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第67話 許嫁のお弁当

「莉音、お前今日はいつにも増して顔が明るいな」

「まあな」


 翌日の昼食時間、結愛の手作り弁当を朝から期待し、いよいよ食べる時がやって来た。

 朝は楽しみが減らないように弁当は視界には入れないようにしていたので、対面するのも今の時間が初めてだ。


 つい顔に出てしまうくらいには、俺はこの時間を待ち望んでいた。



「今日の弁当はタケノコの炊き込みご飯なんだよ」

「うわ、まじだ。いいな」


 手を洗い終えたら、席について弁当を開く。弁当箱の蓋を開ければ、そこからはしょうゆとみりん、そしてタケノコの混ざった美味しそうな食欲を掻き立てる匂いが鼻まで届いた。



「そんなに見てもあげないぞ」

「けちー」

「はいはい。何とでも言ってくれ」


 そんな俺の弁当を、修馬は正面から眺めた。一口頂戴とでも言わんばかりの瞳で、結愛の作ってくれた弁当に目線を集中させた。


 だが今日だけは絶対に譲れない。この弁当は結愛が俺のためにリクエストに答えて作ってくれた弁当だ。


 それをホイホイと人に分けるわけがないし、分けたくない。それを独占欲というのかは、また違う気がした。



「美味っ!」


 箸でそれを口に運びこみ、よく噛んで味わってから飲み込む。深く味付けされたタケノコに米、それらが口の中に染み渡り、どんどん食を進めた。


 その他に用意されたおかず達もどれも俺好みの味付けになっていて、表情が緩んでしまうのも仕方なかった。



「…………莉音は本当に美味そうに食うな」

「実際美味いからな」

「そういう素直な所に、白咲さんも作り甲斐を感じてるのかもな」


 俺が美味しいと口に出してしまうのにも、些細だが理由はある。それは結愛の作る料理が、日に日に美味しさを増しているということだ。


 それもそのはずで、結愛は今年になって料理を始めたばかりなのだ。だからすぐに成長するし、何度も作ってれば俺の好みの味付けだって分かってくるだろう。


 俺だって結愛の味の好みは分かっているし、当然結愛もそれに気づくはずだ。なので毎日美味しくなっているし、レパートリーなんかも増えるので、美味しいという言葉が自然と出てくるのだ。



「お前よ、白咲さんの手作り弁当ってだけでも学校中の人達は喉から手が出るほど欲しがるのに、流石に炊き込みご飯はずる過ぎだろ」

「…………それには感謝してる」


 俺が食べているのを再び見つめ始めた修馬は、結構本気で炊き込みご飯を食べたかったのか、若干妬みの混じった発言をする。


 

「はぁ、分かったよ。一口だけな」

「まじか!サンキュー」

「一口だけだぞ」


 そんな修馬を見てれば、何だかこっちまで申し訳ない気がしてきたので、一口だけだと固く言い付けて弁当を差し出した。



「おい何だよこれ!めっちゃ美味いな!」

「…………知ってる」


 弁当を受け取った修馬は、さっきまでとは比べ物にならないくらいの一口の量を取り、大きく口を開いてそれを押し込む。

 

 しっかり噛んで飲み込んだら、テンションを上げて言葉を述べた。



「てか、白咲さんって料理も出来たらもう完璧じゃん」

「確かに」


 修馬は高まったテンションのままそう言った。言われてみれば、結愛に欠点という欠点はない。運動は得意ではないそうだが、苦手でもないらしい。


 勉学については言うまでもなく、内面に関しても人一倍穏やかで品のある性格だ。ましてや顔なんて、今や学校中に知れ渡っていることだろう。


 その細かく整った顔付きは、一緒に暮らしている身としては時に危うい。



「良かったな。そんな子と結婚出来て」

「まだしてねぇし。それにいくら許嫁だとはいえ、俺は結愛のことを見守るだけだから」


 結愛がいくら周りからそんな評価を受けようとも、その評価をどうこう思うつもりはない。俺は結愛を他と変わらない1人の少女として見守ると決めたので、周りの評判に耳を貸す事はない。


