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僕たちが帰る頃は雪がかなり積もっていて歩くのが大変だった。雪を掻き分けながらお父さんと広い道から狭い道へと歩く。
「サンタイルさんは優しいだろう」
「ええ、とても良くして貰ってます」
「クリストフくんが来る前にクリスマスプレゼントの仕分けに来ていた子も別れる時に泣いて騒いだよ」
フランスから来たっていう子かな。引き取る人が出来たってい聞いた。僕も僕を引き取る人が現れたら、この島を離れなくてはいけないのかな。そもそも僕の親はどうした?僕を捨てたのか。
「僕はずっとここに住みたいです。居たくなくなるまで居ていいんですよね」
お父さんは首を縦に振る。
「うん、それは勿論だ。特別な場合を除いてね」
特別!?また神の怒りに触れたらいけないとかイジメはいけないとか、うーん、そういう話だろうか。
「ここに居るより幸せな環境があれば、そこに移り住まないといけないんだ」
なるほど、そういう事か。僕はイジメられて、親にも虐待に近いことをされていて、だから、この島に来ることが出来たんだ。神さまが仕向けてくれたんだ。
「僕、何となく、お父さんの言ってること、分かります」
「そおかあ、そおかあ」
お父さんはそう言うと、僕の肩に腕を乗せる。僕はまだ来たばかりだ。このセントジョーンズ島に住むという実感が湧いてないのかもしれない。だけど、ここは夢のような場所だと思う。
サンタイルさんの家に着く頃はもう薄暗かった。坂の上から街を見下ろすと白い世界が広がり、僕が持つランプの光で落ちる雪がキラキラ光っていた。
お父さんと別れ、広い庭の敷地に入ると、きちんと雪かきがしてあった。サンタイルさんがやっておいてくれたのだろう。豆だなあと感心する。僕一人で釣りなんかして楽しんじゃって悪いみたいだ。ドアを開け中に入るとサンタイルさんはにこやかに出迎えてくれた。
「どうだった?釣れた?」
「はい。ちょっとだけですよ」
「おお!それでも釣れたんだ!夕ご飯は魚を焼こう」
「毎日、ご馳走ですね」
僕は口角をギュッとあげた。




