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お昼はブロッコリーのサラダと約束通りボロネーゼを食べる。午後はまた仕事の続きだ。夕方になってジョリイが「ワン、ワン」と鳴く声が聞えた。外に居るのかと思って玄関の戸を開ける。ジョリイとアンジェリーナちゃんがいた。
「クリストフくん、仕事は如何?」
「楽しいよ、今日はね、近所の女の子のプレゼントがあったんだ」
「家が懐かしい?」
「まさかあ、ずっと、ここに居たいよ」
僕は二カっと笑う。
「今日はキャロラインちゃんも帰りにここに寄るって言ってたよ」
あの人形みたいに可愛い子が来てくれるなんて喜ばしい。虐待経験があるのは驚きだが、キャロラインちゃんには暗い影を感じない。苦しみを覆い隠して笑顔を作れるほど、このセントジョーンズ島は明るい街なのだろうか。
「キャロラインちゃんは誰と住んでるの?」
僕は訊いてみた。でも、踏み込み過ぎかなと言ってみてから後悔した。僕の口は不躾だ。
「お父さんとお母さんと住んでるよ」
そうか。良かった。誰かに引き取られているんだ。サンタイルさんやアンジェリーナちゃんのお父さんやお母さんみたいに、良い人だったらいいな。
「キャロラインちゃんが来るまでここに居る?」
僕は首を傾げて言った。
「うん、クリスマスプレゼントの仕分けを手伝うよ」
「子供にそれをさせたら悪いよ」
「ぶうー」
アンジェリーナちゃんは頬を膨らます。あまりに可愛くて笑ってしまった。でも、何故か目の端には涙が滲んだ。楽しい街と悲しい街、それがこのセントジョーンズ島のような気がする。ポタっと涙が落ちる。こんなに感傷的になったのは久しぶりだ。