(29)
「そう言えばパソコンはどうだった?」
サンタイルさんが僕に訊く。どんより重い物が心に圧し掛かる。
「朝、ちょっと弄っただけなので分かりませんが、不具合は無いと思います」
まさか、僕の4歳の時の動画が流れたとは言えない。心温まる光景だったらいいが、虐待に近いことをされていた。この人たちは何も知らないみたいだ。神さまの悪戯だろうか。でも何処か遠くへ行きたいと願ったのは叶えて貰っている。だから神さまに文句は言えない。でも、如何して?
「そう、良かった、僕たちはパソコンなんて使えないからね。アハハ!」
サンタイルさんの笑い声が虚しく心に響く。
料理をすべて食べ終わって帰路に就く。持っているランプの灯に照れされたサンタイルさんの顔は凛々しくてカッコいいと思った。寒さに身を震わせながら歩いていると白いものが空から落ちてきた。雪だ!雪はサンタイルさんの金髪の髪に落ち溶けてなくなる。僕は掌を上に向けて雪が降ってくるのを受けとめる。雪は手の温度ですぐに液体になって消える。
「サンタイルさん、雪だね」
「ああ、今年は少し遅かったよ。積もるといいなあ。ジョリイが喜ぶ」
「僕も好きでした」
雪が降る夜は静かだ。すべての不快な音をかき消してくれる。でも、ここには嫌なことなんてないかな。空を見上げる。大きな雪の華が次から次へと舞い落ちる。
家に入り、サンタイルさんが暖炉に火を点ける。パチパチと音をたてて薪が燃えた。
「お風呂も溜めないといけないな」
「僕が薪をくべますよ」
「いや、お風呂はガスだよ」
なんだ、そうか。そう言えばキッチンもガスだった。暖房もガス式にすればいいのにな。でも暖炉の火の方が趣があるか。
「お湯が出るんですか?」
「ああ、ぬるいから温め直さないといけないけどね」
「なんだ、だったらもっとワインを飲んでもよかったのに!」
「いいや、クリストフくんが来てから毎日のように飲んだらいけないだろう」
サンタイルさんは照れたように言う。気を使ってくれたんだ!ちょっと嬉しい。こんな些細なことで喜ぶのも僕がイジメられてきた経験がものを言うのだろう。陰湿なイジメ。無視。上履きにつけられた泥。ノートに書かれた『ウザい、消えろ』の文字。