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逃げられ王子と追われる令嬢  作者: キョウ
第1章
2/127

2: 逃げる

「お嬢、足元気をつけて」

「うん、大丈夫。夜目は利く方だよ」

「ああ、そうでした」


 自分のお屋敷だけど、普段使わない使用人用の裏口は勝手がわからず、更に暗闇の中だから隣のハヤテに心配されてる。

 城下町にあるタウンハウスは、領地の屋敷より小さく、かつ、お隣の屋敷が近い。


「フィオレンツァ様、こちらです」


 一歩前のリンが小さな木のドアを開けた。

 近隣住民に見つからないように、こんな真夜中に移動しようと提案したのは他でもない私だ。


 メイドと御者に扮した私の大事な幼なじみ二人だけを伴って、まずは領地のお屋敷に向かう。

 ……ふりをして、国外へ向かうつもりだった。

 多分、道中何度かそういうフェイクを入れて移動しないと、絶対見つけられる。


「馬車まで少し歩きます。大丈夫ですか?」


 屋敷の裏手から出て、裏門から敷地の外に出た。リンに無言で頷くと、三人共にほとんど音も立てずに移動を始めた。


 長年暮らしたこのお屋敷に未練がない、とは言えない。

 けど、それより何より、ふわふわした透けるような金髪と、新緑を写し撮ったようなペリドットの瞳のあの男が脳裏から離れない。


「フィオレンツァ様……、大丈夫ですか?今ならまだ……、戻れますよ」


 私の気持ちを解りすぎるくらい解っている二人が足を止めた。


「……大丈夫。それより、もう「アオイ」でいい。フィオレンツァはいなくなるのだから」


 暗闇でも、一瞬リンの顔がせつなげに歪んだのがわかった。

 それを見なかったことにして、率先して先を急いだ。


 *****



 レオの遊び相手として、小さい頃に引き合わされた私は、貴族社会の中ではちょっと異端な目で見られている。

 というのも、ブロンドやブラウンの髪が多いこの国で、私の黒髪黒目は珍しいからだ。

 見た目の問題だけでなく、レオンハルト殿下の幼なじみということもご令嬢方から白い目で見られる一因。

 そんなこと言われても、小さい頃に無理矢理友人にさせられたこちらとしては、理不尽極まりない。

 なので、同じくらいの令嬢のお友達がいない。

 一応伯爵令嬢という身分故、パーティーにお呼ばれはするけど、いつも一人で壁の花だ。

 たまにレオも招待されてて会場で鉢合わせれば、声はかけてくるものの踊ったり談笑したりはしなかった。

 そんなことをしたら、私がその後どうなるかちゃんとレオは分かっているのだ。


 なのに、急に様子が変わってきた。

 最近になって声をかけるどころではなく、ダンスに誘ってくるようになった。

 絶対に踊らないけど。

 なんで?

 なんで急に態度を変えてきたの?

 先日もわざわざ他の令嬢達の前で、ウチに来る宣言してきたし。

 そして宣言通り、お屋敷に来てお父様となにやら話をして行った。

 私には教えてもらえなかったその内容のせいだと思う。


「フィオ、今夜にはここを発ちなさい。わかっているね?」


 かねてより散々聞かされていた「突然去る日」が来たのだ。


 *****


 ガタン、とどこかに乗り上げるたび、お尻に響く。

 普段乗り慣れていた伯爵家の馬車とは違い、質素な作りのこの馬車の乗り心地はいいとは言えなかった。でも、不満はない。


「アオイ様、一応、目眩ましでこの馬車と同じまやかしを各方面に放ってはあります。まあ、あの馬鹿王子にすぐ気付かれそうですが、多少の足止めにはなるでしょう……」


 昔っから私と同じようにレオを知るリンは、王子相手なのに容赦がない。でも力は認めてるようだ。

 そのリンは、いつものカッチリとした紺のワンピースに黒髪をひっつめにした、いかにも貴族のメイド、という格好だったのを、馬車の中で素早く着替えてる。

 私達は三人とも黒髪黒目。

 これはこの国では珍しく特徴的なため、逃亡には向かない。

 町娘の旅装束に着替えたリンは、茶髪のカツラを被った。瞳は私の魔法で同じく茶色にしてある。

 髪も魔法で茶色に出来るけど、ずっとかけ続けてると魔力を消費するし、私と離れると弱まってしまう。

 かくいう私も、いつもの貴族のお嬢様が着るようなドレスではなく、質素な旅装束。髪は茶色で瞳は金色だ。リンと姉妹、という設定のつもりだ。


「お嬢、あと少しで夜が明ける。日が出る前に一旦休憩しよう」


 御者台からハヤテが声をかけてきた。

 小窓からチラリと見える金髪のハヤテが似合ってなくて笑いそうになる。

 こんな状況でも笑える自分がいる。

 私の、幼なじみ兼、護衛兼、教育係兼、姉であり兄である彼らがいてくれるから、世界で1番愛してる男から離れても大丈夫。


 覚悟はしていた。

 レオのことを好きだと気付いた時から。

「突然去る日」が必ず来ると分かっていたから、なるべく好きになりたくなかった。

 気持ち的にも立場的にも、私は彼を好きになってはいけなかった。

 なのにあのペリドットが心から離れない。


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