間章その一『星波学園の人々』17
★飛矢折★
生徒会室を出る時、彼は何だか別れ際の……子犬の様な雰囲気を出していた気がする。
……いえ、気のせいかな?前髪で目を隠してるから、ちょっと表情が読み難いし……そこまで思われるほど、優しくも、親しくも接していない。
それにしても……彼、本当に武霊使いなのかな?……とても、噂で聞くほど、強い人には見えない。体格も、筋肉の付き方も、歩き方も、気配も、驚くほど普通だったし……
そんな事を考えながら教室に戻っていると、前方から言い争いながらこっちに向かってくる二人の女の子がいる事に気付いた。
さっき見た生徒会長と赤井美羽の二人だった。
無言でじっと見ていると、二人は私の視線に気付き、驚いた顔をして……少し間を置いて一礼して早歩きで通り過ぎる。
あの事件後……いえ、『事件の後にしてしまった私の失敗』を知っている武霊使い達は、こうやってみんな、私を避けてる。
武霊に恐怖を感じている私に配慮してのことだろうけど……恐怖を感じると共に『条件反射的に技を掛けてしまう』のが……避けられている最大の原因かもしれない。
……本当に……私は修行不足だ。
★夜衣斗★
生徒会室に琴野生徒会長と何故か美羽さんが入ってきた時、俺はやや限界だった。
いや、何と言うか、何も無かったんだけど、何もなかったからこそ耐えられなかったと言うか………何にせよ助かった。
「お待たせいたしましたわ。黒樹夜衣斗様。わたくしが、星波学園高等部生徒会会長兼、星波学園統合生徒会統合会長の、琴野沙羅ですわ。以後お見知り置きを」
そう言って俺に向かって一礼し、ほほ笑む生徒会長。
俺も立ち上がって一礼し返す。
「相変わらず長い名乗りね……舌かまない?」
そう言う美羽さんに、一瞬、頬を引き攣らせる生徒会長。
……何か、俺といた時と雰囲気が違くないか美羽さん?
「噛みませんわ……そんな事より……赤井さん。さきほどから何度も言ってますが、何であなたがここにいますの?部外者は出てってくれませんこと?」
「嫌よ」
「……で・て・い・き・な・さ・い!」
「い・や・よ!」
「……………」
「……………」
睨みあったまま沈黙する2人。
あ〜なるほど、確かにこの二人相性が良くないみたいだ……何と言うか、どうしようも出来なくって、おろおろしてしまうな。
そんな二人の背後に不意に、二人の武霊が現れる。
ゲっと思うと同時に、それまで黙っていた村崎さんがバンっと思いっきりテーブルを両手で叩いて立ち上がった。
ビックっとして、まるで錆びついてでもいるかの様にゆっくりと村崎さんを見る二人。
村崎さんの顔を見ると、さっきまで無表情だったのが嘘かの様な笑顔になっていて、その背後には雪女の様な武霊が、村崎さんに薄ら笑いを浮かべながら枝垂れ掛かっていた。
具現化をしていないと言うのに、何だか部屋の空気が寒くなったような気が……。
「二人とも………喧嘩はよくありませんよ?」
そう村崎さんに言われた美羽さんと生徒会長は、慌てた様にブンブンとそろって頷いた。
後で村雲に聞いた話なのだが、村崎さんはキレると部屋ごと彼女の武霊・雪歌で凍らせえてしまうらしく………美羽さんと生徒会長は度々凍らされ、トラウマになってるらしい。
……なんだかな……。