★【菊池祭り】 菊池夫人の憂鬱
菊池夫人は白いプラスティックの椅子にもたれかかり、素っ裸でため息をついた。
「どうなさったの? 菊池夫人」
「あら……。小田夫人ではございませんの。こんなところで奇遇ですわね」
お盆期間の日帰り温泉施設はめっちゃ混んでいた。
芋の子を洗うような露天風呂の休憩スペースで二人は偶然出会ったのである。
「菊池夫人は新婚さんでしたわよね? 一番甘く楽しいはずのそんな時期に何をため息なんかついてらっしゃるの?」
「小田夫人……。わたくしの下の名前はご存知ですかしら?」
「ええ、もちろんですわ。和泉子さんよね?」
「わたくし……、気づきませんでしたわ」
「えっ? 何にですの?」
「今までわたくし、高倉和泉子でしたの、結婚するまでは」
「ふむふむ?」
「それが結婚して、菊池和泉子になりましたのよ」
「それが何か?」
「皆様がわたくしのこと『きく・チーズ・みこさん』とお呼びになりますの! へんなところで区切りますのよ! よよよ!」
「まあ……。そうでしたのね。泣かないで、チーズみこさん」
「そこで区切るなあっ!」
「それでブルーになってらっしゃったのね? 大丈夫、あなたの悩みなんてちっぽけだわ」
「ちっぽけっていうなあっ!」
「わたくしの旧姓は吉川ですの。それが結婚して小田になって、吉川真理が小田真理になりましたのよ」
「おだまり!?」
「小俣くんが大好きな世良かおるさんはかつて、結婚したら『お股香る』になることを恐れてらっしゃったのよ」
「それって漫画ですよね!?」
「しかもかおるさんのお母さんは世良という名の殿方と結婚して『世良チヨ』になりましたのよ」
「フェラチ◯!?」
「だからあなたの悩みなんてちっぽけなのよ。ウフフ……」
「す……、すみませんでしたっ!」
ちゃん、ちゃん♪