1話 プロローグ
If something's couldn't understand by your logic, that means it came from somewhere you don't know.
人生とはいとも儚くももろい物か。記憶をたどっていくと無意味な衝動と快楽に身を任せ、ただ過ぎてゆく季節を巨大な荒波に飲まれるかの如く生きていた。
それでも自分なりに意味を求めて、他人の奥深くに何があるかもわからず、好き勝手に振る舞った結果、死んでしまう。
何と浅ましいこと。
現代日本で銃で撃たれて死んだのは、結構珍しいことだと思う。ブラックマーケットで買ったのかな。相手は私に二股をかけられたことを根に持っていた。うん、反省。相手もどうかしてたけど、私もどうかしてた。
それで生まれ変わったのは、なんと地球と違う形で文明が発展した世界だった。前世の記憶も最初から持っていたわけではない。
十三歳の時に前世の記憶を引き出すバクテリアを注入し、それで思い出したわけである。
このバクテリアはかなり高い値段をしてて、スラム生まれの私がそのバクテリアを手に入れたのはただの偶然でしかなかった。
この世界は、そう。すべてが…、生物合成で出来ている。車の代わりに車のごとく早い速度で走る生物に乗る。建物はキノコで出来ている。見た目は全然キノコと違うけど。昔は土とか木とかレンガとか使ってたようだけど、それで高層建築なんて出来ないから。
鉄筋コンクリートが存在しない代わりにこれだ。
当然のことだけど、固すぎて食べられない。
この星は石油や石炭を食べるバクテリアが広範囲で繁殖していた。
金属の鉱脈だって地球のように豊富ではない。ほぼバクテリアを含む微生物の体内に入っている。
地球より文字が出来て数学が発達し交易をした時期は二千年以上長いのにも関わる、科学技術の発展は、特に工学に関しては殆ど進まず、大規模戦争も千年以上遅かったという。
それが徐々に自然科学を発達させる中で生物合成技術を成立させ、バイオテクノロジーが発展。ほぼすべてバイオテクノロジーで補われるようになった。
特に微生物は人間に多大な影響を及ぼす。
生物は微生物を媒介に意思疎通を図ることもある。量子力学的に言うなら、単細胞生物のような微生物の場合、量子との繋がりが多細胞生物のそれより顕著であるという。そして量子の世界は時空間を遡り、世界の核である情報のフィールドと繋がっているのである。
だから前世の記憶なんかを想起させるバクテリアだって出来ちゃうわけだ。
この世界、惑星ファンギーテラでの生活しか知らなかった私にとって前世の記憶は多くの衝撃を与えた。違う惑星から転生したという話なんぞ聞いたこともない。
途端にすべての物事が異質に見え始める。恐怖とは違う。
前世の記憶から何かのアドバンテージを見出したからではない。ただ知っているから。この生物合成がすべての産業に繋がった世界では知らないはずであろう感覚、そう。自由を知っている。
これは薬漬けのようなものだ。快楽をもたらすバクテリアを吸い込み、それを求めて日々過酷な労働を強いられる。
それが可笑しいことを知っている。一つの国、街に縛られる意味なんてない。
だから私は、外へ出ることにした。この街から離れる。そんな発想、誰の頭の中からも出てこない。
私たちは培養液でランダムに遺伝子を組み合わせてから生まれた、親なしの使い捨ての道具でしかないらしいが…。
まやかしの夢から覚める時間である。