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2話 吾輩はバイオノイドである


 前世の記憶なんぞを思い出させるバクテリアは、私が望んで手に入れたわけではない。

 輸送生物が事故を起こして、道路に広がっていたものを手にして、逃げた。

 なぜそんなものが欲しかったのか、会社の財産に手を付けて捕まったら廃棄処分されることだってあり得る。

 いや、何となく麻薬の類のものだと思っていた。これが前世の記憶を思い出させるバクテリアだなんて書いているわけではない。注射器は、注射器の形をした生物である。海に住むエビみたいな形の生物の遺伝子をいじって作った注射器生物である。

 注射虫と呼んでる。注射虫から快楽をもたらしてくれるバクテリアが入ってくるよう願って、薄暗い路地裏に座り込んでぶっ刺したら。

 押し寄せてくる記憶の衝撃に半開きになった口は閉じず、涎が落ちる。よだれが地面に一滴落ちるたびにより頑丈な自我に替わっていく。

 別の惑星での生活を思い出す。

 どこから脱出してきたのか、飛び回る手のひらほどの大きさを持つ鏡蝶が通り過ぎる。

 記憶をすべて思い出した私の目には、濁った瞳に光が灯された、バイオノイドの少女が映っていたのである。

 私たちは人間ではなくバイオノイド。

 人造人間の一種で、人間とほぼ同じ生体を持っている。

 培養液とカプセルの中から作られた。

 生殖機能を持たず、頑丈で病気に強い代わりに寿命が短い。一応私の見た目と声は女の子ではあるけど、それだけ。

 30年ほど生きたら死ぬのである。そうするように設計されたのか、それとも何らかの理由でそうなったのかまでは知らない。

 この惑星は地球と近い環境だったせいなのか、地球人と見た目は全く一緒。

 髪の毛の色に青が追加されていることと、足の指が四つあることくらいしか違いはない。

 だけど己の体を遺伝子操作で変えた人とかが普通にいる。

 市民ならそういう権限もある。バイオノイドに市民権なんてものはない。

 財産権もない。我々こそが会社の財産なのである。会社から管理はしっかり受けている。勉強はしている。健康管理もされる。

 奴隷は本来こういうものでしょう、だけど30年ほど生きて死ぬのは受け入れろって言われてもね。

 市民が住む町はスラムからは遠い。スラムには円錐のように育った濁った水晶のような建物がたくさんある。窓とか部屋の中身とか自分で壊して作る。道具は使わずバイオノイド特有の有り余ってる力で、拳をぶつけて。

 一番安い、育ちやすく固い菌の塊が空に向かって数十メートル。

 この惑星の単位はメートル法ではないけど、体感でメートルとほぼ同じだと感じる。十進法が採用されなかったら前世の感覚とごっちゃまぜになるところ。

 自分の何もない部屋の中に入る。

 トイレなんてついてない。食事をしたらバクテリアがすべて分解するので、小便しか出ない。それもただの水である。他の成分もまた分解されるから。水を飲みすぎたら水を出す。

 体内がこんなんだから、大気中にも数えきれない種類のバクテリアが漂う。多分、何かしらの匂いがあると思う。私は慣れすぎてそれがなんの匂いかもわからないけど。

 濁っている空気の中を引かる虫が飛び回る。安い灯に使われる光虫が脱出して、どこかで繁殖している。

 光に映るのは暗褐色の壁と暗緑色の空気。家具なんてものはない。いくら経っても腐ることのない発酵食品が詰まった箱が一つあるだけ。

 三年の培養液生活が終わって、最初にこの部屋に来た時は一人暮らしではなかった。

 仲間たちは寿命で皆死んだ。

 少し暖かい床に寝転んで、これからのことを考える。先ずはどこから自分の遺伝子を操作する道具を入手しないといけない。それからは…、遺伝子を変えてから考える。

 丸まって瞼を閉じる。

 快楽をもたらすバクテリアの中毒性なんて大したことじゃない。それしか快楽を知らないからその程度の快楽に飲み込まれるだけ。

 だけど、記憶を思い出したせいで疲れた。

 だからすぐに眠りに落ちた。


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