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82話 許嫁とハグ

「莉音、お前テストどうだった?」

「今から順位見に行く」


 高校一年の最後のテストも終わり、教室で修馬と話をする。

 すでに答案自体は返されており、残るは順位を確認するだけとなる。


 返ってきた答案を見る限りでは、どれもそれなりに点は取れており、10位内に入るのも夢ではないのではと思っている。



「お前、今回のテストはいつも以上に勉強してたし、結構いいんじゃね?」

「そうだといいけどな……」


 廊下に出て、順位が張り出された場所へと向かう。学年末だからか、皆んな気合を入れていたようで、多くの人が集まっているのが視界に入った。



「なんでそんなに自信がないんだよ。折角努力したんだから、もっと胸張れよ」

「結果を見るまでは何も言えない」

「はぁー、夢を見るのも良いことだと思うぞ?」

「それは分かってるけど、テストは結果の方が大切だろ」


 修馬は俺の背中をバシバシと叩きながらも、元気に振る舞ってくれる。

 


「テストでは結果が大事なのは事実だ。でも結果よりも大切なものもあると思うけどな」

「…………そうか」

「まあ何にせよ、頑張ったのは本当のことなんだから結果が良くても悪くても受け入れろ!」

「はいはい」


 修馬の言葉に耳を貸しながらも、俺はテスト順位が張ってある掲示板を見た。30位までしか載っていないので、ここに載っている名前は限られている。


 なので、ここに載る人のことは割と覚えていたりする。



「おい莉音、白咲さんはまた一位だぞ」

「流石、、、だな」


 そして当然のように、結愛の名前は一位の場所にあった。

 家でも言っていたように、しっかりとそれを実現させていた。



「俺は……」


 一番初めに載っていた結愛の名前を見てから、次へ次へと横に目を向けていく。



「…………あった」

「良かったじゃん!莉音もちゃんと載ってるぞ!」

 

 そこに俺の名前も載っていたが、その順位に納得がいったかと聞かれれば、上手く頷けなかった。


 当然だろう。俺が目標としていたのは10位以内なのだから。惜しいと言われれば惜しいのかもしれないが、俺からすればその4位の差はかなり遠い。


「…………14位か」

「めっちゃ良いじゃん!良かったな!」

「あぁ……」


 14位という順位は決して悪くない。一応進学校の中では良い成績の方なので、素直に嬉しい。

 嬉しいはずなのだが、俺は上手に笑みを浮かべることが出来なかった。



「…………莉音、そんなに悔しそうな顔するなよ。お前よりも点を取れなかった人達もたくさんいるんだから。それにお前の順位だって十分凄いからな?」

「…………知ってる」


 修馬は俺の事情を知っているかのように、優しい声を掛けてくれた。


 きっと俺は、自分ならテストで良い点を取れると、表面には出さなくても、胸の奥ではそう思っていたのかもしれない。

 結愛と勉強を始めてから着実に成績は伸びていっていたし、そのおかげで前に12位という成績も取ることが出来た。


 だからだろう。時間をかけて頑張れば、10位以内にも入れると思っていた。

 でも現実はそう甘くなかった。思ったように進むほど、上手くは出来ていなかった。



「また次頑張れば良いだろ?な?」

「あぁ……そう、だな」


 言葉に出来ない気持ちを胸にしながらも、俺は修馬と共に教室へと戻るのだった。



 ♢


「莉音くん、テスト惜しかったですね」


 その日の授業を終えて家に帰れば、順位を見たであろう結愛が話題を振った。



「別に惜しくはないよ。10位以内に入るには、まだ俺の実力不足だったってことが分かったし」

「莉音くん……」


 俺は事実を述べただけだ。それ以外には何も言っていない。それなのに何故か、結愛は寂しそうな顔をしていた。



「それにしても結愛はまた一位か。やっぱ凄いな。約束通り、俺が結愛の言う事を聞けば良いんだよな?」

「そうですけど……」


 ソファに座り、若干眉をひそめている結愛は、首を傾げて俺の瞳の奥を覗き込んだ。



「莉音くん、無理しないでください」

「え?」

「無理に明るくしなくていいんです。らしくないです」

「…………結愛?」

  

 結愛はどこか怒ったような、それでいて凄く優しいような、そんな声を出す。

 


