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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

JK百合小説

作者: ロトウ

【登場人物】

長瀬川藍(ハセガワアイ)

陰キャ。男に興味が無い。


虎南由香(トラナミユカ)

陽キャ。明るく、天然な性格。


福見真希(フクミマキ)

陽キャ。由香の友人。


ーーーーー


私は人と違う感情を持っている。

それは、異性に心を動かされないということ。

テレビの中の俳優さんを見て、『かっこいいな』と思うことはある。

でも、それでおしまい。それ以上の感情は芽生えない。

例えば、そう。

『恋愛感情』ってやつは。


ーーーーー


教室への廊下を、私は独り歩いていた。

すれ違う人々の、楽しそうな声を掻い潜りながら、心の中で、今日も退屈だな、とぽつりと呟いた。

「おっはよーあいちゃん!今日もテンション低いねー!」

いきなり背後から飛びつかれた。背中に柔らかい感触を覚える。

「…おはよう、由香。今日も一段とテンション高いね」

「えっへへー!元気だけが取り柄だからね!」

と、彼女は、虎南由香(トラナミユカ)は自慢気な笑顔で答える。

根暗な私と、明るい彼女。

正反対とも言える私達だけど、何故か仲がいい。

小学生の頃から本だけが友達で、クラスに馴染めず、教室の隅で独り本を読む私に、声をかけてきた変わり者。

それが彼女であり、私達の出逢いでもあった。

既にたくさん友達がいた彼女がどうして私に興味を持ったのかは分からない。

一度だけ彼女に聞いた事もあったが、「忘れちゃった」とはぐらかされた。

いや、大雑把な彼女の事だ。本当に忘れているだけかもしれない。

そして、私もそれ以上追及はしなかった。

知りたくないわけじゃなかったけれど、なんとなく、それ以上聞くのは野暮だと思ったから。

そんな訳で、私達の間には不可解な友情があった。

身体にずしりとのしかかる彼女を払い除け、スクールバッグからジャージを取り出し、彼女に手渡す。

「…?何これ」

きょとんと、間の抜けた顔でそれを見つめる彼女。

「ブラ、今日も付け忘れたでしょ。上にそれ着なよ」

一瞬、何を言われたか分からなかったのかボーッと私の顔を見つめた後、カッターシャツの中を覗き込み、分かりやすく赤面した。

ようやく自分の状態に気付いたらしい彼女は、慌ててジャージを羽織る。

「…じゃあ、私もう行くね」

彼女を背に、自分のクラスへ歩を進める。

背後から彼女の呼ぶ声が聞こえたが、チャイムによって掻き消された。

私達は高校2年生。

進級と共に、クラスは離れ離れになってしまった。

私達は、今日も違う人生を送る。


ーーーーー


キンコンカンコンと、終業のチャイムが鳴る。

終礼を終え、スクールバッグに荷物を詰め込み、教室から出ると、廊下の先から元気な声が響いてきた。

「あいちゃーーーん!一緒に帰ろーっ!」

振り向くと、彼女がこちらに手を振っていた。

私が渡したジャージは暑苦しかったのか、ノーブラだった事をもう忘れてしまったのか、腰に巻いている。

彼女の方へ近づいていくと、バッと両手を広げ、迎え入れるかのように私を待つ。

いつもの事だ。いつも彼女はハグを求め、私が適当にあしらう。そして彼女は嬉しそうに笑う。私達のお決まりの馴れ合い。

だけど、今日は違った。

理由は私にも分からない。

ただの気まぐれだったのかもしれない。

私は。

彼女を強く抱きしめた。

「うえぇっ!?ど、どうしたの?あいちゃん?」

戸惑う彼女。

私だって何が何だか分からない。

ただ、何故かこうしてみたくなった。

彼女の胸の中で、全身で彼女の温もりを、鼓動を、匂いを感じる。

その感覚は、初めての筈の感覚は、妙に私を落ち着かせた。

少しずつ、彼女の鼓動が速くなっていく。

「あ、あいちゃん…恥ずかしいってば…!」

顔を赤らめながら訴える彼女。

正気に戻った私は、慌てて彼女から剥がれる。

「どうしたの?あいちゃん。今日はやけに積極的だけど…」

「…ごめん」

「いや、謝らなくていいんけど…。ただ、ちょっとびっくりしちゃって…」

「そっか…」

「うん…」

「…」

「…」

2人の間に、気まずい沈黙が流れる。

…何をしているんだ?私は。

そんな事をして彼女を困らせて何になる?

そして何より…

どうして、私はこんなにも満足している?

どうして快感を覚えている?

「由香ー?帰りにカラオケ寄ってかなーい?」

沈黙を破ったのは、彼女の後ろから響く声だった。どうやら彼女の友達らしい。

「あ、真希!えっと…」

チラリと私の方を見る彼女。私は答える。

「…私、今日は1人で帰るね」

「えっ?ちょ、ちょっと…」

逃げるように廊下を走り去る。

ここから私達は、少しずつ道を間違えていく。


ーーーーー


私は、家への帰路を真っ直ぐ歩いていた。

思えば、一人ぼっちで帰るのは久しぶりだった。

由香と知り合ってから、学校帰りにどこかに寄らず帰るなんて初めてだった。

たいていゲームセンターだったり、ファストフード店だったり、カラオケだったり…

所謂「女子高生っぽい場所」の数々。

それらは、私には縁のない場所だと思っていたけれど、由香に連れられてすっかり馴染みの場所になってしまった。

ちょっと前までは一人ぼっちが私にとっての「日常」だったのに、いつの間にか由香と一緒にいることが「日常」になってしまった。

…そして今日。

私は、「日常」を壊した。

「自分の手で」壊した。

「かけがえのないもの」を。

…だと言うのに。

この気持ちはなんだろう。

「日常」が。

「かけがえのないもの」が壊れてしまったというのに。

どうして私は快感を覚えているんだろう。

「かけがえのないもの」を壊す背徳感。それが、堪らなく快感だった。

そんなことを考えていると、もう家の前だった。

…ああ、何処にも寄らないで帰ると、こんなに早く着くんだっけ。なんて思いながら鍵を開ける。

階段を上り、自室のベッドに寝転がって、スマートフォンを取り出す。

空っぽだった写真フォルダは、由香との「思い出」で溢れてしまった。

…ふと、思い付く。

由香と一緒にいることが私の日常で、今の私を形作るものだとしたら。

「由香との友情」を壊してしまったらどうなつてしまうのだろう。

どれだけの快感を得られるのだろう。

気になって、仕方なくなった。

私の心を満たす方法が、ようやく見つかった気がした。

中学の頃に書いた話です。

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