★【異世界恋愛(7,418文字)】『イセコイパンク』〜 もしかしたらあたしは貴族令嬢!? もしかしたら彼は宇宙人!? 〜
全ジャンル完全制覇に向けて書いていた『異世界恋愛』作品ですが、途中挫折しました。
読んでもらって丁寧なアドバイスまで頂いていた咲月そら様には『お礼は作品完成でお返しします(๑•̀ㅂ•́)و✧』とか言ってたのに申し訳ないm(_ _;)m……と、思ったので、頑張って完成させました。
正直まとめきれなくて失敗だと思う上、後半は早送りみたいになってしまいましたが……
それでも完成させた自分を褒めてやりたいと思います。・゜・(ノ∀`)・゜・。
異世界恋愛を書くのはこれが初めてです。
宇宙人イセコイをお楽しみくださいませ。
今日もジェロームがいじめられてる。
傍から見たら、たぶん普通にみんなで仕事をしてるように見えるんだろう。
でも本当はそれがいじめられてるんだってわかるのは、ジェローム本人とたぶん、あたしだけ。
大工仲間のダミアンさんが木材を加工してる横で、ジェロームは何していいやらわからない顔で立っている。
ダミアンさんが何も指示しないからだ。
「あの……。これ、どこに運べばいいんでしょうか……」
聞かれてもダミアンさんは「ふん」としか答えない。
そんなこと聞かなくてもわかれという顔だ。
でもあたしでも知ってる。装飾用の木材をどこに使うかなんて、職人さんにしかわからないこと。
ちゃんと正しい場所に置いて用意しとかないと、後で棟梁が頭からツノを生やす。
結局運ぶのもダミアンさんが全部自分でやった。ジェロームをただ「役立たずが」みたいな顔で見るだけして。
知ってる。後でみんなに言いふらすんだ。
「ジェロームは使えないウスノロだ」って。
ジェロームは何もさせてもらえず、自分の判断で掃除を始めた。
彼の綺麗な銀色の捲毛は現場の中で浮いているんだ。だからいじめられる。
箒で木屑を集めている彼に、チリトリを持ってあたしは近づいた。
「こんにちは、ジェローム」
「あ……」
「もしかして、あたしの名前、知らないの?」
「知ってるよ。……アリサ」
ジェロームはあたしの東洋的な顔立ちを珍しそうに見つめながら、綺麗な声でそう言ってくれた。
「そうよ、アリサよ。ギヨーム村のアリサ」
あたしはチリトリを地面につけて、
「はい。ここに入れてね」
「ありがとう」
ジェロームはとっても丁寧にお礼を言うと、綺麗な顔に微笑みを浮かべてくれた。
箒でチリトリに木屑を入れる時も、あたしの手にかからないよう、丁寧に掃き入れた。
「あんた、年、いくつだったっけ」
あたしが聞くと、ジェロームは年上みたいな笑いを浮かべて、答えた。
「15」
「あたしより1つ下なんだ?」
「そうなんだ?」
「うん」
会話が途切れたので、あたしは聞いてみた。
「ねえ、なんであんた、いじめられてんの?」
「いじめられては、ないよ。ただ、嫌われてる」
「じゃあ、なんで嫌われてんの?」
「最初にね、……初めて仕事に加わった時、僕が先輩に聞かなかったんだ」
「何を?」
「わからない」
ジェロームはかぶりを振った。
「何を聞いたらいいのかわからなくて……」
「じゃあ、ごめんなさいって言えばいいんじゃない?」
「どう謝ったらいいのかもわからなくて……」
「きゃっ」
「きゃっ?」
「きゃっはははっ! きゃーっ!」
あたしはなんだか笑い出してしまった。
こんな不器用な子、見たことない。
仕方がない。このあたしがわかってあげよう。
「笑って悪かったわよーう……」
怒ったように早足で歩きはじめたジェロームを、あたしはパタパタ追いかけた。
「ねえ、あんた。お腹空いてない?」
あたしは彼を追いかけながら、川原に生えてたプチプチ草の葉っぱを二本チギると、一本を彼の手に後ろから握らせた。
「何……、これ?」
「えーっ? あんたプチプチ草を知らないの?」
