【コメディー】呪いのたらこ人形
とってもかわいい部屋だった。
初めて遊びにいったマキナちゃんの部屋は、かわいいもので溢れてた。地味なあたしの部屋とは大違い。
ファンシーないろんなぬいぐるみ、キャンディーを模した置時計、白とピンクで統一された家具、お姫様みたいなベッドとカーテン、枕の上に、たらこ……
「ちょっと待ってください!」
あたしは思わずマキナちゃんにツッコんでいた。
「あれは何ですか! あの、あのあのあの……枕の上のものは!?」
「えっ? たらこ人形だよ?」
不思議そうにマキナちゃんは言った。
「かわいいでしょ? 知らないの?」
「は……! 流行ってるのですか!?」
「うん。あたしの中では大流行り」
「世間的には!?」
「これからブレークするよ? 間違いなし」
それはあまりにもこの部屋に、そしてお姫様みたいなマキナちゃんに、似つかわしくないものだった。
スポンジと生クリームでできたようなお部屋の中にひとつだけ、生々しい臓器のようなそれが、ぱんぱんに張った皮の中にはおそらくは無数のブツブツが内蔵されているそれが、ぽんと置いてあるのだ。
しかも人の形をしていた。まるで臓物で作られた藁人形じゃないか。
「な……、何に使うんですか? あれ」
「もちろんかわいさを愛でるものだよ? そっちの白くまさんと同じ」
「食べ物では……ないのですか?」
「うん。一応本物でできてるからね。食べることもできるかも」
そう言いながら、マキナちゃんが、かわいい机の引き出しから五寸釘を取り出した。
「なっ……、何をするんです!?」
「え?」
不思議そうに首を傾げてあたしを見た。
「打つんだよ? もちろん」
それもまたマキナちゃんの手には似合わないふつうの五寸釘だ。おまけに使い古した金槌をどこからともなく取り出すと、マキナちゃんは、打った。
「そーれっ」
かわいい声をあげて、かわいい柱にたらこ人形をあてて、使い古された金槌でそのど真ん中に五寸釘を打ち込んだ。
「もーいっちょ」
すると五寸釘がたらこ人形をそこに完全に固定してしまった。
「ほら見て? かわいいでしょ」
だらだらと透明に赤の混じった汁を流すそれを見つめて、マキナちゃんが満足そうに微笑む。
「これからのカワイイの主流は『生物』と『呪い』だよ? 覚えておいてね」
かわいいカーペットの上に敷かれたかわいいクッションに座り、かわいいティーカップで香ばしい紅茶をいただきながら、あたしは柱に打ちつけられたたらこ人形を愕然としながら眺めた。
でも、見慣れたら、なんかかわいいかも? 自分のほうが間違ってたかも? そんな風に思えてくる。
よかった。
あたしはまともな感性の持ち主だ。
日本を代表する『カワイイインフルエンサー』であるマキナちゃんのすることが、かわいくないわけがないのだ。