★【ホラー?】にやまー
「キャブオーバーだ」
水川が言った。
俺はその言葉の意味を知らなかった。
「キャブオーバー? なんだそれは? どういう意味だ?」
「知らねぇのかよw」
水川は俺を馬鹿にするように笑った。どうやら水川も知らないようだった。
俺達は2002年式のマツダボンゴフレンディに乗り、林道を走っていた。
この森の先にあるというキャンプ場をめざしていた。
「乗り心地はどうだい? かなちゃん」
水川が後ろを振り返る。
かなちゃんは一番うしろ、3列目の席に座っていた。2列目には荷物が山ほど置いてあり、いわば真ん中を荷室として、俺達とかなちゃんの住む世界が、区切られていた。
かなちゃんは天使のように微笑むと、一言だけ、言った。
「話しかけないで」
「はい……」
水川は大人しく前に向き直ると、運転を続けた。
俺達はこれから、かなちゃんをキャンプ場へ送り届けるところだった。
彼女はウチの仕事場のアイドル的存在で、みんな彼女が来るのを待ちわびていることだろう。
俺達は彼女を送り届けたら、そのままとんぼ返りする予定だ。
水川が言った。
「なんかケツの下があちぃ」
俺はぽつりと返事した。
「シートヒーターのスイッチでも入ってるんじゃないか?」
「そんな豪華装備ついてっかよ。20年前の車だぜ?」
「じゃあ、おまえのケツに火でもついてるんじゃないか?」
「キャブオーバーだよ、キャブオーバー」
「だからそれは何だ」
「運転席の下にエンジンがある車のことです」
遠いところからかなちゃんがそう教えてくれた。
「へぇ! よく知ってるねえ!」
水川が嬉しそうに振り向く。
それきり会話が途絶えた。
チラリと見ると、かなちゃんは遠いところでネイルの手入れに集中しているようだった。
「お待たせー」
水川は車を停めると、ドアを開けてそう言いながら、みんなに手を振った。
「待ってましたよー」
キャンプ場のみんなは既にテントを張って、カレーを作りながら俺達を待っていた。
「ご苦労さま」
「もう帰っていいですよ」
「……って、あれ? かなちゃんは?」
「かなちゃん連れて来るのが先輩達の仕事でしょ?」
「あー、かなちゃんは……」
水川がみんなに説明した。
「キャブオーバーだ」