川の水にパシャパシャ浸して、食べてみせる。
「こうやって、唇でしごいて、食べるの。歯で噛んだらダメだよ? 辛くなるから」
唇の間で葉っぱがプチプチと音を立てて、甘酸っぱい汁を口の中に流し込んで来る。
正直お腹は満ちないけど、美味しいし、おやつぐらいにはなる。
見よう見真似でジェロームはそれを口にすると、カエルでも口に入れたような顔をした。
「こんなのいっつも食べてるの?」
「あら。口に合わない?」
あたしが不満そうな顔をすると、ムキになったようにもう一口試した。
今度は上手に唇でしごけたみたいで、にかっと笑うと、言った。
「面白いね、これ」
教会の鐘が鳴った。
あたしとジェロームは川の水に全部の足をつけて、バシャバシャ言わせながらお喋りをした。
「今日の仕事はおしまいなの?」
「とりあえず僕はやれることがないから、あっち行けってさ」
「それでお金は貰える?」
「働かなきゃ貰えないよ」
「ダメじゃない。無理やりにでも、やらせてくれ! って言わないと」
「僕、そんなことが出来るほど本気じゃないんだ」
「立派な大工になりたいわけじゃないの?」
「僕はね、ほんとうは詩人になりたいんだ」
「詩人!?」
意外な言葉に思わず大声が出た。
でもジェロームは顔が綺麗だ。体つきも背は高いけど細いを通り越してヒョロヒョロで、そういえば大工よりは詩人向きだ。
自分の言った言葉に照れることもなく、ジェロームは微笑んだ。
「聞いてくれる?」と、その綺麗な微笑みに言葉を乗せた。
『貴婦人』 作:ジェローム
貴女の 頭は ひまわりのよう
太陽ばかり 見て くるくる回る
貴女の 微笑みは ひまわりのよう
私には向かずに くるくる 太陽を追う
ああ 高貴な貴女 貴婦人よ
私は貴方の手を繋ぎ 川へ叩っ込みたい
「きゃーっはっはっは!」
あたしが突然笑い出すと、ジェロームはむくれたような顔をした。
「なんだい。失礼だな! 僕の自信作なんだぞ」
「だってぇ〜! なんで川に叩っ込んじゃうのよ? クスクスクス」
「新しい詩の開拓を目指してるんだ」
「へぇ〜……。クスクスクス」
「笑うなよっ!」
ジェロームが手を振り上げたので、叩かれるかと思って頭を守った。
でも彼はその手を自分の銀色の巻毛に乗せただけだった。
「叩かないの?」
「叩かないよ。女性は敬うものだ」
「川には叩っ込むのに?」
「あれは妄想」
どういう妄想なんだろう。
妄想ではそんなことをするのに、実際には女性は敬うものだなんて……
変な子! ふふふふふ……。
「アリサ!」
遠くから名前を呼ばれた。振り返ると、川の向こう側からドワーフのギィ親方があたしを呼んでる。
「ギルドに来い! 給仕を手伝え!」
「ドワーフに使われてるの?」
ジェロームがびっくりしたように聞く。
「失礼ね。あたしの育ての親よ?」
「ドワーフが? 君、ドワーフに育てられたの? へー!」
大抵の人はこれであたしから遠ざかる。あたしの育ちをバカにする。
でもあたしはギィのことが大好きだから、嘘つきたくないし、むしろ胸を張ってパパだと自慢したい。
ジェロームは、言った。
「かっこいいね!」
わかってくれるひとを、探してた。
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ギルドで親方達がするお話は、あたしなんかにはわかんない。
でも、親方達がギィのことを尊敬し、仲間だと思ってくれていることだけはわかってる。
「ギィ。今回の王都に建設する大聖堂の仕事は、あんたがいなけりゃ出来ない」
「でも王都の貴族どもはあんたの姿を見たら差別的なことを言い、追い出そうとするだろう」
「だから……、すまないが変装をしてくれ。人間に見えるように」
親方達はギィの大工の腕がとても良いことを知ってる。
だからドワーフでも同じ人間として扱ってくれる。
でも理由はそれだけじゃない。
「わかった。その通りにする」
