(5)
「ここはイジメなんて無いのかなー」
「あっ、言い忘れた。この島はね、イジメは重罪なの」
「えっ、そうなの?」
「うん、軽くて無期懲役っていう刑だよ」
なるほど、軽くて無期懲役なら日本でいえば殺人を犯したくらい重い刑だ。確かにイジメは人の精神を殺す。だが、僕も僕より弱いクラスメイトに嫌がらせをしてしまったことがある。宿題を見せてというのを断っただけだが、それが罰に値するなら、僕は刑務所に入っていることになる。
坂を下りきって今度は上る。今は何時くらいなんだろう。太陽が真ん中くらいにあるので昼だということは分かるが、この島の時間の感覚はどうなっているのか。
「アンジェリーナちゃん、今の時間を教えてくれない?」
「たぶん、3時くらい」
3時か。僕は日本で布団に入って眠ってからの記憶がない。クリスマスのイルミネーションから察するに12月という接点はあるみたいだが、セントジョーンズ島との時差はあるのだろうか。まあ、いい。昼間だということが分かれば歓迎会は夜にやるものだと合点がいく。それより先に僕が住む家を見なくては。この島は寒い。隙間風なんかが入らない頑丈な作りの家を願いたい。暖炉があるというから良かったものの、暖房器具がなければ凍死しそうだ。
「あそこだよ」
アンジェリーナちゃんは坂の一番上を指さす。あそこ!?石を積み上げて作った灰色と茶色を混ぜたような色の壁に大きな赤い屋根の家があった。一人で住むには大き過ぎじゃない!?
「1階はね、サンタイルさんと共同でプレゼントの仕分け作業をしてもらう部屋だけなの。2階にね、ベッドと机のある、クリストフくんの部屋があるよ。サンタイルさんの部屋は隣!」
へえ!1階は仕事場かあ。でもプレゼントってクリスマスのって言ってた。それが終わったら僕はどうなるんだろう。それに住むのはサンタイルさんっていう人とか。上手くいくんだろうか。
「うーん」
僕は腕を組んで唸った。
「プレゼントの仕分けは来年、再来年の分もあるからね!」
アンジェリーナちゃんは僕の考えていることが分かったように片目を瞑る。そうか、僕は居たくなくなるまで居てもいいんだった。
「ジョリイはここで待っててね」
「ワン」
この犬は人間の言っていることが解るようだ。不思議だなあ。
家に入ると、オルゴールみたいな音が聞こえて、右手に暖炉があった。チカチカと赤い炎が揺れている。真正面にあるテーブルの上には赤や緑、金色のプレゼントが山積みにされていた。袋や箱が雪崩落ちてきそうだ。暖炉から離れているから大丈夫だと思うがもっとプレゼントが増えたら火事になりそうだ。