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第80話 許嫁は何でもしてくれる

「ただいま」 

「おかえりなさい」


 放課後の教室で結愛と話した後、真っ直ぐ家に帰り、手を洗ってから結愛のいるリビングへと向かう。



「もう勉強してたのか」

「はい。もうすぐテストですから」


 リビングの扉を開ければ、テーブルに参考書やらを広げた結愛が真面目な顔つきでペンを動かしており、勉強しているというのはすぐに分かった。



「結愛、何か飲み物用意しようか?」

「いいんですか?ではココアで」

「了解。相変わらずココア好きだな」

「好きですね」


 俺が帰ってきたら、結愛は動かしていた手を止めて顔を向けてくれる。そして優しく微笑んで、また手を動かした。


 その顔を見てから、俺は鞄を置いて結愛の希望のココアを淹れる。



「ここ置いとくからな」

「ありがとうございます」


 数分後にココアを用意した俺は、結愛の勉強の邪魔にならないようにスペースのある所を見つけて、音を立てないように置いておく。



「…………嫌なら答えなくていいんだけどさ」

「何です?」


 それらを終わらせれば、俺もソファに腰を掛けて鞄の中から参考書を取り出す。

 そして一心に勉強に集中する結愛を見て、ふと思ったことがあった。



「結愛はさ、勉強する意味あるのか?」

「はい?」


 俺の言葉を聞いた結愛は、眉間にしわをよせて首を傾げる。



「それはつまり私の努力は無駄という事ですか?」

「違う。そういう意味で言ったんじゃなくて、結愛が今まで勉強してたのは両親に振り向いてもらうためだったんだろ?ならもうそんなの気にする必要ないんじゃね?ってこと」

「あぁ、そういうことですか」


 俺が思った事を最後まで伝えたら、結愛は納得した様子を顔に表した。



「…………確かに、私はもう勉強をしなくても良いわけですね」


 結愛も俺に指摘されて気付いたのか、握っていたペンを手放した。


 これまで結愛が勉強をしていたのは親に振り向いてもらい、そして褒めてもらうことが目的だ。だとしたら、それはもう俺がしてあげられる。


 なので、誰かに見てもらうために結愛が勉強をする必要はないのでと思うのだ。

 俺は結愛が勉強なんてしなくとも、目を離すつもりはないから。



「私は、私を見てくれる人も知ってくれる人も、もう手に入ったのですね」

「まあそうだな。俺はそのつもりだし」


 下を見つめ、思いにふけった表情で、結愛は静まる。



「でもやっぱり勉強は必要ですよ。将来のために」

「そうだとしても、目的のない努力はつらいぞ」


 結愛が勉強をするのが認めてもらうのではなく将来のためなら、俺が止めることは出来ない。

 だが、具体的な目的や手に取るような実感や達成感がないと、勉強を続けるのは辛いはずだ。


 結愛は前までのように、認めてもらいたいという思いは、弱まっているはずだから。



「…………それなら、勉強を頑張ろうと思える意味をつければいいんですね」

「ないよりはいいかもしれないけど……。そうだな…………勉強を頑張った自分へのご褒美を用意するとか、そんなのでもいいんじゃないか?結愛はそういうのしてないらしいし」

「ご褒美ですか」

「ご褒美を用意するとか、自分のやりたいことをやる、とか?」

「なるほど」


 こんなので結愛のやる気は達成感が満ち溢れるのかはさておき、自分のためにご褒美を用意するのとしないのとでは大きく変わってくるだろう。


 現に結愛の目の奥には強く光が宿っており、いつもよりも純な表情をして、俺と目を合わせた。



「…………でしたら、今回私がテストで一位を取ったら、莉音くんは私の言う事を何でも一つ聞いてください」

「何でも?」

「何でもです」


 何でもという言葉に若干戸惑いそうになるが、結愛が人が嫌がるような事はするはずもないので、俺は黙って頷く。


 言葉を発した結愛は、頑張って勇気を振り絞ったのか、耳がほんの少しだけ赤くなっていた。



「そんなので結愛が満足するなら、俺は喜んで身を差し出す」

「決まりですね」


 鈴を転がすような美しい声と共に、結愛は小さく微笑んだ。



「てか、俺に頼みたいことでもあるんなら、そういうのしなくても聞くけど?」

「それじゃ意味ないですよ。自分の力で叶えるからこそ意味があるんです」

「結愛がそう言うなら従う」

「従っておいてください」


 俺は結愛の願いなら全然聞くし出来るなら叶えたいと思うのだが、結愛本人がご褒美として叶えて欲しいと言うのなら、俺は黙っておくしかない。



「…………莉音くんは、何かご褒美のようなものをつけなくて良いんです?」

「俺?」


 結愛のご褒美が決まれば、今度は結愛が対象を俺へと変えた。



「はい。例えば……莉音くんが学年順位一桁になったら、私が何でも言う事を聞くとか」


 結愛も俺と同じように、ご褒美を用意しようとそんな提案をしてくれた。



「何故俺も?」

「だって目的のない努力は辛いって、莉音くんが自分で言ってたので」

「言ったけど……」


 結愛は自分だけ優しくしてもらうのを嫌い、自分がされた分は他人にも優しくする性格なので、ここで俺にもご褒美を与えてくれようとしていた。



「結愛はそれでいいのか?俺の言う事を聞くとか、嫌だろ?」

「同じことを莉音くんにしてるので、嫌じゃないですよ」

「嫌じゃないのか」

「はい」


 結愛は表情を変えず、真面目な顔で言う。

 俺が変な事を頼むとかそんな警戒はしていないのか、あるいはそれも許容範囲なのか、願いを叶えるのが男ならさておき、結愛は自分を安く売りすぎている気がする。



「うーん、何でもか」

「…………念の為に言っておきますけど、えっちなのは駄目ですよ?」

「分かってるよ。そんなの言うわけないだろ」

「まあ、分かってましたけど」


 俺が口に出して考えていれば、結愛は横から声を出した。

 元々俺は結愛にそんな自分の欲求を満たすようなお願いはするつもりは神に誓って全くない。


 それを前提にした上で、結愛は性的な目で見られるのは駄目と言っていたので、結愛が自分を安売りしていないんだと、俺はついホッと息を吐くほどに安心した。


 嫌ではなく駄目という言葉なのが、少しだけ引っかかるが。



「それにしても俺は学年順位一桁でいいのか?結愛は一位なのに」

「構いませんよ。一位と言っても、いつもと同じなので特に変わることはないです」

「かっけ。そんなセリフを一度は言ってみたい」

「言えるように頑張ってください」


 結愛はクスリと笑みを浮かべ、小さな手で俺のシャツを掴んだ。



「…………莉音くんが望むのなら、えっちなのも少しなら」

「願いません」

「知ってます。莉音くんが揺るがないか確認しただけです」


 本当、最近の結愛は油断ならない。つい気を緩めれば、一気に飲み込まれそうなので落ち着く暇もない。



「それじゃあ、勉強しましょうか。お互いのために」

「だな」


 何はともあれ、お互いに目的を立てたので、ここから先は勉学に励むしかない。

 結愛の言ったとおり、自分達自身のためにも。

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