ギィは他の親方達と同じ席に座って、同じお酒を飲みながら、みんなより低い背でうなずいた。
「アリサ! 川魚の焼いたのを持って来てくれ!」
「おっきな声出さなくてももう焼けてるよ〜、ギィ」
あたしはすぐに大皿に3匹、大きな焼き魚を乗せたのをテーブルに持って行った。
「アリサ、今日も可愛いね」
親方のおっちゃん達がいつものように、あたしを褒める。
「こんな良い娘を育てたギィは大したもんだ」
「心の美しい娘を育てられるのはギィの心が綺麗だからだな」
あたしは山賊に両親を殺されたらしい。
両親の顔は覚えてない。
1人だけ隠れてて助かった幼いあたしをギィが拾って、育ててくれたそうだ。
最初は心の傷がひどくてとても育てにくかったと聞いた。
でもこんなに明るく可愛い女の子に育て上げてくれた。
そのことが大きいんだよね。親方達がドワーフのギィを信頼してるのは。
「遅れましたっ」
そう言いながらダミアンさんが入って来た。
「おう、ダミアン」
親方の1人が言った。
「お前も今日からギルドの一員だ。市政に口出せるようになるぐらい、頑張んな」
ダミアンさんがにっこり笑った。
ダミアンさんの笑顔をあたしは初めて見た。仮面みたいだと思った。
自分より上だと思う人相手だけには笑うんだ?
その笑顔が、テーブルに着いてるギィを見た瞬間、いつもの偉そうな表情に変わる。
親方以外は街の誰でもがギィのことをわかってないから、差別するんだ。
「ダミアンさん」
ギィに何か失礼なことを言うような気がしたので、先んじてあたしは紹介した。
「あたしの育てのパパよ。ギィっていうの」
「は?」
ダミアンさんが無表情な顔の中の、目だけを大きく見開いた。
「お前、ドワーフに育てられたの?」
「ダミアン……。気持ちはわかる」
親方達がギィを擁護してくれる。
「だが、私達はギィを仲間として扱っている。君も……」
「あっ。そうなんですね? わかりました! 仲良くするよう頑張ります!」
そう言って仮面みたいな笑顔をまたつけた。
でも次の瞬間、あたしとギィを交互に見た時のダミアンさんの顔は、いつもの小馬鹿にするような表情に、一瞬で戻ってた。
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大工さんの数は48人。
腕自慢の職人さんもいれば、指示に従ってお手伝いの仕事をするだけの人もいる。
みんなで作っているのは共同住宅だ。
完成したら今まで簡易宿に住んでたあたしとギィもここに入ることになっている。
「きゅうけーい」
あたしはガンガンとバケツを叩いてみんなに知らせた。
「お昼にしましょー」
現場の敷地内で作った野菜とベーコンのスープをみんなにふるまった。
行列を作ってあたしの前の大鍋の中を一人ずつ覗き込む。
ジェロームが列の一番最後だった。
「よかったね、あんた。たっぷり作っといたからベーコンもまだ残ってる」
そう言いながら、お椀に入れたスープをあげた。
「……これは、何?」
ジェロームがお椀の中を覗き込んで、あたしにそう聞いた。
「これって、どれのこと?」
「この……赤いやつ」
「ベーコンよ。知らないの?」
「ベーコンって……何?」
「豚肉を腐りにくいように燻したやつ」
あたしがそう説明すると、ジェロームが言ったのだった。
「豚肉って……何?」
「豚肉を知らないなんて、あんた何者?」
あの川原で、また2人とも全部の足を水に浸け、パシャパシャいわせながら、あたしは言った。
「庶民の代表的な食物よ? それを食べたことないなんて、あんた……」
ジェロームは答えた。
「じつは……僕……、宇宙人なんだ」
「うちゅーじん?」
そんな言葉、聞いたこともなかった。
「うちゅーじんって、何?」
「知らないの?」
「うん知らない」
「夜になったらここから星がいっぱい見えるだろう?」
「うん。綺麗だよね」
