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第27話 許嫁と料理

「莉音くん、料理教えてください」


 冬休みが始まってから1日が経った次の日、やけにやる気に満ち溢れている結愛が、リビングに立っていた。



「今日やるのか?」

「はい」


 今の時刻は昼前と、料理を始めるにはちょうど良い時間帯だ。それに暇を持て余しているので、結愛からのお願いを断る理由もない。


 お願いというよりかは、約束といった方が近いが。



「じゃあ今日の昼飯はそれ食うか」

「そうしてください」


 俺と結愛は夕食を共に来てからそれなりの月日が経つが、実は朝と昼は一緒ではない。朝は結愛の方が早いので時間が合わないし、昼はほとんど学校なので、そもそも作る機会が少ない。


 そんなこともあり、結愛と昼食を共に食べるのは、これが初めてだったりする。



「昼ご飯も一緒ですか、」

「嫌か?」

「いえそんなことはないです。ただお昼も一緒に食べるのは初めてだなと」


 結愛も同じことを考えていたようで、ちょっと驚いたように言っていた。夕食は毎日二人揃っているのに、朝食と昼食だけ各自だなんて、良く考えれば違和感がある。


 俺は朝も昼も作っても良いと提案したのだが、結愛の方が申し訳ないと提案を拒否しているので、俺からはどうする事もできない。



「まあとりあえず今日はそれを食べるか」

「そうですね」


 いつまでもリビングで立ち話をするのも時間の無駄なので、颯爽と準備に取り掛かる。結愛に作ってないとはいえ、朝と昼も自分で用意しているので、必要な器材などの準備はすぐに終わった。


 手を丁寧に洗い、念のためにエプロンをつける。面倒な時はエプロンをつけずに調理するが、今日は教える立場なので、見た目からしっかり整えていく。


 今後の結愛の料理習慣は、俺にかかっているので、今日は気をより引き締めた。



「結愛エプロン持ってたんだな」

「まあ一応。使う機会はなかったですけど」


 先に支度を終わらせてキッチンに移動していれば、自分の部屋からエプロンを持ってきた結愛が、それを着ながら隣にやってきた。


 特に目立ったポイントのない無地の薄桃色のエプロンは、最初女の子らしい印象を与えるが、歩く度に揺れる黒のロングヘアーがその少女っぽさを掻き消した。


 それでいて、部屋着であるはずの少しダボっとした白のパーカーが、エフェクトがかかったように似合って見える。


 そこに母のような懐かしい雰囲気はなく、美少女というのはエプロンさえも味方につけてしまうのだから、非の打ち所がなかった。


 とはいっても顔本来の幼さがあるので、全体で見ればあどけなさは掻き消し切れていない。



「変、ですか?」

「…………エプロンに変も良いもないだろ。まあ似合ってはいると思う」


 結愛が客観的に見て顔立ちのレベルが高いのは分かるし、実際そこら辺のアイドルよりかは完成度が高いと言えるだろう。

 そう自覚してはいるものの、いつもと見慣れない姿というのは、やはり攻撃力が増した。



「髪って結んだ方が良いんですか?」

「そうだな。無理に結べとは言わないけど、結んだ方が衛生的には良い。あと邪魔にもならないし」

「ですよね」


 髪が入って異物混入。そういった店もあるので、料理の時には出来る限り髪は結んだ方がよい。ここは家なのでそこまで厳重に仕切るつもりはないが、今後のために習慣化させておいた方が良いろう。


 結愛は俺の言葉を聞いたあと、エプロンに忍ばせていたヘアゴムを取り出した。



「部屋から持ってきておいて良かったです」

「用意周到だな」

「料理準備だけは完璧のつもりです」


 結愛は慣れた手つきでヘアゴムに髪を通し、長い髪を綺麗に結ぶ。もしかしたら結愛は幼少の時から長かったのかもしれない。


 それを示唆してくるくらいには、手慣れた指遣いだった。



(可愛いな……)


 冬休みに入ったから気が緩んだのだろう。目の前できゅっと髪を結ぶ結愛に、思わずそう感じてしまった。

 男の本心、もしくは保護欲を著しく刺激してきた可能性もある。


 横からチラッと映る真っ白なうなじに居心地の悪さを感じ、視線を散らした。



「…………結愛エプロンの後ろ結べてないぞ」


 髪を結ぶ結愛から視線を下げていれば、偶然紐が解けているのに気がつく。



「本当ですね。すみません慣れないもので……」

「気にすんな。最初はそんなもんだ」

「…………またほどけるかもなので、結んでもらって良いですか?」

「いいぞ」


 結愛が来ているエプロンはたすき掛けエプロンというやつで、紐を後ろで結ばないといけない。

一応肩に通してはいるのでエプロン自体が落ちることはないだろうが、弱い風で揺れ、意識が削がれるかもしれない。


 今日は状況次第では包丁を使うこともあるので、極力集中を遮るものはない方が良い。


 何にせよエプロンの紐を結ぶくらい造作もないので、早く結んで少しでも多く料理に時間を費やすべきだ。



「…………出来たぞ」

「ありがとうございます」


 かつてエプロンを結ぶだけでここまで手が震えた事はないだろう。それくらいに緊張した。



「…………ちゃんと手も洗えよ」

「洗います」


 髪も結び終え、エプロンも着終えたら、料理の準備の最後のステップに出る。


「髪も結んだし、エプロンも着た。あと手も洗ったな」

「洗いました」


 口に出して確認を行い、忘れたものがないかチェックする。一通り確認してもこれといって粗は出てこなかったので、いよいよ料理の開始を意気込んだ。



「じゃあ作るか」

「はい」


 髪を後ろに結んでポニーテールのようになった結愛は、いつもの数倍表情を緩めていた。

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