(13)
「そうだ、ピザも焼かなくちゃね」
「ああ、でも飲んでるから急がなくていいよ」
お父さんが言う。
「子供たちが可哀想でしょ。魚だけじゃ」
でも、フランスパンらしきものもあるし、肉もある。僕はまだ我慢が出来る。
「まだ、いいです」
僕が手を左右に振ると、お母さんがクスっと笑う。
「子供は気を使わなくていいんですよ」
そうか、親に気を使う癖がついてしまっていた。怒られないようにするため、機嫌を損ねない様にするため、何時からかタバコの煙を顔に掛けられないよう細心の注意を払っていた。
「じゃあ、ピザ、食べたいです」
アンジェリーナちゃんが「私も、私も」と言う。
「今日はね、ジョージおじさんがお祝いにってハムをくれたの。ハムとチーズのシンプルなピザですよ。魔法でピザを作ることが出来るけど魔法じゃ味気ないでしょ。きちんと手作りしたんですよ」
おお!シンプルイズベストだ。だが、待てよ、魔法って言った。魔法で料理が作れるのか?不思議な島だなあ。だがピザは嬉しい。僕はよくコンビニでハムとチーズのパンを買う。焼けた香ばしいチーズにジューシーなハム。早く食べたい!
「そういえば、ジョージおじさんは来ないんですか?」
「ああ、あの人はね、夜、遅くまで仕事してるの。この島はね、漁師が多いから、みんな家に帰るのは夜なの。だから買い物も夜になってしまうわけ」
そっかー。ジョージおじさんが来ないのは寂しいが、あまり人が多いのも緊張が高まったかもしれない。
ピザは直ぐに焼けた。チーズがとろり生地からはみ出していて、ハムは厚くて食べ応えがあった。
「美味しいね、美味しいね」
僕は子供のように喜んだ。
お父さんとサンタイルさんは少しすると赤い顔をして酔ったようだった。お母さんも少し饒舌になっている。
「クリストフくん、サンタイルさんの手伝いも大事だけど、お父さんの釣りも習ってみない?」
そうか。僕はお父さんの仕事を知らなかった。釣りで魚を売って生計を立てているのかな。




