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逃げられ王子と追われる令嬢  作者: キョウ
第1章
6/127

6: 捜索

「アオイ、ストラウト共和国には行ったことがある?」

 川を流れる風にふかれながら、隣にいる長い銀髪をなびかせた長身の男を見上げる。久しぶりに会った懐かしい横顔は母国を思い出させる。

 彼はその薄いグレーの瞳で遠方を見つめていた。

 同じ方を見れば対岸が遠くに見える。あれが次の目的地。

「うん。お父様とね。でも前回はお父様の魔法でひとっ飛びしちゃったから、陸路は初めてなの」

「お父様……、ああ、タカユキ?そっか、彼は()()に特化してたね。今回は?」

「うん。ギリギリまで王都にいて、時間稼ぎしてくれるって……」

「そうか。で?どうかな?僕の提案に乗る?」


 *****


 夜が明けて、次の町まではひたすら馬車を飛ばした。

 次の町について、馬車を売った。

 再び三人とも変装を変える。私が金髪で、ハヤテとリンは茶髪。

 そこから、辻馬車に乗って夕方には目的の町に着いた。このまま今日はこの町に泊まる。

 そこそこ大きな町なので、商人や旅人がよく行き交う。リンが旅人がよく泊まるような宿屋を探してきてくれた。

 なるべく、普通の旅人や商人が通るような大きな街道や町を通って、隣国のストラウト共和国に行くつもりだった。


「ストラウト共和国に入ってしまえば、あそこは多種多様な民族が集まる国なので、私達は更に紛れやすくなると思いますわ。外国との貿易も盛んだから、そこから華旺国(かおうこく)に行くのも容易いかと……」

 ザワザワと沢山の人が賑わい、食事をする音に紛れて、リンが今後の計画を説明してくれた。

 宿屋の1階にある食堂で、他のお客に紛れて夜ごはんを食べている時だった。


 最終目的地は華旺国。

 私は母国に帰る。

 そうなると、どうなるか分かってる。国内の誰か有力な貴族の所にお嫁に行くことになるんだ。

 レオの顔が過るのを、食べなれない固いパンを齧ることで紛らわせた。


 バン!と突然食堂のドアが開いた。

「みな、動くな。王宮からの緊急の尋ね人がある。身分を改めさせてもらう」

 グーラート王国の軍服を着たガッチリした若い軍人が、数人の部下を連れて店内に入ってきた。

 私の知らない顔だったので、ちょっと安心してしまった。レオのおかげで、王宮を出入りするような上層部の顔はわかるけど、部隊全員わかるわけではない。多分、向こうも私の顔をハッキリとは知らないだろう。変装してるし。

