(7)
2階もオルゴールの音が優しく流れていて気持ちがリラックスした。しんと静まり返った我が家を思い出す。静寂の中に、お母さんとお父さんの罵り合いが響いた僕の家。ここの穏やかな雰囲気とは大違いだ。でも、それはサンタイルさんがいい人だったらと仮定しての話だけれど。
「じゃあ、私んちに行こうか?」
「うん!」
僕は厚い大きな木で出来たドアの玄関を出て「で、アンジェリーナちゃんの家は隣だったよね」と言った。この家の敷地は想像より広かった。庭にはもう一つ木で出来た建物があって、裏はもみの木が生い茂っていた。
「私の家はホラ、そこに見える黄色い壁の家」
ああ、あれがそうか。僕が住む家に比べればこじんまりとしている。ジョリイが先に進んで歩き出した。
「あっ、待って」
アンジェリーナちゃんが後を追う。僕もそれについて歩く。僕の住む家からアンジェリーナちゃんの家までは小石が転がっている間に人が歩けるような小道があった。僕は楽しい気持ちになって上を見上げる。空は晴れ渡っていて、雲一つない晴天だ。でも空気は冷たい。ここは日本より寒いかな。ダウンコートを着ていて良かった。寝るときはパジャマだったのにいつの間に着替えたんだろう。セーターにデニムもしっかり着ている。
アンジェリーナちゃんは木が植えてある横を通り抜け、玄関の石の床の上に立った。カランカランとベルの付いたドアを開ける。
「おかあさーん、クリストフくんを連れて来たよー」
白いクロスが貼ってある壁に木の階段が見えた。ぷうんといい匂いがしてくる。肉の焼ける匂いだ。ピザだけじゃなくて他にも料理があるんだ!
「おかあさーん、聞こえてるー?」
奥から高い女の人の声がした。
「あら、早かったんですねー。手を洗って来なさい」
「はーい、クリストフくん、洗面所に行こう。ジョリイは外で待っててね」
「ワン」
ヒイラギの密集している庭にジョリイを待たせて、僕とアンジェリーナちゃんは鏡が掛けてある洗面所に行った。じゃあ、じゃあと冷たい水を蛇口から出して手を洗う。
「ひえっ、冷たい!」
「アハハ、我慢、我慢、ばい菌を流さないとね。これからご馳走を食べるんだもの」
アンジェリーナちゃんは笑う。僕も目を細めた。