大江戸裏稼業
華やかな江戸の町も、路地裏には陰が潜んでいる。
「まっ……、待てっ!」
襤褸を着た浪人風の男に追い詰められ、丁髷を美しく結った町人の若い男は、手を前に差し出し、早口で言った。
「あんたの作るカレーうどんは確かに旨い! だが……」
「だが……何だと言うのだ?」
浪人の声に殺気が漲る。
「だが……しかし……っ!」
「だが……しかし?」
浪人の掲げる刀が振り上げられる。その切っ先には尖った三日月が浮かんでいる。
「だがしかし……、カレーに一番合うのは白飯だ! なぜそれをうどんにかけなさる!?」
浪人の刀が振り下ろされた。
町人の丁髷が真っ二つにされ、脳天から吹き出した液体は、黄金色にも似た茶色であった。
浪人が口ずさむ。
「おうち、はちみつカレーだよ」
時は米不足の頃。
江戸の町人はそれでも白米を毎日五合以上食べていた。
白米ばかりを食べる食生活が原因で、ビタミンB1不足による「脚気(江戸わずらい)」が蔓延していた。
そこへ南蛮より渡来したカレーなるものが流行り、町人たちの身体の中はもはやカレーライスと化していたのである。
そのような堕落した町人どもに粛清を施すため、裏稼業の者たちは、カレーうどんを発明した。
そしてカレーうどんを馬鹿にする町人どもは──
カレーパンを産みました。
意味がわからんわ!