【してはいけない企画失敗作】けっしてカレーうどんだけは食べてはいけない部屋
親友の美沙が一日だけマンションの部屋を留守にするというので、私が留守番をすることになった。
留守番とはいっても、じつはお願いしたのは私のほうだ。彼女の豪華なマンションの部屋にぜひとも住んでみたかったのだ。
「置いてあるものは動かさないでね。ゲーム機は好きに使っていいわよ。Nintendo Switchで遊んでもOK。猫ちゃんとも遊んであげてね」
純白のチンチラ猫が「なぁー」と言いながら笑った。
キッチンへ案内すると、美沙は冷蔵庫を開けた。
「中に入ってる食料品、自由に食べていいわよ。賞味期限の近いものから片付けてね?」
開けられた冷蔵庫の中を見て、私は盛大に驚いた。
「高級食品がいっぱい! これ、好きに食べていいの?」
「うん」
「わぁい♪」
「ただひとつ、カレーうどんだけは食べないで」
「……え?」
私は美沙のことばを不審に思い、冷蔵庫の中を見回した。
ない。カレーうどんなんて、見当たらなかった。
あるのはフォアグラ、キャビア、松茸に北京ダック──それに数々の名店のスイーツばかり。
「食べたくても食べられないでしょ、これじゃ……」
「それじゃお留守番、お願いね」
美沙はまるで海外旅行にでも行くみたいな大荷物を身の回りに出現させると、部屋をすうっと出ていった。
「へへ……。ブルジョワ気分」
私はふかふかのベッドの上で飛び跳ね、ゲーム機で遊び、蛇口をひねり放題にひねり、猫と遊び、スマホを見ながら放屁し、冷蔵庫の高級食品を猫と一緒に食い尽くすと、やることがなくなった。
ふと、テーブルに立てかけてあるタブレットが気になった。
「なぜ……こんなところに、ぽつんとタブレットが?」
電源を入れてみて驚いた。
ラーメン屋さんとかにある注文用タブレットだった。
メニューはラーメンに限らず、定食や丼もの、そしてうどんもあった。
これで注文を入れれば出前してくれるようだ。
トップ画面には『今日のおすすめ』が表示されていた。
──豚肉たっぷりスパイシーカレーうどん
とても食べたくなった。
お上品な、お腹にたまらないものばかり食べたので、ここらでガッツリ庶民的なものが食べたくなったのだ。そして食べたくなったと同時に注文していた。
もちろん、白い猫がいる部屋で、カレーうどんは食べてはいけないなんてこと、当たり前だったのだが……。
ずるずるとカレーうどんを食べる顔を上げ、ふと見ると、純白のチンチラ猫が黄色いまだら模様になって私を見ていた。
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