【現実恋愛?】装飾の多過ぎるラブ・ストーリー
愛は燦めく風の中にあった。
美しいその男の名は太郎。フリルのふんだんについた王子のごときV系ファッションに身を包み、銃刀法違反などどこ吹く風、腰には大きな赤い鞘にミスリルソードを挿している。
麗しきその女性の名は花子。地味な名前に地味な見た目。しかし内から溢れる高貴さは隠しきれない。摘んだスミレの花を三束持つそのたおやかな指先には、王妃のごとき威厳が漂っていた。
「ああ、太郎。あなたはどうして太郎なの?」
華々しきショッピングモールの休憩スペースで、ベンチで休憩中の知らないおじいちゃんを挟み、二人は熱烈に見つめ合っていた。
祝日のショッピングモールは賑わいを見せ、子供がおどけて駆け回るのを疲れた顔のお母さんが大声で叱っている。
「名前が太郎だからさ」
太郎は、さらりと、答えた。
「でもほんとうは太郎なんて名前じゃないんだぜ」
「えっ? 騙したのね?」
初耳のその情報のあまりのショックに花子は戸惑う。心が不安定なメリーゴーランドのようにふらふらガタガタと揺れ始めた。
「本当は太郎に装飾がつくんだ。Chromeネックレス太郎さ」
翳っていた花子の空の雲間から光が差した。
「何だそういうことだったのねテヘペロ〜」
「そういうことだったのさテヘペロ」
金色のたんぽぽの綿毛が、季節はずれに燦めく初夏の風に乗って、二人の唇のあいだを通り過ぎて行った。
歌が流れ始めた。
テヘペロ
テヘペロ
テヘテヘテヘ
ペロペロペロ