「あの星のひとつから、僕はやって来たんだ」
「何言ってるのー?」
おかしくて、あたしは笑い出してしまった。
「夜空って世界の天井だよ? 星はそこに神様がつけられた装飾。シャンデリアの蝋燭からやって来るようなもんよ、それ? どうやってそんなとこからやって来たのよ?」
ジェロームがかわいいものを見るように、あたしを見て笑った。なんだかそれが小馬鹿にされてるみたいな気がして、ムッとしてしまった。
「そうだ。あんた変わり者だから、隠遁者のお仕事してみたら?」
小馬鹿にされたお返しのつもりで言ってやった。
「貴族のあいだで流行ってるらしいよ。庭園に隠遁者を住ませる趣味が」
「知ってるよ」
ジェロームは意外なことに知ってた。豚肉を知らないくせに。
「高い給金を払って隠遁者……つまりホームレスを住ませるんだろ? 鹿を住ませて自分の屋敷の庭に自然を演出するみたいな考え方だ。悪趣味だよ。しかも雇われた隠遁者は何もせずに生活しないといけないきまりだ。自由に生きたくてぼくは城を出てきたのに……」
なんか意味のわからないことばを聞いたので、口を挟んだ。
「城?」
「あ……。いや……」
「城って? 何?」
わかった気がした。
「前にも星から来たとか言ってたし……詩人になりたいとか言うし……もしかしてあんた、妄想癖あるの?」
「そ……、そうなんだ。ぼくは星の王子様で……さ。なんて……」
「そんな物語を考えるのが好きなのね?」
「うん。そうなんだ」
なんだかばつが悪いみたいにうつむいてしまったジェロームがかわいくて、つい、あたしは彼のほっぺたにキスをしてしまった。
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ギィが大怪我をした。
建設中の建物の上から落下して、背中を強く打ったのだ。
呪術師のイームさんのところへ運び込まれたと聞き、仕事を投げ出してあたしは駆けつけた。
ベッドに寝かされて、ギィは死んでいるように見えた。
「ギィ!」
その胸に飛びついた。温かい胸に。
「死んじゃいや! いやだーーっ!」
「アリサ……」
ギィが喋った。
「死ぬ前に……おまえにほんとうのことを話しておかねばならん」
「ほんとうのこと……?」
「おまえは山賊に両親を殺されたところを俺が拾ったと話してあったが……あれは嘘だ」
どうしてだろう。あたしは今、ギィを誰かに助けてほしい。そのこと以外はどうでもいいはずなのに、ギィの話に耳を傾けた。
ギィは続けた。
「おまえは異世界からやって来た赤ん坊だった」
「……異世界?」
「ああ……。光る竹を見つけてな、切ってみたら、竹の中におまえがいた。おれはそれを拾って、育てたんだ」
「かぐや姫かよ」
「ツッコむな。おまえが愛する義父を失おうとする感動的な場面なのだ」
「で?」
「つまりおまえはこっちの世界に転生してきた日本人という設定だ」
「ふむふむ。チート能力とか使えるの?」
「うむ。掃除が素晴らしくうまく、料理の腕もチート級なのだ」
「そんな設定なかったろ」
「ハハハ。なんか俺の死ぬ場面がコミカル」
そこへバーン!と扉を開けて、ジェロームが入ってきた。
「君のお義父さんは死なせない!」
ジェロームの後ろから貴族の格好をしたおじいさんが入ってきた。お医者さんのようだ。あっという間に高度な医療技術でギィを治してしまった。
「すごい! ギィ、背中を骨折してたのに、一瞬で治っちゃった!」
「わし、ドワーフだから」
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あたしはお城に連れて行かれた。
ジェロームは身分を隠していたが、お城の第二王子だったのだ。
なんかダイジェストになっちゃったけど、そこは許してほしい。
謁見の間に向かって、あたしはいつもの野良着姿でお城の中を歩いた。
