【冬のホラー企画2失敗作】ぬるい風が吹いた
ぬるい風が吹いた。
1月の吹きっさらしの街に、ぬるい風が吹いた。
「あったかいねぇ」
「ありがたいことだ」
あっちこっちで人間が、そんな感想を交わしあっている。
氷に覆われたアスファルトの上は気をつけて歩かなければいけない。気を抜くと滑るのはもちろん、転べば正体がばれたりしかねない。
俺は靴裏に針をつけているとはいえ、慎重に、慎重に、スマートフォンも見ないようにしながら、二本の足でゆっくりと歩いた。
「お日様は出てないのに、なんでこんなにあったかいんだろうねぇ」
「どうでもいいよ。過ごしやすければ」
呑気なものだ、人間は。
氷の街にぬるい風が吹く異常気象だというのに、自分さえ今が無事ならいいらしい。絶滅しろと思ったが、俺は何もしない。ただその時を待っている。
中央管理塔は山のように街の中心に聳え立ち、今日もしかつめらしく灰色に霞んでいる。まるでこの世の神のように、まるでこの街を守る全知全能の力のように、無表情な機械のように、しかしただの山のような存在感のなさで街の中心に聳え立っていた。
アイドル志望の若い娘の小さな群れが、俺の前方からやってくるのが見える。あれだな? と俺は見当をつけた。赤や青や金色といった派手な髪や衣裳が、この色褪せた街の中に突如現れた絵の具のように、黄色い小鳥のような声をあげながらやってくる。
ぬるい風が吹いた。
1……2……3回! 続けて吹き抜けた。
それが合図だった。
何の?
作者は何も考えていなかった。