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第94話 許嫁はムスッとむくれる

「…………結愛さん?怒ってます?」


 新学期が始まって数日が経過した。2年生になったからとは言え、周りの環境が特に変わることはない。



「別に、怒ってないですけど」

「いや、どう見ても怒っているように見えるんですが……」


 そんなある日の家でのこと、いつも通り学校から帰ってくれば、ムスッと頬を膨らませている結愛がリビングにいた。


 ついつい莉音が敬語になるくらいには深刻な雰囲気を感じ、いつ機嫌を損ねたのかと考える。

 結愛が怒っているということは、間違いなく莉音が悪いのだろう。


 その自覚はあるが、何をしたのかと言われれば思い当たる節はない。



「ごめん。何かしたのなら謝る」

「あ、いえ、、、これは莉音くんが悪いというよりかは、私の心の狭さに憤りを感じているというか……」


 莉音が謝罪をしてみせれば、ソファに座っていた結愛は慌てて体を起こして否定をする。



「結愛の心が狭い訳ないだろ」

「それが狭いんですよ。莉音くんには分からないかもしれないですけど、」


 不服そうな顔をする結愛は、莉音がソファに座ったのを確認すれば、同じようにソファに座る。その位置がさっきよりも莉音の方へと近付いているのは、見ていれば考える必要もなく分かるだろう。


 手を伸ばせば触れられる距離に、結愛は無防備に腰掛けていた。



「何がそう思わせてるんだ?」


 結愛が相変わらずムッとした表情をしているので、莉音も気になって声を掛ける。

 結愛の心が狭いと自覚させることなんて、尚更した記憶がない。


 しばらく間を置いた後に、結愛はゆっくりと話し始めた。



「…………その、ずるいなって。新学期になって皆んな莉音くんと話してるのに、私だけ距離を取らないといけないから……」


 話し始めた結愛は、恥ずかしさからか顔を赤く染め、莉音とは目を逸らす。



「美鈴さんがいるから寂しくはないですけど、私も莉音くんと教室でお話したいです」

「あのな、話してると言っても挨拶くらいだぞ?友達として話してるのは修馬くらいだし」

「…………私はその挨拶すら出来てないんですけど」


 ジロっと少し鋭い目を向けられるが、火照った顔をした今ではその迫力もない。

 思い出してみれば、始業式の日から学校で結愛と話した記憶はなかった。


 あの日以降は挨拶もしていないので、結愛が不満げに感じるのも無理はない。



「それに莉音くん、私が話かけようとしても避けてる気がしますし。それがお互いのためということは分からなくもないですけど……」


 莉音が結愛と話さないのは、結愛のイメージを悪くしないため、というのが大きかった。

 少なからずヘイトは莉音にも飛んでくるだろうし、それで結愛に気に病んで欲しくない。


 莉音はそういった視線には慣れているし耐えられるが、自分のせいで、と思わせるのは結愛からすれば心地よいものではないだろう。



「折角同じクラスになってたくさんお話出来ると思ったのに、これじゃあ去年までと変わりませんよ」


 むぅと効果音でもつきそうな勢いで頬を膨らます結愛は、体重を莉音の体に預けてくる。ちょうど肩の辺りに顔を埋めて、不満を訴えるように数回頭突きをした。



「これで満足、というわけには?」

「そんなに簡単な女じゃないです」


 莉音の肩に頭を乗せる結愛を、莉音はそっと撫でる。機嫌取りというわけではないが、これだけで気を取り直すわけがない。



「でも周りが黙ってないだろ。結愛、男子から人気あるんだし」

「身に余る好意よりも、今目の前にある幸せの方が私は嬉しいですけど? それに周りからどう思われても、私は気にしませんよ?」


 きゅっと莉音の服を掴む結愛は、頬を赤く染めたまま言う。

 ここまで自分の意見を主張する結愛の気持ちを無下にするわけにもいかないので、莉音も思考を緩めた。



「…………じゃあ、少しずつ、話してみるか?」

「少しずつ、ですか?」

「そう少しずつ。家でのようなやり取りをいきなり学校でやったら周りも不審がるだろうから、ちょっとずつ」


 それならまだ問題はないのでは、と思った。結愛は花森さんと仲が良いので、そこ繋がりで話をしていけば、これといって違和感はない。


 ただ急接近すぎると周囲からの反発なんかが生まれるだろうから、少しずつ。



「それなら、まあ……」

「不満か?」

「ふ、不満なんてないです。満足です」


 そう言って頬を緩める結愛の頭をまた優しく撫でていれば、顔はふやけるようにどんどん緩んでいった。

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