お高くとまった紳士淑女があたしのことを珍しそうにジロジロ見る。ジェロームがその人たちに唾を吐いて下がらせた。
謁見の間に行くと、王様がすっ裸で偉そうに椅子に座っていらっしゃった。
「おお、ジェローム! 家出をしておったが戻ったか!」
「父上……。なぜ裸なのです?」
「ふふ。おまえはバカなのだな? バカには見えぬという服を余は着ている」
「バカはおまえだ」
「ところで、おまえの隣におる、その汚らしい町娘は? 何者じゃ?」
「私はこの娘と結婚します」
あたしは言った。
「どひー!?」
「私は町へ下りて、大工見習いとして働いておりました。役立たずな私を皆、蔑みました。綺麗な銀色の捲毛をもつ私を異種の者として見、差別されました。しかし彼女だけは、私に優しくしてくれたのです。だから私は、彼女に惚れました」
王様が激怒なさった。
「ならん! 汚らしい町娘などと結婚してはならん! 第二王子とはいえ、王族のおまえが……」
あたしは言った。
「あたし、こんな薄汚い時代よりもずっと進んだ現代日本から来たんですけど?」
あたしは前世の記憶を取り戻していたのだ。
そう、あたしは21世紀の日本に暮らす、清潔で、この世界に比べたら高度な現代教育を受けた、ただのOLだったのだ。
「結婚してくれるね、アリサ?」
「うん! 幸せにしてね、ジェローム」
あたしが即答したのはもちろん彼の身分に目が眩んだからだったけど、もしこれがダミアンさんだったらたとえ王族でも拒否ってた。
ジェロームはかわいい。
ギィの命の恩人でもある。
恋愛感情は意識してなかったけど、今、惚れた。
あたし、貴族令嬢になれるんだ!
いや、もしかしたら王妃になれちゃったりして?
そう思っていると、ジェロームが王様に言った。
「それでは私は城を出て、これより町でアリサと暮らします」
「「はあ!?」」
王様とあたし、同時に驚きの声を出してしまった。
「私は貴族の暮らしを軽蔑していた」
ジェロームは今まで見た中で一番のイケメン顔で言った。
「貴族をディスる詩を書く『パンク詩人』として生きて行きたいのです」
そう言うなり、ジェロームがあたしの手を握り、駆け出した。
逃げるように廊下を走っていく。
「ジェローム! ばかものが!」
王様の声だけが追ってきた。
「進んで不幸になるつもりか!? 貴様などこちらから破門だ! 好きに出ていくがいい!」
それを聞いたらジェロームは走るのをやめ、歩き出した。明るい顔で、あたしに語る。
「ぼくは自由が好きだ。人間が好きだ。そして貴族のお高くとまったくらしが大嫌いだ。だから城を出て、町でパンクな詩を書く詩人になりたい」
あたしはよくわからないけどうなずいた。
「そうなのか」
「君を貴族令嬢にはしてあげられないけど……それでもいい?」
あたしは、にこっと笑った。
「いいよ。なんかあんたと一緒に生きるの楽しそう」
「よし! ギィのところへ帰って一緒に豚肉料理を食べよう」
お城では豚肉は穢れた肉だとかいって決して食べないらしい。
ジェロームはあたしの作る豚肉料理が大好きになっていたのだ。
よーし、あたしのチートスキルで美味しいのたくさん食べさせてやろう。
前世の記憶が甦ったあたしは、王族の教養で天文学を学んでいるジェロームと同じどころかそれ以上に、夜空に輝く星がただの石だということを知っていた。
でも、それをジェロームと並んで見上げると、ロマンチックな装飾にしか見えないのが不思議。
結婚式はギィの家のちっぽけなテラスで行われた。
「新郎……てめぇ、おれの愛しいアリサを幸せにすると誓うか?」
神父様役のギィが聞く。
ジェロームは自信たっぷりの綺麗な笑顔で、言った。
「誓います」
「新婦はコイツとおれのどっちを愛しますか?」
ギィが難しいことをあたしに聞いた。
「二人とも大好きです」
あたしはそう答えて、にっこり笑った。
星のシャワーがあたし達を祝福するように、夜空から降り注いだ。