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「卵料理、僕、好きですよ」
「そうか。日本の食事と違ってしまって悪いと思ってるんだ」
「日本も朝は卵を食べることが多いです」
僕の家は菓子パンが主だったが、みんなの家は違うのだろう。スクランブルエッグ、オムレツ、目玉焼き、納豆に生卵、朝の定番料理だ。
「じゃあ、今日はポーチドエッグにしようか。簡単過ぎるかな?」
「いえ、僕は好きですよ」
「熱い料理は熱いうちに食べるのが一番だろう。だから確認したんだ。ポーチドエッグを簡単に作って、早く食べて、クリストフくんの釣りの準備をしよう。僕が持っている防寒着を着て行けばいい」
サンタイルさんの服は大きいけれど防寒着なら多少サイズが違っても問題ないだろう。
「じゃあ、それ、借りちゃいます。お礼にエイダイを釣って帰ろうかなあ」
「アハハ!その意気だよ!」
僕たちは階段を下りてキッチンに行った。温野菜のサラダがテーブルに乗っていた。僕が5時に起きて、すでにここまで用意してあるってことはサンタイルさんは相当の早起きをしたのだろう。胸がキュンとする。男の人が好きになる趣向を持っているわけではないが、男の人を好きになる気持ちも分かる気がする。特にサンタイルさんはサラサラのロン毛できめ細やかな色白の肌をしていてグーリーンの瞳は大きい。背の高い美少女みたいなのだ。
「サラダまで作ってくれたんですか?」
「ああ、やっぱり男の料理だと栄養が偏るだろう」
そんなに気を使ってくれなくてもいいのに。夕ご飯と昼ご飯がきちんとしたものだから朝は簡単でいいんだ。
「僕は朝はメロンパンだとかアンパンでした」
「えっ、そうなの?」
「だから、朝は卵料理だけでいいんですよ」
「そうか?じゃあ、明日からは簡単にするよ。お昼は弁当を作っておいたんだ。サンドウィッチだけどいいかな?」
なんと!お弁当まで、感謝の気持ちで心の涙が溢れそうになる。僕はウルウルした目でサンタイルさんを見た。サンタイルさんはキョトンとした顔をした。
ポーチドエッグは黄身が半熟で凄く美味しかった。パンも今日はふかふかの柔らかいパンだ。このパンも噛めば噛むほど甘くて美味しかった。