「それに、私のお願いは今の莉音くんから貰ってもちっとも嬉しくないです」


 隣にいる結愛は、真剣な目をしていた。その言葉に嘘なんてもちろんなく、その全てが本当のことなのだろう。


 どうやら今の俺は、結愛から見てそれくらい情けない顔をしていたらしい。



「莉音くん、悔しかったら、悔しいと口にしていいんですよ?それを何故隠す必要があるのですか」


 俺は結愛の言葉を聞いて、耐えられなくなった。ずっと堪えていたものが、凄い勢いで溢れてきた。



「…………結愛、俺悔しかった。今回のテストはいつも以上に頑張って、結愛の隣に立てるように初めて本気で取り組んで……」


 俺は今どれくらい情けない顔をしているのだろうか。自分の目標すら叶えられずに、ひたすらに悔しいと口に出している。


 だが結愛の表情は、さっきよりも嬉しそうで、それでいて明るかった。



「そんなこと考えてたんですか……」


 俺の話を聞き、少し照れた様子を見せる結愛を目に移しながらも、話を続ける。



「それでも順位は過去の最高順位よりも下がってて、俺は無力なんだって、そう現実を見せられた」

「莉音くん、、、」


 ただそれだけのことなのだが、結果が出なかった身としては悔しかった。

 しかし、たった一、二週間程度しか頑張ってないのに結果が結ばれると考える方が、傲慢なのかもしれない。


 一応毎日予習と復習は軽く行っているものの、真剣に取り組んでいたわけではない。目的もなく、やるだけやっていた。

 だから当然といえば当然だろう。毎日必死になっている人に、勝てるわけがない。



「莉音くん、ぎゅーってしときますか?」


 結愛は何を考えついたのか、両腕を広げて、俺を待っているポーズを取った。



「ゆ、結愛?」

「ぎゅーしますか?」

「…………する」


 今の俺に、その誘惑を断るほどの精神力は残っていない。両腕を広げて待つ結愛に、俺は体を寄せて腕を回した。



「結愛?なんで、いきなりこんなことを?」

「頑張った莉音くんにご褒美です」


 結愛の体は密着し、服越しでも柔らかさは伝わってくる。

 今は学校終わりのお互いに制服姿で、上にブレザーを着ているので防御力自体は高いが、それでも結愛の体は細く、それでいてある一部からは柔らかな感触が伝わってきた。


 小さくて華奢なのに結愛は暖かく、俺を芯から温めてくれた。



「で、でも俺、10位以内に入ってないぞ?」

「10位以内に入らなかったらご褒美がないなんて、私は一言も言ってないです。ただお願いは聞けないですけどね?」


 目を細め、緩んだ顔付きをしている結愛は、そう言って微笑む。普段はあどけなさがあり、人を寄せる愛嬌と可愛らしさを持っている結愛だが、今この時は尋常じゃないくらいの包容力があった。


 包み込まれて離れたくないと思うほどには、俺は結愛に抱擁されていた。



「莉音くん、いいんですよ?私のために良い成績を取ろうとしなくて」

「でも俺は結愛の隣に立てるように……」

「そんなことしなくても、今隣にいるので大丈夫です。私はそれだけで満足です」


 結愛の抱き寄せる力は強くなり、今に満足しているのが伝わってくる。

 こうしていると、さっきまで悔しがっていたのが嘘のように体から抜けていった。



「もちろん莉音くんが私のためを思って勉強をしてくれたのは嬉しいですけど、莉音くんにはそれがプレッシャーになってます。なので少しずつでいいんですよ、頑張るのは」


 なんて、そんな甘い誘惑をされては、どうしても頷きたくなってしまう。

 結愛によって、俺が少しずつ堕落させられてきている自覚はあるし、朝昼晩のご飯を全て作ってもらっているのだから頼ってしまっていると言う他ない。


 それ以外にも、俺は結愛にどんどん甘やかされているような気がした。



「あ、でも私が10位以内に入ったらお願いを聞くとか言わなければ、こんなことにはなりませんでした?」


 体をくっつけたままの結愛は、ハッと思い付いたような顔をして俺を見上げる。



「いや、それも多少はあるけど、勉強に対する本気度はそこまで変わらない」

「莉音くんの場合はそうでしょうね。私の何でもするは、莉音くんにとって良い成績を取るためのきっかけでしかないみたいです」

「そんなつもりない」

「冗談です」


 結愛のおかけで、大分気が楽になっているのが自分でも分かった。

 本当、つくづく結愛に敵いっこなさそうだ。


 俺の胸に顔を預ける結愛は、学校とは比べ物にならないほどに、表情を緩めていた。



「…………結愛、一つ訂正しとくことがある」

「何ですか?」

「俺は結愛にプレッシャーとか感じてないから。ただ単に俺の実力不足と努力不足だから。そこは訂正させて欲しい」


 俺は結愛の発言の気になった点を、今になって訂正した。結愛がプレッシャーや重りになっているだなんて、ただの一度も思ったことはない。

 

 俺が点を取れなかったのは俺の責任であって、それが結愛が原因のはずがない。

 


「もう、優しすぎですよ。バカ」


 俺の胸に顔を埋めた結愛は、一度引いて軽く頭突きをした。

 その痛くもない頭突きが、俺の瞳では小動物のように映った。そして言うまでもなく、可愛らしいと思ってしまった。



「言っておきますけど、一回の失敗くらい誰にでもあります。それに私は別に完璧を求めてるわけじゃないですよ。なので莉音くんも、どんどん失敗すべきです」

「寛大だな」

「莉音くんによってこうされました」

「俺のせいかよ」

「莉音くんのおかげです」


 側にいる人に認められ、そして見ていてもらうというのは、やはり嬉しかった。

 それが結愛なら尚更だろう。その結愛の想いに応えられるように、側で見守るしかない。


 結愛はただ隣にいてくれるだけで、幸せと感じてくれているようだから。



「…………あの、莉音くん……。私のお願い事は、聞いてくれるんですよね?」


 次に結愛に目を向けた時には、モジモジと恥じらいを見せた顔をしていた。



「もちろん聞くけど、今か?」

「今がいいです。今じゃないと駄目です……」


 変わらず、俺と結愛はお互いに腕を回したままの状態で、体をくっつけている。まだ体を密着出来るスペースはあるが、これ以上は進むべきではないだろう。


 それに、もう俺の理性が保てるとは思えない。



「何だ?俺に出来ることなら何でもするけど、」

「私が莉音くんにしてほしいことは……」


 結愛は俺を上目遣いで見つめ、ほんのりと頬を上気させながらも、ゆっくりと口を開いた。

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