(4)
「僕が住む予定の家とアンジェリーナちゃんの家はこの近く?」
「この坂をね、下って、上って直ぐ。広い庭を隔てた隣なの。この辺りは坂ばかりなんだ。疲れた?」
「ううん、景色が素晴らしいね」
坂の上から見る海は水平線が際立って美しく見え、遠くに船が浮かんでいた。テトラポットがある突き出した地の最先端には白い灯台があった。ダウンジャケットらしきものを着て帽子を被っている人が釣りをしている。
「あれは、お父さんだよ」
アンジェリーナちゃんが言う。
「そうなんだ!魚を釣ってるの?」
「うん、今夜のパーティー用。魚は食べられるでしょ」
「うん」
大好きだ。僕は嫌いな食べ物が無い。
「お母さんもね、朝からチーズたっぷりのピザを作ってるの」
ピザ!誕生日やお父さんのボーナスの時しか食べられないピザ。しかも手作りなんて初めてだ。想像するだけでお腹が鳴りそうだ。
アンジェリーナちゃんと坂を下っていると、真っ白い毛むくじゃらな大きな犬が左側の家の鉄柵で出来た門から顔を出した。鉄柵は隙間が大きくて犬の頭は簡単に出た。僕は突然のことだったので驚いて右側に跳ねた。狭い道は車の通りが無かった。車が走っていれば危なかったに違いない。犬は笑っているように見えた。
「ワン」
「あ、ジョリイ、これからパーティーだよ」
アンジェリーナちゃんが犬の頭を撫でる。
「ワン」
「ジョリイもおいでよ」
「ワン」
犬はそう鳴くとガチャリと門を開けて出て来た。繋がれていない。大丈夫なのか?
「この犬はジョリイって言うんだ!ゴメンねー。次から次へと紹介ばかりして!覚えられなかったら何時でも言ってね」
うん、そうさせて貰おう。いきなり知らない街にいて、知らない人たちばかりいて、犬まで紹介されるとは思ってもいなかった。それにこれからパーティーだからもっと人が増える可能性もある。
「アンジェリーナちゃんはずっと傍にいてくれるんだね」
「9時には寝ちゃうけどね」
「アハハ!まだ小さいからね!」
「うん、11歳なの!」
おお、小学5年生か。僕もそれくらいの時があった。小学校時代はイジメとは無関係だった。中学2年生から僕はみんなに居ないもののように無視された。僕の存在は亡霊のように生きていなかった。