せる玉音放送がずっと繰り返されていた。
「立った! 立った!」
住居不法侵入してきたどこかの子供の分際で、廃児がまだ大喜びしている。
「アホの子が立った!」
「あたしが立たねば、誰が立つっていうのよ!?」
アホの子は歯を食いしばった。
弱っていた前歯がボロボロと崩れ落ちていく。
日本の未来は、彼女の肩にかかっていた。