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お父さんは7時ちょうどに来てくれた。僕はサンドウィッチを持って家を出る。しんしんと雪が降る。道路には僕とお父さんが歩いた足跡が出来る。
テトラポットが置いてある防波堤に行くと、まず釣りの基本を教わった。餌の付け方、竿の投げ方。魚が掛かったらどうするか。知らなかったことばかりだ。お父さんに教えて貰った通りにして待っていると「ホラ、クリストフくん、魚が餌に食いついたみたいだよ」とお父さんが言う。
「えっ」
結局、手取り足取り教わって数匹の魚が釣れた。お父さんが頬をあげて言う。
「これだけ釣れれば上等だよ。中々、腕がいいね」
「そうですか?釣りって楽しいですね」
僕も頬をあげて答えた。
「今日はサンタイルさんにこれを料理して貰いなさい」
「はい」
話をしているとアンジェリーナちゃんとキャロラインちゃんがこちらに歩いてくるのが見えた。二人ともフード付きのアウターを着て温かそうな服装をしている。キャロラインちゃんの姿を見るだけで僕の胸は高鳴った。
「クリストフくん、釣れた?」
アンジェリーナちゃんに訊かれる。
「うん、ちょっとだけどね」
「おお!」
「お父さんに教わったからね」
僕は頬を掻く。キャロラインちゃんは「あの、クーラーボックスの中を見せてくれるかな」と言った。
「うん、もし良かったら持って帰って食べてよ」
「いいの?」
「僕はサンタイルさんの分が持って帰れればいいんだよ」
キャロラインちゃんがぱあっと顔を明るくする。魚が好きなんだ。よし、もっと釣りを練習して今度はエイダイが釣れるように頑張ろう。それから、ますます張り切って竿を振る。気が付くと夕暮れになった。アンジェリーナちゃんとキャロラインちゃんは先に家に帰って行った。