 結愛だって、そうして自分の素を見てもらいたいはずだ。



「何その熟年夫婦みたいな関係」

「…………悪いか?」

「別に」


 修馬は俺と結愛の関係について真顔で指摘する。



「…………まだ先の事は分からないし、結婚とか実感ないけど、結愛のことはずっと見守るって決めたから。好きとかそういう気持ちなしに。」

「ふーん」


 どんな事があれ、どんな事を言われようと、俺はもう結愛のことを見守ると自分の意志で決めた。そこに亡くなった両親の影響は受けていない。


 異性として好きとかそういう感情ではなく、純粋に自分自身がそうしたいと思った。



「だから俺は結愛が嫌がるようなことはしない」

「莉音らしいな」


 俺の話を聞いていた修馬は、どこか嬉しそうな顔をする。そしてゆっくりと口を開いた。



「でも、今後白咲さんがお前を嫌がることは無いと思うぞ。余程のことがない限りだけど」


 修馬は止まっていた手を動かし出し、自分の弁当から一口分を箸で運ぶ。それを飲み込めば、俺と目を合わせた。



「…………いや、そんなの分からないだろ」

「はぁ。お前はいつから無自覚の天然男子になったんだ?」

「そんなものになったつもりはない」


 修馬は呆れたような目つきで俺を数秒見つめ、小さく溜息をついた。



「まあ俺からは何も言わないけどよ」

「何だよそれ」

「教えなーい」


 何かを理解し、そして悟ったような表情をしている修馬は、また前までのようにヘラヘラと悪戯に笑っていた。



「あ、噂をすれば白咲さんだ」

「本当だ」


 そこからまた普通の会話をしながら弁当を食べていれば、廊下には結愛が通った。

 すでに昼食を終えて歯磨きにでも向かっているのか、俺のクラスの教室を見ながら水道の方へと向かう。



「莉音の方見てるじゃん」

「そりゃ俺らが見てるからだろ」

「いや教室中見てみろ。ほとんどの人が見てるから」

「まじか」


 どうやら最近は花守さんと一緒に昼食を食べているらしく、2人はクラスが違うものの、共に廊下を歩いていた。


 そんな結愛に、俺を含む教室にいる男子は一斉に視線を向けた。教室内からは『白咲さん今日も可愛い』とか『もしかして俺の事見てる?』とか、そう囁く声が聞こえて来る。


 その注目度の高さには、流石と言わざるを得なかった。



『あれ、白咲さんが立ち止まった』


 次の瞬間、クラスメイト内ではそんなざわつきの声が生まれ始めた。

 俺もすぐに通り過ぎるだろうと思って廊下を歩く結愛のことを見ていれば、クラス内でのざわつき同様、結愛は教室の前で立ち止まった。


 その立ち止まった結愛と目が合っている気がするのは、決して俺の勘違いではないだろう。


 そして学校にいる時の固くきちんとした表情から、家にいる時と同じような柔らかい顔付きに変わった。



『…………美味しかったですか?』


 教室の前に立ち止まっている結愛がそう言葉を発したわけではないが、まるでそう言っているかのように、結愛は首を横に傾げて目一杯に微笑んだ。


 それが教室内をさらに騒ぎ立てることになるのは、一々説明する必要もない。



「結愛ちゃん、行こう」

「そうですね」


 俺の耳にはその言葉は聞こえなかったが、結愛と花森さんは2人で少し言葉を交わしてから教室を後にした。


 その時の結愛の耳がほんのりと赤かったのは、教室の中から見つめていた俺でも分かった。



「聞きたいんだが、莉音達って付き合ってないんだよな」

「そうだが?どうかしたか?」

「いや、ただの確認だから。気にすんな」

「……そうかよ」


 修馬は驚いた顔で俺に質問をし、腑に落ちない様子で頷く。

 教室で結愛に興味ないフリをして、平然とした雰囲気を出しながら食べた弁当は、さっきよりも一段と美味しく感じた。

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