【純文学】堂々としたたこ
「ひどいじゃない!」
「にゅる?」
「あたしよりたこ壺なんかを選ぶだなんて!」
「にゅ〜……る〜?」
「この浮気者! アンタなんかもう彼氏だなんて思わない!」
「にゅる、にゅる」
「何よ、その堂々とした態度!? ばかにしてんの!?」
「にゅるる〜ん」
「大体、たこ壺なんかのどこがよかったの!? 教えて!?」
「にゅるるる」
「え? 人間のあたしなんかにはわからないって?」
「にゅっ、にゅっ」
「だから何よ、その偉そうな態度!? 何ぜんぶの足で立ち上がってんのよ!」
「にゅ〜るる〜」
「胸を張らないでよ!」
「にゅふふ」
「大体アンタの胸ってどこよ!?」
「にゅにゅにゅ」
「何後ろ向いてんのよ!? こっち向きなさいよ!」
「にゅっ!」
「口を尖らせないで! すねてんの!?」
「にゅん、にゅん」
「え? そこは口じゃないって? じゃあ口はどこよ?」
「にゅうっ」
たこは前を向き、八本の足の付け根の真ん中にある口を見せ、黒くて鋭い牙を開いてみせた。
「ぎゃああああっ!? あんた人間じゃないっ!」
「にゅ……」
女は悲鳴をあげて逃げ去った。
たこはひとり残されたが、堂々と岩の上に立っていた。