(31)
次の日は5時に目を覚ます。オルゴールの音は深夜は聴こえなくなるのだが、僕が起きる頃には心地いい音を響かせて家中に流れている。
今日もパソコンの電源を入れてみた。やはり、日本の僕が住んでた家が動画で映し出される。お母さんが僕を叱っているのが見えた。
「どうして、好き嫌いするの?人参も食べなくてはいけないでしょ」
「うわーん、うわーん、だって不味いもん」
僕が泣いて駄々をこねている。確かに小さい時は人参がダメだった。
「じゃあ、これからご飯は作らない!」
「嫌だあ、ご飯、ご飯」
「煩い子だね!クリスマスもケーキは無しだよ」
お母さんがタバコの煙を僕の顔に向かって吹き付けたのが確認出来た。僕はスタートメニューにマウスのポインタを持って行きシャットダウンしようと思った。過去の自分なんか見たってちっとも嬉しくない。
コンコン、コンコン、ノックの音がした。
「はーい」
僕はドアに向かって声を出す。
「クリストフくん、朝食は卵料理でいいかな?」
ドアの向こうで声がする。僕は歩いて行って木の扉を開けた。
「開けてもいいんですよ」
「いや、若い男の子の部屋を見るのは趣味じゃないからね」
「まったく、一緒に住んでる仲じゃないですか。遠慮しないでくださいよ」
僕は肩を竦めた。サンタイルさんはパソコンを凝視している。ヤバい、動画を見られた!?
「あれが、パソコン?」
「そうですよ、見られちゃいましたか。僕の小さな頃」
「いや、僕は目が悪いからよく見えないんだ。クリストフくんの小さい頃が見えるのか?」
そうか。何時も掛けている黒縁眼鏡を外している。ラッキーだ。
「いえ、いえ、なんちゃってー。僕の小さな頃が見えるわけないじゃないですか!」
苦し紛れに嘘をつく。サンタイルさんは「そうだよなあ」と言ってウンウンと頷いた。




