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8話 注射虫に隠された秘密

 キノコが入った籠をルーフェに渡す。ルーフェは一つずつ手に取って確かめてから頷いた。

 「二人はここで少し話してて。少し調合してくるから」

 「何を調合するの?」

 私の質問にルーフェは茶目っ気のある笑み浮かべる。

 「夢を調合するのさ」

 トランス状態にする麻薬みたいなのを作るってこと?

 「意味がわからないんだけど」

 「それなら私が説明しよう。座ってくれ」

 リーグムに言われたのでルーフェが座ってた椅子に座る。キノコの椅子は割とふかふかで座り心地がいいのである。

 「任せたよ」

 そう言ってから厨房のところへ消えるルーフェ。そして赤いガマガエルのマー君もぴょんぴょんとルーフェについていく。

 「それで、夢を調合するってどういう意味?」

 「ああ、カリーニャよ。私たちの精神と魂に形があると思うか?」

 質問に質問を返してくるリーグム。こういう話は嫌いじゃない。と言うかむしろ結構好きな方だと思う。

 「まあ…、なくはないんじゃない?」

 「いい洞察だな。なくはない…。そうだ。だが、実のところはもっと複雑と言える。精神は姿形を求める。液体のようなものだ。そして魂は、空気のように精神と言う名の液体の中に溶け込む」

 へぇ、そんな風に解釈するのか。この星の人間は皆そうなのか、それともリーグムの考え方なのかはわからないけど。培養液の中では教えてもらえなかったんだよね。

 「そもそもだけど、なぜ二つに分けるの?精神と魂って」

 そこはちょっと不思議かもしれない。何せ魂だなんてものをエイリアンが信じているなんて、宗教があるわけでもないのに。そう言えばこの世界って、宗教が廃れてなくなっているんだよね…。

 地球人と接触したら大変なことになるんじゃないかな。

 「精神とは、神経と直感、量子フィールドと繋がった意識の在り方を言う。魂とは、それを経験の対象と捉える形なき実体。精神は物質にある程度は縛られるけど、魂だけは縛られない。」

 「死んだら?」

 「死んだらまたどこかに自分が宿る肉体を探しに行くだけであろう」

 別に証明はされてないのかな。

 「その現象って観測されたことあるの?」

 「口にしなくても誰もが知っていることだ。バイオノイドは教えてもらえないようだが。木々に守られながら生きる市民たちも、それを口にしたところで意味がないと思うだろう。」

 つまり魂を気にするのはここだけってこと?

 「それで、それが調合と何の関係が?」

 「大事なのだ、カリーニャ。我々は望んでこの体に縛られたわけではない。魂が精神を求め、精神は肉体に縛られる。己の魂が望むものをこの手に掴むには、肉体と言う枷から自らを解き放たないといけない。量子のフィールドと意識を繋げなければならない。キノコはは、いわば媒介だ。だがただキノコを吸収するだけでは足りない。調合をするのはそのためだ。」

 トランス状態になって、量子フィールドと意識を繋げる感じなのかな。神話時代の預言者みたいに。

 「リーグムもそれでここに来てるの?調合したのが欲しいから?」

 「いや、私には他に用がある」

 リーグムは私から視線?顔を向けていたんだけど、テーブルの方へと顔を向ける。

 「それは言えないこと?」

 「君が持ち込んだ物を調べるために来ていると言ったら納得か?」

 「注射虫…。あれは…。」

 「あの中身はかなり危険なものだ。ただのバイオノイドが持つ精神状態では、流れてくる情報の濁流に飲まれて意識が崩壊してもおかしくない。」

 「それはなぜ?」

 前世の記憶だから?

 「理論上は量子フィールドから形ある知識を無限に引っ張りだせるような仕組みをしていた。宇宙全体の疑似的な記録と意識を繋げ、その魂が求めてやまない根源的な情報を手に入れることが出来る。それには使用の痕跡があったが…、使ったんだな?そして意識が壊れることなく、自由を手に入れてここにいると。」

 リーグムが再び私の方へ顔を向ける。背が高いので少しだけ見下ろすような格好になってるんだけど…。

 「……何のこと?」

 「とぼけなくてもいい。別にどうこうするつもりはない。ただ…、何が見えたんだ?何を知った?」

 「何も?」

 「ふっ、初対面で言えるようなものではないと言うことか。ならここは引き下がろう。」

 思ったよりやばい代物だった…。

 リーグムが言ってることが正しいなら、あの注射虫は別に前世の記憶を思い出させるものじゃなく…。

 言うなればアカシックレコードに接続してそこから知識を引っ張りだすもの……。それも魂が一番求めてやまない知識を……。

 「キノコでそれは再現できない?」

 「さぁ、私は調合屋ではないのでな。だが…、魂を持つものはより自由な形を求める。魂あるものの使命と言えるだろう。」

 「あなたも何か、ルーフェの…、あの白い腕みたいなのがあったりするの?」

 見た目はただの人間だけど。

 彼女はそれを聞いて菌糸の眼帯を上にずらした。

 そこには目があったけど、眼球は真っ黒で、瞳はらんらんと光る青…。

 まるで深海に浮かぶ輝く宝石みたいな感じがした。

 「綺麗…。」

 「私の目を見てそんな感想を言ったのは君で二人目だ。」

 リーグムはずらした眼帯を元に戻す。

 「ちょっと質問は変わるけど、ここの地下にあるあれらは何?」

 「星と意思を繋げようとしている狂った連中さ。無謀だと思うがな。」

 「ルーフェは私がその中に入ったらどうするつもりだったんだろうね。」

 「君がそうしないことくらいは知っていたのではないか。好奇心で満ちた目をしている。簡単に旅を終わらせたくはないだろう?」

 「旅って…。」

 否定はできないけど、彼女の直感と言うか…、精神のあり方はまるで超越者を連想させた。

 そんなことを思いながらチラチラとリーグムを見てみると彼女は微笑みを返してくる。

 「そう言えば自己紹介すらもまだだったね。私は鑑定士リーグム。千年の年月を生きているが、未だに魂の在り方は定まらない、ただの変わり者さ。よろしく頼む。」

 「う、うん。私は…、この間ルーフェの助手をすることになった、バイオノイドのカリーニャだよ。よろしくね。」

 自己紹介をされたので返す。

 「カリーニャ、お話は楽しかったかい?」

 ルーフェが厨房から戻ってきて聞いてくる。

 「まあ、それなりに有意義だったかな。」

 「リーグム、君は?」

 「ああ、彼女は、カリーニャはとても…、興味深い存在であることがわかった。」

 捕まって解剖されたりしないよね?いや、まあ、この世界では普通に安全に解剖されそうではあるけど…。

 そうじゃなくて、なんか、なんか思ったのと違ってて。

 こんなにフレンドリーな人がいる世界なのに、なんで私はまだバイオノイドの寿命なんてものに縛られているのかと言うことで。

 どうにかして自分の寿命問題は早いうちに解決したいと改めて思ったのである。


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