みつご
雪のたくさん降る村に三つ子がいました。いつも仲良しで、学校も同じです。
初めは何でも同じことをしていましたが、ある日からみんな別々のことをするようになります。
長男は、
「ボクは雪だるまをつくるぞ」
と言って聞きません。授業には一切出席しません。校庭で雪だるまばかりつくります。朝から晩までコロコロ玉を転がしているのです。
教室から校庭を眺めている次男は、
「キレイだなあ」
授業には出席しているものの、降りしきる雪ばかりに夢中です。先生の話は上の空でした。指名されても答えません。
「それならワタシに解かせて」
末っ子の女の子は明朗快活で、周りのみんなと同じように勉強をそつなくこなします。
やがて彼らは進学の時期を迎えます。先生とお父さんの面談です。
「末っ子の女の子ですが、友達と同じ学校に行きたいそうです」
先生が言いました。
「そうですか。ではそうしましょう」
「ただし二人の男の子は問題があります」
「何でしょう」
お父さんは聞き返します。
「真ん中の次男ですが、とても成績優秀です。非の打ち所がありません」
「では何が問題なのです」
「彼の学力に合った学校はこの辺りにはありません。外国に行くことになるでしょう」
「そうですか。ではそうしましょう」
お父さんは頷きます。
「翻って長男は、授業を全く受けていないので行ける学校はありません」
「何が問題なのです」
「え、ええと。学校に行けないなら、働くしかありません」
「そうですか。ではそうしましょう」
面談が終わり、三つ子はそれぞれの進路へと舵を切ります。
やがて三つ子は大人になりました。
勉強をしなかった長男は、雪だるまばかりつくっていました。それは変わりません。
村のあちこちに、そして出掛けた先でもたくさんつくります。
その雪だるまは独特で、道行く人々の心を掴んで離しません。長い間に培った雪だるまづくりは、素人が簡単に真似できるレベルを遥かに越えています。そんなある日、
「個展を開きませんか」
噂を耳にした美術館の人が声をかけました。
イベントは大成功。彼は芸術家としての名声をものにしたのです。
外国に留学した次男は、寝食を忘れるほど雪の観察に打ち込みました。昔から雪を仔細に眺めていた彼は、雪の結晶を自由自在に設計する方法を発見しました。
たくさんの論文を書きます。雪の研究で彼の右に出る人はいなくなりました。
村の役場に就職した末っ子の娘は、毎日決まった時間に起きます。朝はお弁当をつくり、夜まで役場で働きます。帰ったら次の日の準備をします。たまの休みにはお買いものをしたり、友達と遊びます。その繰り返しです。
年に一度だけ、三つ子が家に帰ってきて顔を合わせます。
末っ子の娘は、
「ワタシは毎日同じことをしているわ。とても退屈なの芸術家っていいわね。自分のやりたいことができて」
ため息を吐きます。すると長男は、
「でもつくったものが評価されてもね、どこがいいのか説明できないのさ」
「芸術ってそういうものじゃない?」
「センスだけじゃ物足りない。研究者のように科学的な考えができれば、根拠のある立派な作品を作れるような気がするんだ。できるならボクは研究者になりたいよ」
するといつもはおとなしい次男が口を開きます。
「研究するためには、次々と新しい発見が求められる。もしも時代に遅れたり、他の人が活躍すれば、お金がもらえなくなる。安定した役場は正直羨ましい」
それから年を取った三つ子に変化が訪れます。
長男は雪だるまづくりを無期限休養しました。そして貯めたお金で大学に入ります。計算や科学を熱心に勉強することで、作品の魅力を解き明かすのが夢です。
次男は研究を続けています。けれどあくまで趣味としてです。代わりに子どもたちに科学の楽しさを教える塾を開きました。成果を気にすることのない暮らしを気に入っています。いつか教え子が素敵な発見をするのが夢です。
末っ子の娘も働いていますが、役場は辞めました。拘束時間の短い新しい仕事はお給料が下がりました。けれど増えた時間で絵を描いたり、楽器を弾いたりしています。いつか村の小さなコンサートに出ることが夢です。
三つ子たちの人生の探求は尽きることはないのです。
おしまい
みんなと同じことをしたら、
あとで違うことをしたくなる
みんなと違うことをしたら
あとでみんなが羨ましくなる
わたしたちの探し物は
永遠に終わらない