 と、横を見たらリンが蒼白になってる。

「何?知り合い?」

 小声で聞けば、こくこく、と無言で頷く。


 既に出入口の方のテーブルから順に顔をあらためたり、話を聞いたりしている。

 出入口は部下数名が立っていて、後は厨房へ続く通路と、お手洗いへのドア。個室が奥に三部屋あるが、どこもドアが開いている。

 ふと見れば、その個室からひょいっと出てきた手が、クイクイと呼んでいる。

 顔は見えないけど、こういう勘は外さない。

 ハヤテとリンに目配せして、そろっと席を立ち個室に向かった。

 幸い、トイレから戻ってくる客や厨房から出てくる店員、事情を知らず店に入って来る人……、とそこそこ人がうろうろしている。

 調べている隊員はこちらを見ていなかった。


 スルリ、と個室に入るとそこには銀髪の華やかな麗人を囲んだ7~8人の懐かしい笑顔があった。

「姫さま!」

 みんな小声で呼び掛けてくれる。

「シン!どうしてここに?」

 中央の銀髪の彼に小声で聞いた。

「もちろん、迎えにきた。とりあえず、状況は分かってるつもりだよ?このまま僕の旅団に入ってるフリして、この検問をやりすごそうか」

 ニッコリ笑う顔は相変わらず女性のように美しい。


 何食わぬ顔で席に戻って、ご飯の続きを食べる。

 ハヤテとリンは個室に誰がいたか、もう分かってるようだ。

「やっぱりシン様でしたか。で?リンはなんであんなゴツいのと知り合い?」

 ハヤテでも知らなかったのね。

「アオイ様と一緒にいる所を王宮や行事で何度か見られていたようで」

 隣の隣の席に部隊は迫ってる。

「求婚されました」

 あやうく私とハヤテが飲み物を吹き出しそうになった。

「そんなわけで、変装してても見破られる可能性が」

 ビックリした。

 私と同じく、黒髪黒目のこの双子は、私と同じように周囲からちょっと避けられていた。

 黒い、というだけで勝手なイメージを押し付けられ、疎外されることにこの国では慣れすぎてて、それを気にしない人もいるってことを忘れてた。というか、それを都合良く使ってたところもある。

 あー、気にしない人、もう一人いたか。

「それならいっそ変装を解いて、私を探してるフリして近づく?」

「……。そうなると、この後行動をご一緒出来ませんが……」

 チラリと個室を見て、ハヤテを見る。

 頷くハヤテを見て、素早く動いた。


「あれっ!?リンさんじゃないか!」

 ガタイがいい割には子供っぽいというか、無邪気な声が響く。

「ああ、ローラン様!あの、もしかして、フィオ様の……」

 ローランと言う軍人は、言いかけたリンに目配せして、そのまま店の端の方へリンを連れて行った。

 端の方で何やらボソボソ話している。リンが気を引いてるうちに、私とハヤテはシンの一行に混ざった。

 個室の陰で見えないようにしてもらい、町娘の格好から舞姫の普段着に着替える。ちょっと服が大きいけど、なんとかなった。

 ハヤテを見れば、彼は下働きの男性の格好をさせられてた。

「丁寧語は使うなよ。しぐさも粗野にしろ」

 シンに釘を刺されてる。

「え?私は?パーティーで踊るダンスは出来るけど、旅芸人のようなダンスは踊れないよ?」

 言ったとたん、ひょいっとシンにかかえ上げられた。

 座ってるシンの膝の上に横抱きにされる。

「ちょっ……!」


「失礼。王宮からの緊急の尋ね人だ。君たちは旅芸人か?」

 膝の上から降りる暇もないまま、ローランが個室に入ってきた。後ろからリンが覗き込んでる。

 顔をなるべく見られないように、シンの肩に顔を寄せるしかなかった。

「遠くイザヤークの国から、街から街へと流れております。いかような尋ね人で?」

 私を抱き締めたまま落ち着いた対応をするシンに、動揺や不信感は全く見られない。ローランの方がちょっと面食らってるようだ。

「く、黒髪黒目の伯爵令嬢なんたが……」

「おや、ずいぶんと珍しい容姿だ。罪人ですかな?」

「いや、ただの家出娘だ。ただ、御両親が大変心配しててな。王宮とも縁のあるもの故、こうして軍でも探索に加わってる」

「そうでしたか。しかし、そんな特徴的な容姿ならすぐ見つかるでしょう。私達も道すがら気にしてみましょう」

「そうしてもらえると、助かる。それにしても……、その娘は?」

 戸惑いながら聞かないで。

 中性的な顔の割にガッシリした胸板や、綺麗な首筋にドギマギしてると言うのに、シンは涼しい顔をして私の顎を持ち、グイっとローランに向けた。

「かわいいでしょう。最近手に入れた踊り子でね。私のお気に入りなんです」

 そう言いながら、シンは頬にキスしてきた。

「!!!!」

 言葉もなく、ワナワナ震えてる顔をローランにさらされて。


「ローランさま……」

 そこに、ローランの後ろからわざとらしく声をかけたのはリンだ。

「はっ、あ、いや、こここには我々の探している令嬢はいないようだな!べ別の宿屋をあらためましゃう!」

 顔を真っ赤にしたローランが、ワタワタと個室を出て行く。続くリンは、こちらをチラリと見て、そのまま彼についていった。







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