表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3



 「渚、早く起きないと朝ごはん抜きにしちゃうぞ!」



一階のリビングからの声が渚の部屋に響く。



そしてそれから少ししてから時計が鳴る。



「…ふぅあぁ〜。お父さんうるさい…。まだ寝ていたいよ…。自分がご飯作れないからって……。」



渚はおぼつかない足を更にふらつかせながら階段下りてリビングへのドアを開けた。



「………お父さん、歳を考えて欲しいんだけれどな…。もう、四十前だよ。」



ワイシャツにパンツ姿の父、洸が自分で淹れたであろうコーヒーを啜っていた。



「パパおなか空いたよぉ〜〜〜。早く朝ごはん作ってくれないと仕事に行っちゃうよ。」



「さっさと行ってしまえば?」



涙で頬を濡らしている洸をよそ目に渚はフライパンにサラダ油を引く。



レタスを水洗いしている間にフライパンが温まっていく。



リビングには新聞紙を広げて今朝の天気予報を、天気予報のお姉さんをジロジロ見ている。



「そういえばお父さん。」



「んーどうした?お父さんが恋しいか?」



「澪の担当医さんが代わったって聞いたんだけどお父さん知ってる?」



「昨日あったからな。良い青年だったよ。しかもアメリカで十八歳で医師免許を取った天才らしいよ。顔もまぁ、俺には及ばないけれど中々のイケメンだったしね。」



(唐辛子入れておいてもバチは当たらないよね、お母さん。)



七味唐辛子の容器を片手に悩んでいるとキャップが緩んでいたらしく真っ赤な粉が山を成して降り注がれている。



(私は辛いもの食べれないし……。まぁ、お父さんだから大丈夫だよね、うん。)



真っ赤になったスクランブルエッグを皿に移して新しく卵を割り、新しいものを作り出す。



「なー、お父さんのスクランブルエッグだけ赤いように見えるのは気のせいか?」



洸は自分専用の犬の柄のプリントアウトされたマグカップをコースターにおいて疑問の念を尋ねる。



「お父さんケチャップソース好きだから入れてみたの。ダメだった?」



「そんなことないぞ。優しい子に育ってくれてお父さんはとっても嬉しいぞ。」



一口食べてからコーヒーを滝のように飲んでいる。



(なにか入れたのか聞かれたけれど占いを聞いているので聞こえません。)



のた打ち回っている洸を無視して食器を水につけてから着替える為に自室に戻る。



パジャマを脱いでブラウスに手を通し終えたときに下から『口が!口がぁああぁぁ!』などといった空耳がしたので一瞬手が止まるも、ほんの一瞬でいつもと同じように手を動かす。



そして、ふと父と妹の言った言葉が頭の中で復唱されて、渦巻いて離れない。



(でも、お父さんまで気に入るなんてよっぽどカッコいい人なのかも……。)



父、洸は肉親と言うひいき目を除いてもそれなりに整った顔立ちをしている。



性格に顔が比例したのか、顔に性格が比例したのかは分からないが押さない顔立ちに着色するかのようにあどけない笑顔が似合う。



バレンタインになると恒例のように普通のカバンのほかに紙袋も持っていきかえってくるときには何処でもらったのかさらにポリ袋を携えて母、瑞希に虐められる、と言った習慣が家族内の行事として定着するほどのモテようである。



などと去年のバレンタインのことを思い出していると普段よりも五分遅いことに気が付いてスクールバッグと体操着の入った紙袋を片手に部屋を降りて挨拶してから家をでた。





 「渚ぁ〜〜〜〜!会いたかったよ〜〜〜!」



「はいはい。私は昨日も普通に学校に来てたからね。沙代。」



渚の胸元で頭を擦り付けている親友、中島 沙代を引き剥がしながら席に着く。



沙代は身長が百六十八センチあるにもかかわらず、子供っぽい。精神年齢が著しく低い。



この前澪と三人で買い物に行ったら私のことを無視して二人でどこかに行ってしまった。



「今日はお昼休みになる前に帰るね。澪の退院の手伝いに行くから。」



渚がそう告げるとこの世の終わりみたいな顔になりクマのシャーペンを落としてしまった。



「えぇ〜〜〜じゃあ今日は一緒にご飯食べれないの?それなら私も午後からサボる!」



「午後からは二時間とも沙代の苦手な授業だからダメ。

明日にでもおいでよ。

澪も沙代と会うこと楽しみにしてるから。」



うなだれている沙代を慰めていると渚の後ろに人影が出来た。



「お二人さんいつも元気でいいね、西明寺も中島も。」



小麦色の肌をした少年がじゃれあっている二人を見てクスクスと笑っている。



「お、出たな。漣君め!嫁を迎えに来たのかな?」



ニヤニヤしながら渚の頬を小突く。



渚は耳まで上気させていく。



それに釣られて漣も顔を赤くした。



そんな初々しい二人を見て沙代は笑った。

甘酸っぱい空気にクラスが当てられていると教室のドアが開いて担任教師が入ってきた。



(沙代のバカ!漣君と気まずくなったらどうするのよ!澪が気に入ってるのに…。)



漣は渚が中学校に入って初めて出来た男の友達だった。



軽く見積もっても百八十センチはある長身。



そしてそれに見合った抜群の運動神経で高2の始まった今でも運動部が週一で勧誘に来るほどだ。



成績は悪いのだが全国共通模試では百位前後を行ったり来たりしているので頭が悪いわけではない。



むしろ頭の回転も良く真面目に勉強すれば間違いなく学年トップになるだろう。



そんな漣の趣味がお菓子作りなのだ。



週に一度か二度、様々なお菓子を持ってきてくれる。



渚は横目で漣が黒板を板書している姿を見て微笑んでから寝息を立てた。



そして寝息を立てた渚を漣が見て微笑む。



そんな二人を見て沙代が微笑むという構図が授業の中で出来上がるのだった。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